1 はじめに
ここまでは、本試験で得点するために必要な知識を如何に習得するかに、焦点を当ててきましたが、最終回の今回は習得した知識を使って本試験の最中に如何に効率的に得点をするかという点にスポットを当てたいと思います。
2 短答解法の意味
今回説明するのは、短答を解く際に使えるテクニックが中心です。ただし、このテクニックは、自分の実力以上に点数を高めてくれるものではありません。あくまで、受験生が持っている知識が点数にうまく乗らないという事態を回避するためのものです。受験生が短答で実力通りの点数が取れないという事態は、時間不足に陥ってできる問題を解ききれなかったり、問題文のひっかけにかかったりして必要以上の失点をする際に起こります。このような事態は、時間管理をしっかりした上で、十分注意をすることで回避することができます。これから、説明する方法論は、時間管理のコツとひっかけによるミスを回避するための方策を、僕なりに類型化したものです。この技術は、本試験で時間が無くなったり、うっかりミスをする方にとって有益なのではないかと思います。
(逆に、短答解くのが極めて早い方は、そもそも時間管理が必要ないために、あまり意味がないかもしれません。)
3 時間の管理術
司法試験の短答は、公法系は別として、民事、刑事は、時間が結構きついと思います。僕は、いつもこれら2つについては、ギリギリでした(今年の司法試験に限っていえば民事については時間余らすことができましたが)。民事刑事については、1問平均2分弱くらいで、さくさく解いていかなければなりません。そのためのコツをとして僕が実践してた方法を紹介します。
(1)時間管理でもっとも大切な事
時間管理において最も大切なことは、時間のかかる問題と掛からない問題を瞬時に区別して、先に時間の掛からない問題を確実に得点することだと思います。時間の掛かる問題は、油断するとあっという間に5分くらい経ってしまうように作られています。これは、たまたまではなくて、意識的に出題者側が時間を使わせようという意識からところどころに、時間の掛かりそうな問題をちりばめていると思っています。なので、受験生としては、このような罠に掛からないことが大切です。
時間の掛かりそうな問題については、時間の掛からなそうな問題を先に解いてしまってから、余った時間でできそうなものから解いていくくらいでちょうどいいです。わからない問題は、捨ててしまっていいと思います。1、2問捨てても、自分のできる問題を確実に解いたほうが、総合点は高くなります。最悪なのは、時間をかけた割に結局正解できない事態です。点数はいらないのに、ほかの問題を解く時間を食ってしまうので、結果として点数が下がってしまいます。この言葉は、塾長の本に書いてあったのですが(僕は伊藤塾行ったことないので恐縮ですが)、どうせ間違えるなら一秒で間違えろ、ということです。
では、どうやって時間の掛かりそうな問題を区別するのかのいえば、これは極めて簡単です。それは問題文の長さでわかります。一つの肢の長さが1、2行くらいで、5肢ある問題は、それだけではひねりようがなくて、たぶん30秒から1分くらいで解くことができます。他方で、1ページまるまる問題文がある問題については、物理的に読み解かなければならない文量が多い以上、必然的に時間がかかっています。なので、平均的には時間がかかる問題として後回しにするべき問題といえるでしょう。
ただ、系統全部にわたって、この戦術を採用すると、後に戻る問題が多くなって精神衛生的によくないので、科目ごと、複数の問題ごとに時間の枠を作って、その内部で後回し処理をするといいと思います。
例えば、僕の場合は、例えば刑事系であれば、10問22分程度の枠内で、先にできる問題を問いしまい、難しい問題はこの時間の枠内で最後に回すことにしました。これをすると、最後に回した難しい問題については、時間の枠内で数分しか残らないので、必要以上に時間を使ってしまうことがなかったです。22分過ぎたら、残った問題は容赦なく捨てて、次の10問に行きました。
今年の刑事系については、刑訴の難易度が高く、しかも後半に時間に食う問題が多く配置されていたため、この戦術が非常に有効に機能しました。とくに、刑訴は、最後に時間が掛からない問題が多く配置されていることが多いので、毎年のようにこの戦術が有効に機能すると思います。今年の問題では、刑訴の31~37問の間に、時間を使わせる問題が多く、最後の38~40問の3問の短くて簡単な問題を落ち着いて解答できず、必要以上に知ってしてしまったというパターンが見受けられるようですが、短めな問題から解くようにすれば、このような失点は避けられることになります。
≪刑事系最終ページ≫
(僕は、刑事系の短答の最後の3問は刑訴を解く時間枠の後半(68~90)の時間はじめの方に、最後の3問を解ききっていました。ちなみに、難問といわれる第37問を取り掛かったのは、最後の1分だったので、捨て問としました。何も読まずに、2をマークしたら、結局正解でした。)
(2)時間管理のコツ
既に上にも書きましたが、時間管理でミスをしないためには、解答時間を小分けにすることです。
僕の短答で予定していたラップタイムを参考までに、以下に記述したいと思います。各自で自分の解きやすい、時間を探せばよいのではないでしょうか。自分のやりやすさが一番です。
公法
憲法 40分
行政法40分
民事
民法(75分) 0-75 (前半時で時間を食ったら、親族相続を早く解いて調整)
民訴(35分) 75-110 (民法で時間オーバーしたら、民訴を早く解いて調節。110終了は死守)
商法 (40分) 110-150
刑事
第1~10問 0-22
11~20 22-44
21-30 44-66
30-40 66-90
※ 2点問題は、1,5分、3点問題は2分が目安
(3)ピンチのときに時間を節約する小技
ア 時間が無くなったら肢を全部見ない
民事系等では、出題される、間違っているもの(正しいもの)の組み合わせてとして、正しいものを選べ問題がでます。この問題は、3肢くらい読んだ時点で、答えが出る場合があります。正答率を上げるという点では、全部の肢をチェックするのが理想ですが、僕の経験上、最初の答えが全部読んだ時点でかわることは、そんなに多くはありません。時間が無くなったら、残りの肢は読まないで、答えを書いてしまうのが、時間の節約という観点からは良いと思います。
僕は、今年は民事系については、すべての肢をチェックできましたが、刑事の最後の方については、答えが出た時点で、残りの肢を読んでない問題が2問ありました。(結果としては、1問が正解、もう一問が不正解でした。効果の判断的には微妙ですね。)
イ 穴埋め問題
司法試験の刑事系では穴埋め問題が出てきます(今年でいえば、第17問など)。
この手の問題は、選択肢から逆算して、穴埋めすると早く解けます。
例えば、以下のような選択肢の穴埋め問題が出るとします。この場合、答えは何でしょうか。
1 ア ウ オ キ
2 ア エ カ ク
3 ア エ オ ク
4 イ エ カ ク
5 イ ウ オ ク
答えは、たぶん 3です。
最初の列で、アが三つあるので、二個しかないイは、答えにならず、次の列でも 二つしかないウは答えにならないずエが答えになり、この時点で選択肢は2か3に絞れます。
さらに三列目では、三つあるオが答えなので、オを含む三が答えになると推測できます。
大体予想する答えがでたら、今度は答えのキーワードを穴に戻して、矛盾がないか確かめればよいのです。ここで矛盾がでなければ、文句なしに答えにします。矛盾が出たら、次に確からしい選択肢のキーワードを代入していきます。
司法試験の場合は、意外と肢の作りこみが雑なので、この手の問題は最初の時点で導きだされた肢が正解なことが多いです。時間がないときとかは、問題は解かないで選択肢のつくりだけで、答えを出してしまうことも結構ありだと思っています。
なお、この解法は結構間違えることもあるので、時間が取れるようなら、代入法によってしっかり検証するのが無難ではあります。この方法で2か3くらいまで候補を絞って、その候補をしっかり検証することが時間が十分ある段階では採用するべき戦術となるでしょう。
4 ミスを減らす解き方
(1)ケアレスミス栄光の第一位 ~~正と誤の取り違え~~
間違っているものを選べ(正しいものを選べ)問題で、正しいもの(間違ったもの)を選んでしまう事態です。
僕の場合、ケアレスミスの大部分はこれでした。もっとも、試験委員も間違えさせるために、正しいものを選べ問題と間違っているものを選べ問題を組み合わせて出してきているので、もはやケアレスミスというには憚れるほどです。漫然と短答といていると、一回の試験で、三問くらいこのミスをやってしまうことが、勉強し始めのころはありました。しかし、三問間違えると、6点から9点程度の点数を失うことになります。この点数合格点付近の方にとっては、人生を左右しかねないものです。ですので、可能な限り、このミスによる失点は減らす必要があります。
このミスがどのようにして起こるかといえば、最初に正誤のどちらを選ぶかをチェックしたあと、肢を解いている過程で、どちらが聞かれているのか忘れてしまったり、勘違いしてしまう過程で起こります。そこで、そのような取違いが起きない方策を講じる必要があります。
このミスを減らす方策として、僕は、ビジュアル的に正と誤のどちらを聞いているのかを残すことができるような対策を講じていいました。
具体的には、以下の以下の写真通り、間違ったものを選べ問題では、△を書いておき、正しいものをえらべ問題では、○の記号問題文に書いておきます。
肢を解く際には、いつも右側に正誤を書きます。肢の正誤が出たら、最終的に選ぶべき肢を選択する感じです。
このように必要な情報を記号化することによって、いちいち問題文に戻って思い出す手間を省き、また判断ミスを減らせるようにしていました。
なお、間違っているもの(正しいもの)を二個選ぶ系の問題は、上記の対策で、ほぼ百パーセントミスをすることはなくりましたが、「正しいものは1を、間違えているものは2」問題については、なぜか逆を選ぶことがありました(平成24年司法試験では、それで三点失点しました)。そこで、このタイプの問題が出たときは、特に注意していました。
自分のミスしやすい問題が、受験生ごとにあると思うので、間違えを類型化することが大事です。
(いろいろ対策を講じたからか、今年は、ケアレスミスはありませんでした。)
(2) 組み合わせ問題を素早く正確に解く方法 ~肢ごとの自信度を記号化する~
短答試験で、素早く判断するには、自分が正解だと確信を持てる肢を起点に判断する必要があります。しかし、自信確信は、感覚的要素が強いので、肢を解いているうちに忘れてしまいます。そこで、僕は、以下の5つの記号を使って、自信度を考慮して、正誤判断していました。
◎ 絶対正解の自信あり
○ たぶん正解
△ たぶん誤り
× 絶対誤りの自信あり
? わからない
すべての肢をチェックした後に、いざ正解の選択肢を判断するときには、◎と×をまずは起点に、正誤を判断します。これで、答えが出ない場合には、○と△も考慮して正解を出します。この記号を使えば、感覚的な要素も正誤判断に取り込めるため、素早く正しい肢を判断できます。
この方法を使うと、解答のときに楽になるばかりでなく、模試の復習ときに、試験中に自信がなかった自信のなかった肢のみを復習する材料ができるので、短答の知識習得を効率的に行うことができるという副次的効果もあります。