<設問1>(以下特記なき限り条数は会社法を示す)
1 Cとしては、本件株式発行の効力を争うために、新株発行不存在確認の訴え(829条)を提起することが考えられる。以下、理由を述べる。
新株発行の効力を争う手段としては、本来新株発行無効確認の訴え(828条1項2号)によるのが通常である。しかし、本件においては、Cが新株発行の効力を争おうとしているのは、新株の発行された平成26年6月から1年以上たった平成26年4月の時点である。新株発行無効は、非公開会社においては、新株発行から1年以内(828条1項2号)であるため、本件において、新株発行の効力を争うには、新株発行不存在確認の訴えによる他はない。したがって、Cは新株発行不存在確認の訴えを提起するべきである。
2 不存在事由
新株発行不存在事由については、会社法上明文の規定はない。しかし、新株発行がなされると多くの利害関係人が生じる。そうすると、安易に新株の不存在事由を認めると、利害関係人の利益に反し、法的安定性を著しく害する。そこで、新株発行不存在事由は、新株発行がされたとは評価できないような著しい瑕疵がある場合に限るべきである。
本件では、Dは、A、C、Eに対して甲社の将来の運営ついて相談した旨を伝え、これらの者が集まった状況の下で、新株発行をしたい旨を伝え、賛同を求めている。この集まりは、甲の株主の全員が集まったものであり、株主全員の同意のもとで行われたものといえるから、招集通知等の手続(299条1項)がなくても適法な株主総会と評価できる(300条)。しかし、この集まりにおいて、Cは反発して直ちに退席し、Aは態度を留保しているから、500株のうち350株の反対があったとものとして、新株発行の決議(199条2項)が否決されているといえる。したがって、本件新株発行は、法所定の株主総会を経ずして行われたものであって、著しい瑕疵があるといえる。
さらに、本件新株発行においては、後述のように代表取締役ではないEが新株な発行を行っているのである。上記の事情に加えると、本件新株発行は、新株発行がなされたとは評価できない程度に著しい瑕疵があるといえる。
よって、本件新株発行は不存在である。
3新株発行に係る法律関係
本件新株発行は不存在であるから、A300株、Cが50株、Dが100株、E50株株式を有することになる。
<<設問2>
第1 代表行為の有効性について
1本件で、本件借入の効果が甲に帰属するためには、代表取締役が代表取締役として本件貸し付けを行っている必要がある。
甲としては、Eはそもそも代表取締役ではないから、本件貸し付けは甲に帰属しないと主張することが考えられる。
すなわち、平成24年5月20日において、DとEは相談のうえ、Eを代表取締役につかせることにしている。しかし、代表取締役の選任は、取締役会での決議事項である(362条2項3号)。本件の場合、AはEが代表取締役になることについて、説明することをしておらず、Eを代表取締役に選定する取締役会決議がされたということはできない。したがって、Eは甲の代表取締役とはいえない。以上のように甲は主張することになる。
2しかし、本件において、Aが代表取締役に選定された旨の登記は「不実の事項を登記」した場合にあたり、Hは「善意の第三者」(908条2項)にあたるので、甲はHに対して、Aが代表取締役ではないことを対抗することができない。
第2 多額の借財に当たる点
1甲としては、本件借入が取締役会の承認を得ないでなされた「多額の借財」(362条4項2号)にあたるため、甲に本件借入の効力は帰属しないと主張すること考えられる。
ここで、法が多額の借財を行うにつき、取締役会の承認を要求した趣旨は、会社に重大な影響を与える借財につき、慎重に意思決定を図る点にある。そうすると、「多額の借財」にあたるかは、借財の額などを総合考慮して会社ごとに決せられる。
本件で、甲は資本金4000万であり、2憶円の借入はこれを大きく超えるので、「多額の借財」にあたるといえる。したがって、本件借入にあたり取締役会決議を経ていないので借財は甲に帰属しないはずである。
2これに対して、Hとしては、多額の借財に該当するとしても、法的安定性の観点から、借入が無効になるのは相手方悪意・有過失の場合に限られると反論することになる。
本件では、HはEに対して、事業計画についての資料を交付することを求めてはいるものの、結局は資料の提供を受けず、甲において取締役会における承認があったかを軽率にも確認していない。これは、Hが負担する確認義務に違反するものであって、Hには過失が認められる。
よって、本件借入は甲に効果が帰属しないというべきである。
<設問3>
第1 Eの責任
1 本件土地についての責任
(1) 本問では、Fの死亡によって、Eは本件土地の登記義務を相続している。では、この登記義務についても「責任を追及する訴え」(847条1項)として、株主代表訴訟によりEに履行責任を問うことはできるか。
(2)ここで、847条1項の趣旨は、取締役間における責任追及の提訴懈怠を防止する点にある。そして、少なくとも取引上の債務については、提訴懈怠のおそれがあるから、「責任」に含まれる。
(3)本件で、Eが負担する本件土地の登記手続義務は、取引上の債務であるから、「責任」に含む。
(4)よって、CはEに履行をもとめることができる。
2 本件貸付に関する責任
1Eは、423条1項の責任を追及することが考えられる。
2「役員等」であるEは、甲に対して、回収不可能な債務を負担させない義務を負っている(330条、民法644条)。しかし、Eは、乙に貸し付けを行い、回収不可能な債務を負担しない義務を怠っている。したがって、「任務」を「怠った」といえる。
3甲には、回収不能になった2億円の損害が生じている。因果関係もある。
4よって、Eの責任が認められる。
第2 Dの責任
Dは甲の取締役ではないから、責任を負わない。
以上
構成48分 4枚と半分 再現率90%
(設問2はもう少し論述が乱れていた。)