明るくなる前から うごめく。届いたばかりの魚たちと 働くひとびとの生きた湿度であふれる 早朝5時の市場。番号のふられた棟の中 シャッターの隙間から人の気配と白い灯。いくつかあるお食事どころのなかからここを目指してきた。広島市の西 広島中央卸売市場の大衆食堂 天狗屋食堂。
天丼 と棟内通路のど真ん中、それから暖簾に、店内に、大きな2文字がみつかる。お品書きには、めし みそ汁 あさり貝汁 天丼。少数精鋭。



店内に入ると、左手にショーケース。目玉焼きの鮮やかな黄色に視線を奪われながら 他の魚や肉料理にも きもち持っていかれそうになる。後ろ髪引かれながら席に着く。今日目指してきたのは 天丼。通い慣れたような素振りで 続いて入店したそのひとは、入り口で立ち止まり お惣菜のなかから2皿手にとり席についた。初来店 カツ丼目当てのわたしにはできない。彼はこの店において手練れである。一目置いた。



カツ丼が卓上に届く。黒い器のなか 濃い黄色のまぶしすぎる卵にとじられて 所々のぞく海老天2尾。まだ外は薄暗く 棟内も穏やかな明るさ。そんな中 叩き起こしてくれそうな黄色だった。



たくあんとあさり貝汁も揃って 口に含んだひと口目。黄色の濃さは色だけに留まらず 口当たりにまで濃く甘い どろっと絡んだたれは 米にも降りてきて すべて抱え込んだみたい。そのたれに負けなかったのが 海老の衣。とろっとしているたれは 丼を包んで染み込みすぎず、サクッと海老天の存在ものこしてた。 足並み揃った丼のチームワーク。
かつて卑しいと言われた 飯の上に具をのせるもの。いま、食堂に欠かせなくなっている丼もの。人びとは その美味さに抗えなかったようで 忙しい市場の真ん中にも 丼もの文化は残ってくれている。さくっとたべて行くためのスタイル。器の中から 市場を照らしてくれる