年が明けてから、受験生の答案を採点していますが,三段論法ができてない答案が多くて気になっています。正確にできている受験生は二割くらいな印象です。



そもそも,三段論法の理解が不十分な印象なので,ここで少しおさらいをしてみたいと思います。






法的三段論法は,大前提 A→B 小前提 C→A  という二つファクターからなっています。


この二つのファクターがそろうと、


    A→B

 C→A

 C   →B  


 もいえるというのが三段論法の論理的構造です。


法律答案では,この論理パターンになるように規範定立とあてはめをすることが期待されており,このパターンで答案を書かなければ,点数が伸びません。 具体的には,この論理パターンは,法律答案においては,以下のような対応関係になります。。 


     ①A(要件)→B(効果)

     ②C(事実)→A(要件)



答案的には,①が規範で,②があてはめになります。


ここで,C(事実)→B(効果)という状態に持っていくためには,しっかりと、①A(要件)→B(効果)という規範を定立したうえで,②C(事実)→A(要件)の論証を正確に実行する必要があります。


②の論証をしっかりと実行するとは,規範を正確に繰り返すということです。





例えば,簡単な例として,瑕疵担保責任の瑕疵のあてはめを例にとってみましょう。





「瑕疵」とは、当事者の契約の趣旨に照らして、目的物が通常有するべき性能を欠くこという。(★この部分が,①A(要件)→B(効果)に対応します  )





この場合に,あてはめを正確にするというのは,この規範を正確に繰り返すということです。



青の部分が,少しでも抜けていたりすると,それは C→Aではなく,「C→a」みたいな感じになると考えてください。


C→aだと,三段論法を守っていることにはなりません。


これを上の三段論法の原則にあてはめみましょう。



 この場合,   A→B(大前提)

      C→a  (小前提)


という状況になります。(この場合,a→Aという論理がなければ,C→Bにはなりません。)



あてはめが正確になされないと,三段論法が充足されないことになってしまいます。


このあてはめと規範の微妙なずれは,受験生の答案で散見されます。 三段論法を正確に機能させるためには,時に愚直なまでに規範を反復する必要があるのです。



そこで,正確に三段論法を機能させた平成26年司法試験の設問1における「瑕疵」のあてはめを見てみましょう。





≪あてはめ例≫  「瑕疵」とは、当事者の契約の趣旨に照らして、目的物が通常有するべき性能を欠くこという。

 本件では、Aは、甲建物の安全性に強い関心を持っており、CもAによる問い合わせに際して甲建物が最新の免震構造を備えていたことを説明している。この場合、AC間においては、甲建物免震性が契約の内容になっていたということができる。そうすると、建設業者の手抜きにより、甲が免震性を備えていなかったことは、AC間の契約の趣旨に照らして目的物が通常有するべき性能を欠く場合にあたる。したがって、甲には「瑕疵」がある。



青線の部分は,自分で立てた規範をそのまま繰り返しています。正確に自分の立てた規範をここまで繰り返して初めて,三段論法が完璧に守られたことになります。



失敗例として,受験生の答案を見ていると,以下のような答案が散見されます。





「瑕疵」とは、当事者の契約の趣旨に照らして、目的物が通常有するべき性能を欠くこという。


 本件では、Aは、甲建物の安全性に強い関心を持っており、CもAによる問い合わせに際して甲建物が最新の免震構造を備えていたことを説明している。この場合、AC間においては、甲建物免震性が契約の内容になっていたということができる。そうすると、建設業者の手抜きにより、甲が免震性を備えていなかったことは、「瑕疵」がある。






この答案の問題点は,規範ところがまるまる省略されているところです。これを論理的に考えてみると, A→B  C→B という感じに一足飛びに、結論を出した答案になってしまい,三段論法を使っていることになりません。



受験生の答案の多くでは,三段論法が不徹底です。まだ時間があるので、この点を修正していきましょう。論点を落としてないのに、点数が伸びない答案は,三段論法が不完全なものが多いです。注意してみてください。




三段論法を守るコツとしては,あてはめを終わるときに、自分の立てた規範を指さして,書き写してしまうことです。そうすれば、自然に法的三段論法を保持できるので,お勧めです。