<設問1>(以下特記なき限り条数は民法を示す)
1 下線部の主張の意義
Cは、Aが賃料を不払による債務不履行解除(541条)を賃貸借の終了原因として主張するものである。これに対して、下線部のAの主張は、AがCに対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権120万円を取得しており、その120万円と将来の賃料について相殺をするという相殺の意思表示(505条1項)としての法律上の意義がある。以下、このように考えるべき理由を述べる。
2 瑕疵担保責任の成否
(1)Cは、Aに対して以下に述べるように瑕疵担保責任を負う(570条1項、566条1項、559条本文)。AC間の賃貸借契約は「売買以外の有償契約」(559条)に当たるからである。
(2)「瑕疵」
「瑕疵」とは、当事者の契約の趣旨に照らして、目的物が通常有するべき性能を欠くこという。
本件では、Aは、甲建物の安全性に強い関心を持っており、CもAによる問い合わせに際して甲建物が最新の免震構造を備えていたことを説明している。この場合、AC間においては、甲建物免震性が契約の内容になっていたということができる。そうすると、建設業者の手抜きにより、甲が免震性を備えていなかったことは、AC間の契約の趣旨に照らして目的物が通常有するべき性能を欠く場合にあたる。したがって、甲には「瑕疵」がある。
(3)「隠れた」とは、善意無過失をいう。
本件で、甲の瑕疵は、業者の手抜き工事によって生じており、Aは、瑕疵について知らなかったし、知ることができないよう状況にあった。したがって、Aは善意無過失であり「隠れた」といえる。
(3)瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求については、信頼利益のみが損害賠償の対象になる。
本件では、甲の賃料は、免震性があるがゆえに、25%高く設定されていた。そうすると、免震性があると信じたことによって、Aは25%高く賃料を払っているといえる。したがって、通常の賃料の25%高く支払った部分が、信頼利益にあたり、120万円につき損害賠償請求が認められる。
3結論
下線部は、以上のように損害賠償請求権の相殺の意思表示としての意味を持つ。
<設問2>
第1 小問(1)
1請求の根拠
Fは、Aの相続人としての地位に基づき、Dに損害賠償請求をすることが考えられる(896条、889条2項2号)。
2和解契約の相対効
まず、本問ではBD間に本件和解が存在するが、契約の相対効により、Fに和解は効力を及ぼさない。したがって、FとしてはAがDに1億円の損害支障請求権を有していることを主張できる。
3請求の額
Aの相続人は、Aの妻Bと、Aの兄Fのみである。したがって、Fは、Aの相続財産につき4分の1を相続する(900条3号)。そうすると、本件では、FはDに対して2500万円の損害賠償請求をなしうる。
第2 小問(2)
1Dの請求の根拠
Dとしては、本件和解契約は錯誤(95条本文)により無効であるから、支払った8000万円を不当利得返還請求(703条)できると主張することになる。以下、検討する。
まず、本件和解契約においては、Bと胎児を当事者として締結されている。ここで、胎児は相続については既に生まれた者とみなされるが(886条1項)、死産であった場合には、死産を解除条件として遡及的に胎児は存在しなかったことになる。そうすると、本件の和解契約は当事者が存在しない状態で締結されたことになる。したがって、当事者の存否において、Dには錯誤があるといえる。
もっとも、和解には確定効(686)があるから、和解を錯誤によって否定することはできないのが原則である。ただし、互譲の前提となった事項については、錯誤無効を主張することが認められている。本件では、本件和解における権利の帰属主体の存否は、和解の前提となる事項であるから、Dは和解の確定効が及ばず、錯誤無効の主張をすることが認められる。また、Dは契約の主体がいない状況では、内心の効果意思と表示に不一致が生じているといえ、Dには「錯誤」(95条本文)があるといえる。したがって、Dは錯誤に基づき、本件和解契約の無効を主張することができる。
2請求の額
Dとしては、和解は無効であるので、8000万円の請求をすることができる。
第3 小問(3)
和解は無効であるから、AはDに対して相続人の地位に基づき、損害賠償請求をすることになる。Aの持分は、4分の3であるから(890条、900条3号)、AはDに対して7500万円を請求できる。
<設問3>
1HのKに対する請求の内容
Hの請求権の内容は、丁土地所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求権である。
この請求の請求原因は、(ア)Hの丁土地所有、(イ)Kが丙建物を所有することで丁土地を占有していることである。以下のこれらの請求原因との関係で①~⑥の法律上の意義を検討する。
2(ア)について
物権について共有持ち分を有する者は、物権的請求権を行使することができる。
したがって、①の事実は(ア)の事実を基礎づける主要事実としての法律上の意義を有する。
また、③についても、(ア)の事実を基礎付ける主要事実としての意義を有する。
次に、不法占有者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者、すなわち177条「第三者」に当たらないから、土地の所有権者は持分を登記なくして、不法占有者に対抗できる。
本件で、Kは不法占有者であるから、Hは登記なくして丁土地所有権を対抗できる。したがって、②④の事実は、法律上の意義がない。
3(イ)について
建物収去土地明渡請求の相手方は、土地を建物を所有することにより占有しているものである。
本件では、⑤の事実は、Kの丙建物所有を基礎づけるのであるから、(イ)を基礎付ける事実となる。他方、現実に建物を所有いれば、登記がなくても相手方となるので、⑥は法的な意味がない。
以上
構成時間48分 4枚と3分の2 再現率90%