<設問1>

第1 法令違憲

1主張

 Cとしては、本件条例2条・4条が憲法22条に違反し、違憲無効であると主張するべきである。

2保障と制約

()憲法は、「職業選択の自由」(憲法22条1項)の一内容として、自己の選択した職業を遂行する自由、すなわち営業の自由を保障している。

 本件においても、Cが自然保護地域でタクシー営業をする自由は、Cの職業の遂行にあたるといえ、憲法22条1項の保障を受ける。

()本件条例2条・4条1項2号・3号ロは、一定の条件を満たしたうえで許可を受けなれば、B市の自然保護地域でタクシー営業ができないようにするものであり、Cの前記自然保護地域でタクシー営業をする自由を制約する。

3違憲性

()上記の制約が、公共の福祉(憲法13条後段)によって正当化されず、違憲である点について、以下基準を立てて検討する。

()ここで、営業の自由は、個人が社会において、自己の個性を発揮する方法なのであって、きわめて重要な人格的価値を有している。このことは、Cのような営利を目的とした会社にあっても、会社が労働者の結合体であることからすれば、自然人の場合と同様である。

 そして、本件では許可制の採用により(条例2条)により、上記の自由が制約されている。ここで、許可制は狭義の職業選択の自由に対する制約ともなるものであり、上記の自由に対して重要な制約になる。

 また、本件で、法4条の許可基準は、新規参入業者が事後的に充足できないような条件を許可条件としており、本件許可制の規制は極めて重大な権利への制約となっている。すなわち、条例4条2号3号ロは、5年以上継続してB市内に営業所を有し、かつ10年以上のキャリアのある運転者でなければ、タクシー営業ができない旨の定めを置いていている。これは、新規参入を実質的には不可能にするきわめて重大な自由への制約となっている。

 上述のような権利の重要性、制約の重大性からすれば、権利の性質が精神的自由でないことを考慮しても、本条例の合憲性はできる限り厳格に判断するべきである。そこで、①規制の目的が重要であり、②目的を達成するための手段により制限的でない選びうる手段がない場合に限り、条例は合憲になるというべきである。

4具体的検討

()まず、本条例の目的は、自然保護地域における輸送の安全の確保と、自然保護地域の豊かな自然保護・観光客の安全にある(本条例1条)。しかし、本条例はC社の新規参入を阻止しようとするタクシー業者の反対運動の中で行われており、条例の真の目的はCの締め出しを目的としている。このような目的による条例の規制は、不当であり、重要な目的とは評価できない。

()仮に、目的が重要であるとしても、本件ではより制限的でない選びうる手段が存在する。すなわち、本件で営業所と運転者に、継続的営業の要件が付与されているのは、Bの道に不慣れな者による事故を防止するためである。しかし、道に不慣れな者による事故は、自家用車や観光バスのようなものによって引き起こされており、同じ地域で勤務をするタクシー運転手には別の考慮が必要である。具体的には、講習会等を実施することにより早期にB市の道に慣れさせて、事故の発生を防止することが可能である。そうすると、本件ではより制限的でない選びうる手段が存在するといえる。

()よって、本条例2条・4条は違憲無効である。

<設問2>

1保障・制約

()被告

 被告としては、本条例による許可要件は事後的に充足することが可能であり、原告の主張するような厳格な権利に対する制約はないと反論することが想定できる。

()私見としては、被告の意見に賛成できない。

 本条例は、営業所の年数要件・運転者要件を置いている。通常、新規参入業者が、5年以上も、実際には営業できない事務所を設置することは、会社のような利益を追求する団体にとって取りえないのであるから、上記規制は、実質的に新規参入業者が自然公園内でタクシー営業をすることを不可能にするものである。また、新規参入業者がB市内で10年以上勤続したタクシー運転手を集めることは現実的にはむずかしい。そうすると、Cの主張するように、本件の規制は重大な制約を伴うというべきである。

2合憲性判定基準

()被告

被告としては、営業の自由は、権利者以外の社会的存在との社会的相互関連性のもとで保障される権利なのであり、厳格審査に付するのは適当ではないと反論することが想定できる。

また、被告としては、本件の規制目的は、豊な自然観環境の保護という政策的な要素が大きく、積極目的規制によるものであるから、合憲性判定基準は、緩やかに、規制が合理性を欠くことが明白な場合に限りに違憲になるという基準を採用するべきであると反論することが想定できる(小売市場事件)

()私見

 私見としては、被告の言う社会的相互関連性については、その通りであるが、本条例の目的は消極目的規制によるものであり、緩やかな基準によるべきとする被告の主張には賛成できない。

 まず、積極目的規制とは、弱者保護の観点から国家に救済政策を講ずる目的をいう。

 他方、消極目的とは、国民の生命・身体・財産保護のために国家が課す規制をいう。積極目的規制と異なり消極目的規制については、裁判所の資料収集の下での判断が可能なのであるから、より厳格に規制の合憲性を判断することが認められているといえる。

 本件では、自然を保護する目的は、政策的観点に基づくものではあるが、弱者保護を目的とするものでないから、積極目的によるものとは認められない。そもそも、本条例の立法の経緯においては、人身事故や交通事故の発生への対処という前提があったのであり、これは国民の生命身体を守るという消極目的の側面が強いといえる。そうすると、本条例の規制目的は消極目的規制である。したがって、本条例の合憲性判定基準は、Cが主張するのと同様に、目的が重要であって、規制手段により制限的でない選びうる手段がない場合に限り、合憲という基準を採用するべきである。

3具体的検討

()被告

被告としては、規制の目的は、問題に対処するためのであって、Cを狙い撃ちしたものではなく、重要である。また、本件では、より制限的でない選びうる手段は存在しなかったと反論することが想定できる。

()私見

 私見としては、被告の反論に賛成できない。

確かに、本条例は反対運動をきっかけに制定されているが、狙い撃ちとまでは言えない。また、条例の目的自体は、重要であと評価せざるをないものである。

 しかし、手段にはより制限的でない選びうる手段が存在するといえる。すなわち、Cの主張するように、講習などにより自己の防止は実現できるのであり、あえて営業所や運転者に勤続要件を付ける必要はないといえる。

 よって本件条例は、違憲である。

以上


・5枚と半分 構成35

5月20日再現 再現率95%