登場人物
ミサキ(15歳)記憶を失った少女 必死に過去を思い出そうともがき苦しむ
イズミ(35歳)ミサキの主治医 退行催眠の使い手
ケン(28歳)イズミの助手
あらすじ
幹線道路の雑木林で発見された主人公「ミサキ」気が付くと、病院ベッドの上に自身の姿があった。
院内全体白く塗潰されている奇妙な建物はただでさえ不安な彼女の心をなお一層、辛くする。
若い女性医師「イズミ」と共に院内の観覧に出かけるが、その奇妙な雰囲気に戸惑いを隠せない
第三話 白い巨塔?(精神科施設ってこんなもん?)
ゆっくりとベッドから身を起こし、女性医師「イズミ」の肩につかまりながら部屋(一人部屋)を後にした。
扉の外(一回だけ、ちょこっと見たことあるが、内緒の話)ただ、だだっ広い廊下で一面真っ白。
これじゃ、思考能力低下するわ、もしかしたらそれがこの病院?の狙いかも。
そんなこんな考え込んでしまい、無言になっている私にイズミ医師から話しかけてくる。
「貴方のような患者さんは珍しいのよ。まだ言っていなかったけど、ここは○○県の精神科施設なの。」
やはり、そんな感じだと思ってはいたが…。
現実に医師の口からそれを聞くと改めて生きていて良かったと思った。
「私のように、意識混濁状態で運ばれて来る人もいるのかしら。」
「ま、珍しいけど、無いわけじゃ、無い。」
随分と中途半端な物言いいをするとは思ったけど、今は話合わせるっきゃない。
「患者さん、一人もいないようだけど、どうして?」
「ここの階、あ、6階ね。ここは比較的軽度の方々が治療に専念していて、そうなるとね、何故か理由がないと部屋から出てかなくなっちゃうのよ。私達病院サイドからすると楽なんだけど、退院可能で自宅療養できる患者さんを引き留めてる様で、それって、お互いに良くないのよ。こっちだって病院経営していかなくっちゃいけないし。」
このイズミって医師こんな事言っていいと思っているならかなりやばいかも。
そのうえ、トンチンカンな先生みたいだし、もし、優秀な医師でおバカさんを装っているのなら…。
逆に優秀ってか?
今日の私、頭んなかクエッションマークだらけだわ。
なんか、納得できることが一ミリも無いって感じで…。
「なに、今何か言った。」
「いいえ、ちょっと思い出したことがあって、先生聞いてくれますか。」
「当たり前でしょう。どう、これから私の研究室に来ない。二人っきりで誰にも聞かれずに、黙っていて悪かったけど、ここら辺り、見えない様に監視カメラ着いてるのよ。初日にも言ったと思うけど、今なにかと物騒で、ついこの前、何時だったかな、貴方が救急で運ばれてくるちょうど2日前かな、以前入院していた患者さんが突然一階の案内所にやって来てね、「院長だせ、俺の顔返せ!」なんて訳の分からない話を切り出されて、もう、警察もんよ。結局納得はされなかったけど、お引き取り願たってわけ。そんな話はどうでもいいわね。なにか思い出したんでしょう。さあ、エレベーターに乗ろう。」
そういうと、否応なく、真っ白な廊下の端にある真新しいエレベーターのボタンをイズミ医師は押した。
エレベーターの中には勿論大きな鏡が張っているが、やはり、顔が違う。こんな顔じゃ無かったはず。
無意識に鏡から目を外すといきなりイズミ医師の顔面がそこにあった。
まるで
見透かされているようで…。
「どした、気分悪い、大丈夫、顔色悪いよ。部屋に戻ろうか。」
「いいえ、大丈夫です。忘れないうちに聞いて欲しいです。まだ、記憶が曖昧ですから。」
暫くすると「チン!」という例の音と同時にエレベーターの扉が開く。
3階の文字と共におびただしい小さなドアが列を成しいて、おそらく研究室だろうか、左右10部屋づつ位だから合計20部屋はあったと思う。
真っすぐ目的地の部屋に進みイズミ医師があからさまに胸からぶら下げているカードをタッチすると、ゆっくりとドアが開く。
中へ進むと「無機質」という言葉がピッタリな様相で棚にはびっしりと訳のわからない本が鎮座していた。
どうやら、入室すると自動でライトが付くみたい。
塵一つない。
そこにPCが乗ってる、机と椅子。
真ん中にはテーブルと二つの椅子が対面している。
イズミ医師は私を座らせるのに椅子を引いてくれた。
じーっと私の目を見て…。
「なにが言いたいの。なんか言いたいことあるんじゃない!」
意外にも心中見透かされていたんだ。
さすがに精神科医?だけの事あるわ。
「いいえ、本当に思い出したんです。あの日、誰かと一緒だったってことを。けど、どうしても顔が思い出せない。いえ、顔が無かったのかも知れない。」
「焦らないで、ゆっくりと思い出して、そうだ、隣りの部屋に移ろうか。そこにベッドが置いてあるから、まずは横になってもらってね。」
そういうと、私(ミサキ)の手を取り、部屋の中から隣室に入れるドアノブを回し、廊下には出ず、誘った。
イズミの言う通りで何処にはベッドが備え付けてある。
横になるように言われ成すがままに何故か逆らえず、身を横たえると、イズミは白衣の胸ポケットから円錐形のキラリ光るペンダントを持ち出して。
「ゆっくり、呼吸を整えてね。このダイアモンドの光に出来るだけ集中するの。目を閉じて、時計のハリをネジを巻き戻すの、貴方の意識の奥のずーっと奥に入って行って、そうよ、上手ね、何か見えたら教えて、あ、決して焦らないでね。」
イズミ医師の発する言葉に反応するかのように、目を閉じているのにも関わらず眼前が開けてくる鈍い感覚が私の意識を覆う。やがて、その意識は形を成していき…。
大きな目が私の目を見つめている。
その目は…。
驚くかのごとし…。
正に、鏡の中に映る私らしき人物の目そのものだった。
借りの私の目が本物の私を見つめてこう言った。
「貴方の顔大っ嫌い」っと一言だけ。
「私の目が私を見ている。大っ嫌いって言ってるの、先生 た・す・け・て」
気が付くとそこは私の部屋のベッドの中。
「大丈夫、イズミ先生の部屋で気を失ったんですって。」
例の名無し看護師が、驚いたように私の顔を覗き込んでいる。
「なにか、飲み物でも買ってこようか?」
買ってくるって、この病院にはコンビニでもあるっていうのか。
「分からないでしょうが、廊下の突き当りに自販機あるのよ。冷たい飲み物でクールダウンしよっか。」
冗談まじりのつもりかも知れないが、正直笑えない。
「お願いします。」
その一言を発するのが精一杯な状況なのに、この人ったら、いや、いけない。
イライラしても、何の徳は無い。
イズミ医師のベッドでの治療をきっかけに、私の不信感は加速していく。
誰もかれも信じられん!
暫くすると、名無しさんはペットボトルのお茶を持って来てくれた。
「お金、お金私持っていないはず。」
「いいのよ、これはイズミ先生からのおごり。だいたい、貴方持ち物全部持ってかれたんだから、仕方ない事よ。それと落ち着いたら警察の人が面会したいって、イズミ先生からの伝言よ。焦らなくていいから、私達が全力で貴方をお守り致します。」
笑えない。
ゆっくりと上半身を持ち上げて冷えたお茶を「コグリ」一口すすると、甘い香りと共に不思議に心が落ち着く。
回りを見るともう、名無し看護師さんの姿は消えている。
「足音を忍ばせて出ていったのかしら。そこまで気を使ってくれなくってもいいのに、案外皆いい人かも。私が冷静でいられなかったのが原因かも。」
ぽ・つ・り独り言が出てしまった。
そうだ、もう一度トイレの鏡見に行ってみよう。
全部、私の勘違いかも知れない、が、それは淡い期待でしかなかった。
そこには例の記憶らしき物の中で私自身を見つめていたあの人物の目そのものだった。
涙が一粒、再び不信感が増してくるのを否めない。
薄れゆく意識の元で揺らぐ心。
「本当の顔、取り戻すんだ!」
ミサキは大きく溜息をつき、誓った。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ソデッチでした!
じゃ、まったねー!!!