ようやく時間ができてきたので、ブログを少しずつ更新できそうです。

今回からは数回は、司法試験における論証集に対する考え方と使用法について書いてみたいと思います。異なる考え方の方がいるのも承知ですので、茶飲み話程度にご覧ください。






1論証の長所と短所を知る





今は昔、司法制度改革が始まった時代には、某塾の塾長が発明した論証ブロックなるものが、司法試験受験界では一世を風靡していたそうです。小耳にはさんだ話によると、受験生が、論証ブロックを貼り付けて、金太郎答案が量産されていて、思考力が十分ではないのに、司法試験に合格してしまったため、それに危機感を覚えた偉い方々が、柔軟な思考力を養成するために、ロースクールを作ったと聞いています。

確かに、昔の採点実感を読むと、論証的パターン的なものを、メタくそに叩きまくっているので、少なくとも当時の試験委員は定型的な論証パターンに頼った受験生を排除しようと躍起だったのだと思います。

 



 確かに、論証自体が正しくても、適時適切に問題の所在をとらえた解釈論を展開しなければ、なにも考えていないように思えて、採点者からして、ものすごく印象が悪いです。また、あっさりと書くべきところとかで、長々と『論証パターン貼り付けましたぜ!ウェーイ』的な答案とかもまた何も考えてない感じがして、印象が悪くなります。というか、こういうことをすると、大事なことが書けなくなるのでどちらにしても結果として死にます。 

しかし、典型論点って現場思考で処理するようなところではないので、現場で考えました的な規範を書いていると、これもまた周りと全然違うことを書くことになってしまうので、無知をさらけ出すことになって印象はものすごく悪いわけです。それだったら、典型論証をしっかり貼り付けたほうがよいわけです。また、短く書くべき局面では、論証の中で重要な部分だけ触れれば問題は生じません。

結局のところ、論証を使うこと自体が悪いわけではなくて、悪い論証の使い方をしてしまうからこそ、弊害が生じてしまうのです。たとえば刺身包丁は、使いようによっては人を殺す道具にもなってしまいますが、正しい使い方を覚えた料理人が使えば、おいしいお刺身が出来上がります。刺身包丁で人を殺す事件が発生したからといって一切刺身包丁を使うのやめてしまうのはどうなんでしょう。端に、これは使う側の問題だと思います。あんまり刃渡りの長いのはやめるとか、凶暴な人は酔っ払っているときに刺身を作らない(作らないか…普通…)とか、使用法を注意すれば、今後もおいしいお刺身を刺身包丁は提供してくれるに違いありません。 

つまり、道具を使うときはデメリットとメリットをよく知ったうえで使えば、物事を効率的に進めてくれるということです。これは論証も同じなわけで、デメリットが生じないように使えば、司法試験合格のためにとても役に立つツールになります。



 では、論証のデメリットとメリットは何なんなのか。

まず、デメリットとしては、前にも触れましたが、



①関係ないときに関係のない論証を貼り付ける危険があることと、

②不必要に長く書いてしまうことです。


 

 他方で、論証を使うと、定型的な部分は論証を使って事務的に素早く済ませることができるので、現場思考や答案の構成、事実の適示・評価といった、論文試験の120分の間に現場ですまさなければならない事項に時間を割くことができます。



つまり現場での時間の節約です。



新司法試験は、旧司法試験より事務処理能力を高度に要求する試験なので、このメリットは極めて重要です。



また、論証は通常重要な箇所のみ作られるものなので、



多くの受験生が厚く書くことができる典型論点の把握と処理の手順の習得にきわめて効果的です。



 一般に、工藤先生の論証集に載っているような事項は重要事項ですし、他の受験生も結構厚く書いてきますし、重要事項の論述の基本的な処理手順をおさらいするのはとても大事なことです。 



そこで、受験生が論証を使うに当たっては、上記の①、②の弊害が生じないように気をつければ、論証を利用することからはかなりのメリットが見込めるわけです。僕は、論証を最後の一年間に使うことになりましたが、上記のデメリットが生じないように、意識しつつ学習していった結果、最終的には学力がかなり伸びたと思います。(使い方は次回の記事にて)






2 今の論証集は間違えが少ない


 

 僕は未修者コースで、あまり法律の勉強をせずにローに入ったので論証とかは使ったことがなかったですし、同級生やローの先生も論証を否定しまくっていたのを覚えています。そして僕がロー2年生くらいの時に、Cブックの巻末の論証を見たら、判例を無視してて、結構間違っていたり、古いことがいっぱい書いてあって役に立たない感じがしました。というわけで、僕はローを卒業する前後まで、論証的なものは使わないで勉強していました。(結果として典型論点の書き方すらわかってなかったわけですが…。)



 当時の論証っておそらく旧司法試験ベースになっていて、判例を結構無視しているし、少数説準拠だったりするし、あてはめの規範自体がふわふわしていて事例問題に対応できる代物ではなかったように思います。なので、その感覚って間違っていなかったのだと思います。

また、昔は、論証自体が間違っていて、論証を貼り付けると同時に間違ったことをかいて死亡するという現象も発生していたのだと思います。 その意味で論証自体の内容の信頼性自体が低かった。



しかし、僕が卒業するころに工藤先生の論証集がレックの講座として発売されたわけです。

工藤先生の論証を見る限りは内容面での失敗は発生しないないと思います。むしろ、論証が間違っているとおもったら自分の理解の方が間違っている可能性が高いと思います。工藤先生の論証は、めちゃくちゃ受験生が読みそうな文献を読み漁って作ってあるので、僕は少なくとも内容面でのミスは一か所も発見できませんでした。大体、自分が練に練って作った解釈論よりも工藤先生の論証の方が高品質でした。たぶん、工藤先生以上の精度の論証を現場で自然に練りだせる人って、無視していい人数しかいないと思います。

 なので、最低限合格するという意味で、論証の内容面については、工藤先生の論証集を使う限りはあまり心配しなくてもよいように思います。


 


 

次回は、上記の弊害①、②が発生しないようにしつつ論証集を利用する具体例の一つを自分の使用法を通して紹介していきたいと思います。