能登半島地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
登場人物
ミサキ(15歳)記憶を失った少女 必死に過去を思い出そうともがき苦しむ
イズミ(35歳)ミサキの主治医 退行催眠の使い手
ケン(28歳)イズミの助手
スゲじい(75歳)ミサキが発見された幹線道路沿い付近自治会長
あらすじ
二人の刑事がやって来てから、ミサキの心の中は尚一層に混乱が渦巻く。だが、彼女は回りが感じていたより強かった。絶対に本来の自分自身を「顔」取り戻すべく、奮闘する。
第五話 スゲじい(知っている事話すよ。あの世から)
豊臣菅由(とよとみ すげよし)なんて名前に生まれついたのを恨んだものだ。
子供の頃は特に酷かったな、今でいう「いじめ」とやらだ。
家は比較的豊かで両親共に教師。
昔からの土地持ちでいわゆる地方の名士、豊臣姓もあながち嘘じゃ無い気がしている。
そんのこんなで学校もろくに通えず、今でいう「引きこもり」ってだ。
無論、友達なんてもん、一人もいなかったが、何故か、犬だけには好かれるようで…。
死ぬ度に、飼ったよ。
最後はチワワの「ラム」だった。
ちっこい子だったけど、やたら好奇心が強くってね。
あの日も、いつものようにように幹線道路沿いを散歩していてね、ここら辺は例の精神科施設のせいで、昼間でもだーれもいないんよ。
突然、「ラム」のヤツが走りよって、さ、雑木林ん中見たら、びっくりだよ。制服きた女の子が倒れてたんだよ。
服は乱れていなかったが、持ち物は全部なかったのがなんとも不自然で。
最初はここらでよくある強姦事件だと思ったが、違和感があった。
横たわっている、彼女が何か訴えるような感じがして、言葉では上手く言い表せないが、不思議な気持ちがした。
でも、こう見えて自治会長もやってる、正式に言うとやらされている俺が通報しないわけにはいかない。
今は亡き両親がこの地区で俺が生きていけるように、自治会長にさせたってわけ。
そんなことどうでもいいか。
スマホ片手に通報したら、まもなく顔見知りの駐在がやって来た、そいつがまた、スマホで連絡してたな。
今度は、知らない「顔」の警官が何人もやって来て、俺を無理やりパトカーに乗せ事情聴取とられた。
「ラム」は責任持って、自分が世話すると、駐在が言ってたってか。
事情聴取で、知っていること全て話したら、速攻返してくれた。
両親が死んだあと、一人ぐらしだったから「ラム」が気になって、気になって、しょうがなかったが、けど、帰ってきたら、ちゃんと「ラム」は餌も貰っていて、(どうして、餌の場所が分かったんだろうか?)安心した。
あの駐在、思ったよりいいやつだったかも、って思ったさ。
暫くして、落ち着いてくると、彼女の様子が聞きたくなった。
何度か駐在所に連絡したが、「守秘義務がなんたらこうたらで、話せないんですよ」って言うだけ、その言葉の繰り返しのみ。
最後の日の事も話すよ。
何時ものように、6時過ぎに目覚め、朝食用に、好物の珈琲(インスタント)をスプーンで二杯入れ、お湯を注ぎ、その芳醇?な香りに満足し、一口飲むと、突然胸がくるしくなり、そのまま倒れ込んだ。
ともかく苦しかったが、暫くすると、収まった。
しかし、身体が動かない、死んだら、魂が抜けて、自身の姿を見るって言われてるけど、あれって本当だよ。
口から泡を吹いて息絶えてる俺の姿が見えたんだから。
「ラム」は好奇心旺盛だけでなく、賢い子だった。
近所のおばちゃんの家まで掛けていって…。
あのちっこい身体で中年太りのおばちゃんの袖を引っ張って、家まで連れてきた。
それで、例の駐在がやって来て、また例の「顔」も知らない警官達がやって来て救急車に俺を乗せた。
「心臓発作ですね。」
中年太りのおばちゃんに駐在が説明したけど、口から泡が吹いていたのに心臓発作はおかしいって、おばちゃんは食い下がったが、取り付く島もない。
って事で俺は無理やり心筋梗塞とやらで亡くなった事にされた。
葬式も滞りなく終わった。
俺は絶対に薬盛られたに違いないって思っているが、なんてったって死んでんだから、「死人に口なし」とは、よく言ったもんさ。
情けないが、事件に巻き込まれたのは本当さ、俺は、殺された、心筋梗塞とやらじゃない!!
しかも、一人暮らし、「奥さんが見つけた」って刑事が言ってんの嘘だよ。
あの子が心配でオチオチ死んでもいられない。
話が出来たらいいのに、こっちには見えてもあっちには俺の姿は見えないって不便だな。
今少し、この子の近くにいてやりたいが、時間迫っているのが、感覚で分かんだな!
ミサキちゃんか、名前が分かったからって、話せないし「あんたが倒れてんの俺が見つけたんだって…。奥さんなんて俺にはいない!一人暮らし。しかも、毒もれれて死んだんだ。二人の刑事とあの駐在は大ウソつきだ。きっと何か見たんだな。アイツらにとって都合が悪い何かを?そういや、ミサキちゃんの衣服乱れていないのに、やたら不自然だった。持ち物が無かったんだ。
「バタン」車のドアを閉めるが、これで全てが終わったわけでは無い。
「警察からの要請で、刑事が二人これからそちらに向かいます。ミサキさんに是非ともお話がしたい。」
そんな内容を電話越しで話したらあっさりと施設側の承諾が貰え、二人は安堵した。
「なあ、俺たちのやってることって一体全体何なんだろう、あんた知ってるか、わざわざ刑事なんて嘘ついてまで、まあ、あの人には逆らえないから、仕方が無いが…。」
「考えんじゃない!言われたとおり、刑事のふりしてミサキとやら、女子高生から当時のこと覚えてるか確認すれば借金チャラになんだろ!。」
この刑事を装った二人連れはなんてことはない、ただのギャンブル好きが高じて借金を抱え、名前も「顔」すら知らない男からこの条件付きで借金をチャラにしてもらっただけで全く事件?の経緯なんて知らされていない。
ただ、ミサキが近くの雑木林で見つかり、第一発見者の爺さんが亡くなったって脅しかけりゃ仕事は終了。
「なあ、俺たち、もう、ここに来なくていいんだよな?あの人約束したよな。俺ここの施設苦手だわ。なにか気味わるくってさ。」
「あの人は約束した。これで終了だ。あんたと俺の銀行口座に金入っているはずだ。」
「おう、これから確認するわ。あんたともこれでおさらばだな。あの人の指示通り、近くの駅まであんたを送っていき、このレンタカー返して二度と合わない約束だ。こっちから、あの子の記憶は戻っていないって言っとくから。」
施設近くの幹線道路に止めてあった車はその役目を終え姿を消した。