<設問1>(以下特記なき限り条数は民事訴訟法を示す)
1表見法理の適用
本件の訴訟上の和解には、表見法理が適用されるため、B社は和解を締結したのがCでないことを争うことができない点につき検討する。
ここで、表見法理とは、自己の帰責性によって虚偽の外観を作出した者については、その外観を信頼した者に対して、虚偽の外観の不存在を対抗できない法理を言う。
本件では、B社はCを代表とした登記を放置し、虚偽の外観を自らの帰責性によって作出し、Xと裁判所はこの外観を信頼している。したがって、B社は代表者がCではなく、Dであったとして和解の無効を主張することはできない。
以下、上記のように表見法理が適用される理由につき検討する。
2取引行為と訴訟行為の違い
判例は、表見法理は取引安全を図るためのものであるから、取引行為と異なる訴訟手続に表見法理を適用することができないとしている。しかし、取引行為と訴訟行為は本来連続的なものであり、異質性を強調することは妥当ではない。すなわち、訴訟において審理の対象となる実体法上の権利義務は、取引行為によって生じるものであり、取引行為と訴訟行為とは本来連続性を有しているのである。したがって、訴訟行為と取引行為の異質性を理由に表見法理の訴訟行為への適用を否定することはできない。
3 手続の安定性
訴訟行為に表見法理を適用することを否定する見解は、訴訟行為への表見法理の適用が手続きの不安定を招くとする。すなわち、前述のように表見法理においては、手続の相手方における善意・悪意によって、表見法理の適用が左右され、手続の安定が確保できないため、表見法理の適用を否定するべきであるとする。しかし、実際には、表見法理の訴訟手続への適用は、手続の安定に資する。すなわち、訴訟における表見法理の適用は、当事者のみならず、裁判所の信頼に対してもなされる。表見法理を裁判所について適用すれば、積み上げられた訴訟行為を無効にしなくてよくなり、かえって手続きの安定に資する。したがって、表見法理の適用が手続の安定を害するという論拠は妥当ではない。
4 訴訟行為に表見法理を適用するべき積極的理由
仮に、訴訟行為としての和解の効力が否定されるとすれば、私法上の契約としての和解が有効なのに、訴訟上は和解が無効となり、執行可能性のない和解を生じさせることになる。このような事態を回避するために、表見法理を訴訟行為にも適用するべきである。
5以上より、本件では和解に表見法理が適用されるので、Bの代表者がDであるとして、和解が無効とされることはない。
<設問2>
1Aが、本件和解の効力を争うことは、L2にも和解条項第1項を定める権限があるため、認められない。以下理由を述べる。
2Aからなされることが想定される反論
Aからは、民事訴訟の対象はあくまで訴訟物であるので、訴訟代理人の和解権限も訴訟物に限られるところ、本件和解条項第1項は訴訟物外の事項を定めるものであるから、和解は無効であるとの反論がされることが想定できる。
3Xがなすべき主張
そもそも、訴訟において当事者が目指すのはあくまで勝訴であって、勝訴を獲得するためには、訴訟代理人に与えられる権限の範囲も柔軟に解するべきであり、和解権限の範囲を訴訟物に限定することは妥当ではない。しかし、あらゆる事項につき和解が可能であるとすれば、本人の自己決定を著しく害する。そこで、本人が予測可能な事項に限り、代理人は和解できるというべきである。
判例も、貸金返還請求の事例で、和解で確定した債権を被担保債権とした抵当権の設定権限を訴訟代理人に認めている。この和解は、訴訟物の範囲外の事項についても和解をなすものであるが、貸金の担保の抵当権を設定することは、当事者にも予測可能な事項である。このように、判例も、上記の見解に沿う形での判断をしているといえる。
本件についてみると、確かに和解条項第1項は、訴訟物の範囲外ではあるが、あらかじめAはL2に、事件のことを真摯に反省していると述べている。この場合、L2が、「事件のことを深く反省する」旨の条項をL2が定めることは、Aにとっても予測可能な事項であったといえる。そうすると、和解条項第1項も、L2の和解の権限の範囲に含まれるというべきである。
よって、Aは和解の効力を争うことはできない。
<設問3>
1本問で、和解上古の既判力は、本件後遺症傷害に基づく損害賠償請求権を遮断しない程度にまで、縮減する点につき以下検討する。
2そもそも、既判力の制度の趣旨は、当事者が手続き保障を与えられ、攻撃防御を尽くしたことから、異なる主張をすることが禁止されるという自己責任を問う点にある。そうすると、当事者が主張につき期待可能性がない攻撃防御方法については、自己責任を問うことができず、形式的に発生する既判力は縮減するというべきである。
ここで、民訴法117条1項の規定は、人身損害に損害賠償について、後遺症という事情の著しい変更が生じた場合には、当該事情については、当事者に主張の期待可能性がなく、既判力が縮減するという上記の趣旨を確認した規定であるということができる。
本件では、Xは事故時には予想できないような後遺症を発症しており、この事情の著しい事情の変動については、Xに期待可能性がない。したがって、本件では、和解条項第2項5項につき、損害賠償請求を不存在するとする既判力は生じないというべきである。
以上
答案構成50分 再現率95%
4ページと3行くらい