<設問1>(以下特記なき限り条数は民事再生法を示す)

1 民事再生法上の敷金返還請求権の取り扱い

()本問においては、Cの有する敷金返還請求権についても再生計画案の内容は、民事再生法の規律と同じものである。そこで、以下民事再生法における敷金返還請求権の取り扱いにつき検討する。

()ここで、敷金返還請求権とは、賃貸借契約終了後明渡時において、賃借人が賃貸人に対して負担する一切の債務を控除した金額ついて発生する停止条件付権利である。

 敷金返還請求権は、明渡時に現実化する権利であるため、再生手続開始時においては、自働債権となりえず、相殺できない(921)

 もっとも、民事再生法は、手続開始後において、弁済期が到来するべき賃料債務について、手続開始後に弁済した場合には、6ヶ月を限度として、敷金返還請求権を6ヶ月の限度で共益債権化することが認められている(923)

()本件においても、手続き開始後にAC間の賃貸借契約が終了した場合には、6ヶ月600万円の限度でCは敷金返還請求権を共益債権として、再生手続外で権利行使することができる(1211)。他方で、600万円を超える部分については、3%の再生計画による配当を受けることが過ぎないことになる。

2破産法における取扱い

 破産においては、敷金返還請求権につき、後に相殺に供する目的で、弁済額の寄託をすることが認められている(70条後段)

 本件で、仮に破産が選択された場合には、Cは敷金の限度まで、賃料支払額の供託を請求できる。したがって、Cは賃料10か月分、具体的には1000万円の限度で寄託をすることができる。

 この場合、仮に6月以上の期間AC間の賃貸借契約が継続した場合には、再生手続きにおいては、再生の場合には、再生計画でしか配当をうけることができない600万円を超える部分の敷金返還請求権も、Cは相殺によって回収できる可能性がある。

Cはこの事情をもって、破産の方が再生よりも有利な事情があると考えているというべきである。

<設問2>

1 平成23125日に開催された債権者集会においては、Aの届け出債権者の過半数(172条の3第11)の再生があり、かつ、議決権総額の2分の1以上の賛成がされて(同項2)、形式的に再生計画案の可決要件を充足している。

 もっとも、上記の可決は、C及びDの反対が予測される中、BE銀行から債権を譲り渡す等の方法により、可決要件が満たされることによってなされたものである。これは、再生計画の決議が「不正の方法」によって成立した(17423)場合に当たるとして、再生計画の不認可事由にあたらないか。

2 ここで、法が再生計画につき裁判所の認可を要求した趣旨は、172条の3第1項が少数債権者保護のために、可決要件をもうけていることにつき、裁判所が後見的な立場から関与して、もって少数債権者の保護を図る点にある。そうだとすれば、信義則(民法12)に反する方法で、決議が可決された場合には、「不正の方法」にあたるというべきである。

3 本件では、Bは実価を超える価額で、債権を譲りうけているのであり、正当な権利者として権利行使しているから、信義則に反するとは言えないとも思える。しかし、Bは回収可能性が低いことを知りながら、あえてE銀行から債権を取得している。このように回収可能性の低い債権を譲り受ける行為は、Aの法潜脱の意図を推認する。また、本件では、C及びDの反対により、再生計画の決議が可決されない状況になった。この状況で、Bは親族であり、A社の取締役であるFGに債権を分割譲渡した結果に、頭数要件を充足するに至っている。この場合、Bは、殊更に債権の譲り受け、譲渡をすることによって、議決権要件、頭数要件を充足しているのであるから、法を潜脱する形で要件を充足しているといえる。したがって、本件の再生計画の議決は、信義則に反する方法で行われた評価でき、「不正の方法」によって充足されたといえる。

4よって裁判所は、再生計画を認可することはできないというべきである。

5なお、本件では破産配当率1%未満に対して、再生計画による配当率が3%であるから、「一般の利益に反する」事情はない。

以上

再現率85 3枚ジャスト