今回は、論証の使い方についての一例を紹介してみたいと思います。教材の使い方は、人によってさまざまなので、一つの参考にしてもらえばいいのではないでしょうか。
1 論証の弱点を回避する
前回は、①関係ないときに関係のない論証を貼り付ける危険があることと、②不必要に長く書いてしまうことが論証の欠点であるという記事を書きました。論証のメリットだけを享受しつつ、合格答案を書くには、この欠点がでないように論証集を使っていく必要があります。自分としては、以下のような点に注意しながら論証を利用していました。
(1)論証の射程を考える
重要判例の学習をするときは、判例の一般論の射程を踏まえて勉強していくと思います。たとえば、刑訴において、強制処分と任意処分に関する昭和51年の判例(フーセンやってからいいではないかの判例)を勉強する際には、その規範がどのような捜査類型に妥当するのか、どのような事実関係で出された判例なのか、事案が少し変わったらどうかを考えながら勉強していくと思います。
これは論証も同じです。(論証の多くが判例の一般論をベースにしているので、違いがあったらおかしいのですけどね。) 論証が使える典型事例は何なのか、典型事例から少し論証がずれたらどうなるのか、考えていくことです。これをしていると、本試験で少し事例にひねりを加えられても、対応していくことができます。応用力がついているので、関係ないときに関係のない論証を貼り付ける危険もなくなるはずです。
(2)問題演習を通じて削るべき箇所を見定める
僕は、問題演習をするときは、いちいち工藤先生の論証集に戻って、論証を確認していました。その際には、その問題に応じて、どの部分を削るのかなどを考えていました。たとえば、メイン論点であれば、フルスケールで吐き出す必要がありますし、サブなら規範だけ書いて簡単に当てはめるという形になります。僕は、問題を解きながら、当該問題ならどの部分まで書くべきかを考えながら、演習をしていきました。どの部分を書くかという選別は、本試験でも問われることになるので、日ごろから訓練していくべきなのだと思います。この訓練を日ごろからやっておけば、本試験でも書く論点ごとの優先順位やメリハリをつけた答案を書くことができるのではないでしょうか。
また、論証を読む際にも、論証の核になって削れない箇所とそうでない箇所を色分けしました。
2 まとめの例 と繰り返し
僕は、民訴と民法については、2年目に作ったまとめノートをかなり利用していましたが、まとめノートはそれくらいしかなかったので、他の科目は工藤先生の論証集を基本として利用しつつ、不足している情報を論証集に追加していきました。たぶん辰巳の趣旨規範のような使い方だったと思うのですが、工藤先生の論点書下ろし部分は、その論点の記述自体で、論点の理解が進む教科書的なものでもあったので、最終的には教科書的な機能も兼ね備えた強力なまとめノートができあがりました。論証集自体は11月くらいから使い始めたのですが、3か月くらいでかなりいい感じのまとめノートに仕上がったので、現時点でまとめノートがない人は、工藤先生の論証集をノート代わりに使うのもかなりおススメです。
こうして作った工藤先生の論証ベースのまとめノートは、答練の前に毎回繰り返していました
前述のように、論証自体も色分けしていたので、答練の前などは、あらかじめチェックした規範の部分を読んだり、根拠も含めて確認したりと、使える時間に応じて、チェックするキーワードの分量を調整しました。これによって、短い時間でも論証をすべて繰り返すことができました。
≪使用例≫
規範のような特に正確な暗記を要する箇所はピンク、少しぶれてもいい理由付けはオレンジで塗りました。
青は問題の所在です。
論証にない情報はワードで書き込んだものを貼り付けました。
論証の中にも重要なものとそうでないものがあるので、自分なりにランク付け(S ABC)をして、時間的に傾斜をつけて勉強しました。最終的には、目次だけを見て、問題の所在、典型事例、論証が浮かぶように訓練しました。
3 論証読み込み講座
工藤先生の論証集を繰り返していたのですが、僕はその補助ツールとして、論証読み講座をひたすら聞いていました。僕はアイフォンを使っていたので、100円くらいで買える速聴アプリを使って、2.2倍速くらいで毎日聞いていました(それ以上早くすると音が崩壊する)。
刑訴、民訴、商法などは、3時間で全体を回せる構造になっているので、毎日ローに通う時間と、隙間の時間に聞いて言いました。通学時間と隙間時間で2時間くらいはあったので、刑訴、民訴、商法などは一日で全体を繰り返せましたし、民法、刑法も二日とかで隙間の時間だけで繰り返せます。
僕は、できるだけ全科目を触りたいと思っていたので、その週のメインの科目でない論証読み口座を聞くなどして、7科目すべてを一週間でタッチできるように工夫するのに利用しました。休日のランニングの時も、ずっと聞いていたので、イヤホン外しても論証読み込み講座が頭の中を流れるレベルでした笑
4 科目特性に注意
論証を使うといっても、実は論証がかなり役に立つ科目とそうでない科目があることに注意した方がよいと思います。刑訴と刑法については、いつも同じ解釈論を展開するひつようがあるので、論証べったりでよいと思います。商法もそういうところがあります。民法も最低限の論証をかけることは非常に重要です。ただ、民法は現場思考問題が多いので、論証を理解するだけで不十分な感じがします。
民訴、憲法、行政法については、現場思考性が非常に強いので、あまり論証を貼り付けるという感じでないようにもおもいます。むしろ、そのまま貼り付けると、問題の核心からずれてしまうような問題が出ることが多い(特に、憲法、民訴)なので、論証は知識を整理するための参考資料という位置づけになると思っています。
5 金太郎飴を作れる時点ですごい
改革期においては、論証を貼り付けた答案というのは、金太郎飴答案といわれて、さげすまれてきました。しかし、本来出題者が正解筋を用意しているならば、答案が似通ってくるのは仕方がないことです。また、みんなが一定の基本は習得しているということなので、喜ばしいこととも言えるのではないでしょうか。
今回司法試験に合格して思ったのは、実は売り物になるような金太郎飴答案を作るということ自体が結構難しいことであり、それができたら司法試験に合格してしまうということです。むろん、出来の悪い金太郎飴ではだめです。問題に即して、飴の分量を調節して、形の良い金太郎飴を作ることが大切です。解釈論(飴)の品質はいつも一定にしつつ、それ加えて事実の処理を適切にできれば、それで合格する。それが司法試験だと思います。現在の受験生の水準からすれば、それができるのは1000人もいないように思います。
今、予備校の採点をしていますが、きっちりと一般論を書くことができる受験生は実力者です。論証がきっちりしている受験生は、たいていあてはめの部分もきっちりしていることが多いです。皮肉なことに、いつも同じ解釈論を展開できる能力を金太郎飴と揶揄していったために、それすら現在の受験生はそれすらできなくっている状況です。
別に、適時適切に解釈論を展開できれば、論証という形のものを使わなくてもよいのですが、別に工藤先生の論証集をつかって勉強すれば、司法試験の合格に必要な解釈論は最低限身に付けられるのだから、別に無理して拒否する理由はないじゃないないかというのが僕のスタンスです。