<設問1>(以下特記なき限り、条数は刑事訴訟法示す)

第1 小問1 

1取調べの適法性の判断枠組み

()本問では取調べの適法が問題となるが、取調べの適法性については以下の2段階の枠組みで判断するべきである

()まず、取調べの前提となる身柄拘束が実質的に逮捕に至っている場合には、取調べは違法となる。

 次に、仮に取調べの前提となる身柄拘束が、実質的に逮捕に至っていないとしても、被疑者の意思の自由などの何らかの法益を侵害することはありうる。そこで取調べの適法性の判断に際しては、比例原則に照らして、厳格な判断を要する。したがって、取調べは、被疑者の嫌疑、被疑者の対応状況など諸般の事情を考慮して具体的状況下で社会通念上相当といえる方法・態様により取調べが行われた場合に限り、任意捜査(1971項本文)として、適法になるというべきである。

2 取調べ①の適法性

()実質逮捕に当たるかの判断に当たっては、逮捕が強制処分であることに鑑み、被疑者の意思を制圧し被疑者の身体という重要な権利に制約を加える処分があるかによって判断するべきである。

 本件では、甲は取調べの日には、捜査員に同行されることなく、自分ひとりで、M警察署出頭している。また、後述するように、取調べの前日の宿泊も、甲が自由意思に基づいて宿泊したといえるものであり、取調べ①に至る過程に甲の意思を制圧して、甲の身体という重要な権利を制約する処分がなされたといえる事情はない。したがって、本件では、甲に実質逮捕が行われたとはいえない。

()次に、甲への取調べが社会通念上相当といえるかにつき検討する。

ア まず、甲は殺害されたVがしていたダイヤモンドの指輪を質入れしていた。この場合において、甲はVの夫のWの下に、時々金を借りに来ていたという事情からは、甲はVがダイヤモンドの指輪をしていたことを知っていたことが推定できる。そうすると、甲がVを殺害した犯人であることの嫌疑が一定程度認められるといえる。また、甲は当初はPにダイヤモンドの指輪は拾ったなどと答えているが、PからVの死亡の事実を告げられるや、突如指輪は知人からもらったなどと不自然に供述を変遷させている。この事情は、上記のV殺害の嫌疑を一層強めるものといえる。

イ さらに、甲はPからの引き続き取調べをする必要があるという申入れに対して、一時的に難色を示しているものの、Pの説得に対して「一日くらいなら仕事を休んで、取調べに応じてもよい」などと素直にPの要請に応じているのである。また、前日の宿泊も、自らHホテルに歩いていき、その間捜査員が同行しているといった事情はなく、宿泊も甲が自由意思によって行っているといえ、甲の態度は素直なものであったといえる。さらに、取調べの態様についても、甲は取調べの中止を訴えたり、取調室からの退去を希望したりすることはなく、Pもこうに適宜食事や休憩を与えるなど、穏当な態様で行われているといえる。

ウ 以上の事情からすれば、取調べ①は、具体的状況下で社会通念上相当いえる方法・態様によって取調べが行われたといえ、適法なものである。

3 取調べ②の適法性

()平成26212日午後9時ころ、Pは甲に翌日の取調べを申し向けている。これに対して、甲は落ち着いたら必ず出頭するなどと、帰宅の希望を述べている。これに対して、Pは「社長には電話で相談すればよいではないか。宿泊費は警察が出すので心配しなくてよい」などと言って、甲をしぶしぶ説得させるに至っている。

 しかも、この後に行われた宿泊については、以下のように甲の意思を制圧し、身体という重要な自由を制約するに至っている事情がある。すなわち、Hホテルの甲が宿泊した6畳の部屋は、通路に出るためには、Qらが宿泊している8畳の和室を通らなければならない状況にあった。この状況において、甲は「人がいると落ち着かない」「私を個室にして警察官は別室にしてほしい」と頼んでいるにもかかわらず、Qは「ふすまで仕切られているのだから別室と同じ」などといって、甲の申出を断っている。この場合、実質的には甲は外部に出られる状況にないのであり、甲の意思を制圧し、甲の身体という重要な権利が制約されるに至っているといえる。

 よって、本件では実質逮捕が行われたといえる。

()この場合、2段階目の枠組みを検討するまでもなく、甲に対する取調べ②は違法であるといえる。

第2 小問2

1 本件では、甲に対して起訴後に取調べがなされているが、この取調べは適法か。

2 ここで、公訴が提起される(248条)と、被告人は当事者としての地位を取得する。この場合、刑事訴訟法が当事者主義を定めていることからすれば、捜査機関による対立当事者である被告人への取調べは制限的であるべきである。そこで、被告人が、任意に応じ場合にかぎり、取調べは適法というべきである。

3 本件では、 Rは、「君が起訴されている事件につき、もう一度取調べを行うが嫌なら取調べを受けなくてよい」などと告げている。これに対して、甲は素直に応じているから、本件の取調べは任意であるといえる。

4よって、取調べ③は適法である。

<設問2>

1 検察官は、資料記載の公訴事実第一につき、V殺害の日時を平成26年3月3日1時ころに変更する訴因変更手続(312条1項)、及び公訴事実第二につき、窃盗の事実を盗品等無償譲り受けに変更する訴因変更の続きをするべきである。では、検察官はこのような措置をなしうるか。本件で「公訴事実の同一性」(312条1項)が認められるかが問題となる。

3 ここで、「公訴事実の同一性」とは、二重の危険を回避することを機能としつつ、訴因変更の限界を画する概念である。この公訴事実の同一性がみとめられるかの判断に際しては、基本的事実の同一性の有無を中心に、変更前後の訴因の非両立性を補充的に考慮しつつ判断するべきである。

4 第一について

 本件において、変更前と変更する訴因との違いは、日時の違いのみであるから、基本的事実が同一といえる状況がある。しかも、人の死は論理的に1回しかありあえない。そうすると、Vの死亡につき、変更前後の訴因とは、非両立の関係にあるといえる。

 よって本問では「公訴事実の同一性」が認められ、検察官は訴因変更をなしうる。

5 第二について

 実体法上、窃盗罪と盗品有償譲り受けは非両立の関係にある。しかも、同じダイヤモンドの指輪について、一人の者が窃取した後に、無償で譲り受けることはあり得ないのであり、事実上も本件で変更前後の両訴因は非両立の関係にあるといえる。

 以上の検討からすれば、本件変更前後の両訴因については「公訴事実の同一性」を欠くものではないといえる。したがって、検察官は訴因変更できる。

よって、検察官は訴因変更手手続きの措置を取るべきである。

以上



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