「いちょう散る南向きのお窓で
お便りをしたためる私の喜びを
お察しくださいまし・・・」
1972年9月に発売されたあがた森魚さんのアルバム「乙女の儚夢(ロマン)」に収録されている曲。
歌ではなく、内容は哀切なバイオリンの調べに乗せて、故郷の「お母様」に宛てられた乙女の手紙が朗々と読み上げられる、というもの。
わずか1分7秒。
朗読は小坂陽子さんというお名前の方のようです。
ラジオドラマを聴いているような雰囲気。
というよりは、このアルバム自体が演劇の要素がふんだんに取り入れられているようで、その演劇の幕間に挿入されるワンシーンのような印象。
手紙の朗読だけに「書き言葉」ですし、また大正期~昭和初期と思われる時代背景の古風な(そして同時にバタ臭い)言い回しがなんとも不思議な魅力を持っています。
試聴していただいてほんの少しだけでもその雰囲気に触れていただけたら、と思ったのですが、探した範囲では試聴できるサイトを見つけられず残念です。
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「乙女の儚夢(ロマン)」。
先にも少し触れましたが、このアルバムには演劇の匂いがぷんぷんします。
一つの曲が「一幕」という単位。
その幕間に「春の調べ」やこの「秋の調べ」、そして「曲馬団小屋」があったり。
このアルバムには「乙女」のエピソードで彩られていて、オムニバスのような構成になっているようです。
そのいくつかのエピソードの中で、「春の調べ」「瑠璃薔薇学園
」「秋の調べ」「冬のサナトリウム」が同じ少女のエピソードではないかと私は想像しているのですが、さてどうでしょうか。
「女の友情」もこの中に加えてもいいかも知れません。
この芝居仕立てのアルバム、あがた森魚さんの演出で舞台化していただけないかな、なんて密かに思っています。
例えば、下北沢あたりの小劇場で実際に公演されていそうなお芝居の感じもしますし。
あがた森魚さん監督で映画化、というのもありですね。
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「いちょう散る南向きのお窓で・・・」。
このフレーズから連想するのは、与謝野晶子さんの有名な短歌、
「金色の小さき鳥の形して
いちょうちるなり夕日の丘に」。
晩秋の頃、いちょうが金色に輝いて散りゆく様が美しくも物悲しいですね。
このいちょうは「はらはら」と散るのですね。
「ひらひら」ではなく、「はらはら」と。
もう少し想像を膨らませていくとこの詩にも。
「秋の日のヰ"オロンのためいきの身にしみて
ひたぶるにうらがなし・・・」。
ヴェルレエヌの「落葉」です。
「秋の調べ」がバイオリンの音色に乗せて語られたものですから、「落葉」とイメージがぴったり重なります。
「秋の調べ」を聴いて、与謝野晶子さんやヴェルレエヌの作品を想ってみるのもなかなかいいですね。
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おおっと、私のイメージに反して「文学」してしまいました。。。
「芸術の秋」ということで、たまには、ね。
◆晩秋~冬の足音