第1 設問1
1本件計画決定は、抗告訴訟の対象となる処分に当たるか。本件計画決定が、抗告訴訟の対象たる「行政庁の処分その他公権力行使に当たる行為」(行政事件訴訟法(以下「行訴」という)3条2項)に当たるかが問題となる 。
2ここで、処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち、直接国民の具体的権利義務を形成し、またはその範囲を確定するものを言う。この判断に際しては、原告の権利救済の実効性 も考慮するべきである。
3(1)まず、都市計画決定がなされると、告示がなされることによって、その対象となる地域が明確になる(都市計画法(以下「法」という)14条、都市計画法施行規則47条(※後で小さい文字で挿入))。そして、都市計画決定がなされると、建築物の建築に際して、許可が必要という一定の制限を課せられることになる(都市計画法(以下「法」という)53条)。この意味では、対象地域内の居住者は一定の権利制限を課されることになる。
しかし、この場合、階数が2階以下の建物などの場合には、許可は必要的とされており(法54条)、その意味では計画区域内の居住者の権利制約は大きくない。この場合、居住者の権利制約は間接的なものに留まる。
(2)さらに、事業計画認可の段階に至れば、事業計画区域内の者は、建設などに際して許可を受けなければならなくなり(法65条1項)、土地収用法3条の事業と見なされ、土地を収容されるおそれが生じる(法69条)。
もっとも、都市計画決定の段階においては事業認可の段階ではなく、未だ土地収用のおそれは現実化していないといえる。この場合、原告においては、都市計画決定の段階ではなく、事業計画決定の段階で、抗告訴訟を提起すれば足りる。そうすると、必ずしも、都市計画決定の段階で、処分性を認める必要はない。したがって、原告救済の観点からも処分性を認める必要はない。
4よって、本件都市計画決定には処分性が認められない。
第2 設問2
1本件で、計画を存続させていることは適法か。
2調査の結果、「変更」をおこなう「必要」が明らかになったときには、都道府県知事は都市計画を変更しなければならない(法21条)。そして、この都市計画においては、未来創造的な要素があるため、行政の専門技術的判断を必要とする。そこで、「必要」の判断に際しては、行政庁の裁量が認められる。この場合、計画の変更をしないことが違法となるかは、事実誤認、他事考慮、評価の合理性欠如があるなど、行政庁の判断に裁量権の逸脱・濫用があるかによって判断するべきである。
3適法とする法律論
計画の不変更を適法とする法律論としては、都市計画の未来創造的性格を強調して、裁量が広いことを主張することが考えられる。すなわち、都市計画を決定するに当たっては、「将来の見通し」を考慮するべきであるから、将来の道路需要を見越して、計画を定めることも許される。本件の場合、地元商店街が街のにぎわいを取り戻すための政策を打ち出しており、将来の交通量が増加することが見込まれる状況にある。この将来の予測を考慮すると、道路需要が今後増加することを前提とした都市計画を維持していても、裁量権の逸脱濫用があるとはいえない。
4違法とする法律論
都市計画決定に際しては、「現況」(法13条)を考慮しなければならない。たとえ都市計画に未来創造的要素があるとしも、「現況」を考慮しない計画決定は裁量権の逸脱・濫用があるとの主張が考えられる。すなわち、既に、bc地点の間では空洞化が見られ、街の事業者の努力によっては、にぎわいを取り戻すことはできない状況にある。そして交通量も既に20%減少しており、交通量が増加することを前提とした事業計画には、事実誤認が存在するといえる。また、基準道路密度 については、1キロメートル程度下回るに過ぎないの、これを理由に計画を変更しないことには合理的な評価が存するとはいえない。よって、変更しないことは違法である。
5本件計画存続の適法性
本件の場合、「現況」を無視することは、できないから、前述の計画を違法とする法律論が適切である。よって、本件計画は違法である。
第3 設問3
1本問でPの支払い請求は認められるか。本問の場合、憲法29条3項を直接の根拠として損失補償請求をすることが考えられる。
2ここで、損失補償の要件は、①「公共のために」「用いる」こと、②「特別の犠牲」があることである。
3(1)まず、本問では、都市計画という公共の目的のために、強制的にPに対して建築制限をかしているから、要件①を満たす。
(2)では「特別の犠牲」といえるか。
アまず、本件の制約が、積極的変更か現状維持にすぎないのかが問題となる。この場合、Pは高層の建築を作ることが認められないだけであって、積極的変更を求められているわけではない。そこで、現状維持にすぎないといえる。
イ次に、特別的制約といえるかが問題となるも、Pのみではなく事業地域内のものについて、建築制限が課されているといえるから、一般的制約である。
ウ本質的制約といえるかが問題となるも 、Pは建築自体は制限されていないから、本質的制約があるとはいえない。
エ受忍限度内の制約といえるか。この場合、Pは、すでに30年以上も同様の建築制限を受け続けてきたのであり、建築制限は受忍限度のものといえる。
(3)よって、Pの請求は認められない。
以上
4.25枚 5月23日 再現率90パーセント
よく出来た点
・設問1について会議録の誘導がよく読めたおかげで、処分性を否定する結論にたどり着いた。
・開いた瞬間、処分性と分かった。今年は、既に答練で、2回書いていた。きっと回りも同じだと思ったので、手早く・手短に・あっさり書くことにした。結果的にその作戦で、後ろをしっかり書けたので成功したと思う。
・設問2は答練で似た問題を解いていた。そのため、計画裁量の話だということにはすぐ気が付いた。とりあえず、事案の特殊性を踏まえて、厚く書くことに成功したと思う。
・設問3は、3月に同級生と検討していて、さらに直前にも、厚めに勉強していた損失補償だった。最後の問題ということもあり、周りは、時間切れであっさり書く人が増えそうだと思ったので、逆に設問1、2を早めに切り上げて、多くのスペースを割くことにした。この作戦も個人的には成功したと思っている。
・プランとしては、設問1:2:3=1.8枚:1.7枚:1枚(4.5枚)で行こうと思った。(しかし、設問1は時間を使ったので、予定の分量に達する前に切り上げた。)
失敗した点
・一瞬で、答案の方向性はわかった一方で、条文と事案の分析に時間がかかってしまい、書き出しが47分。さらに、設問1を書いている途中にも、考えながら書くことになり、時間をロスして、書く分量が減った(ただ、思考は点に結実していると信じるが。)。
・設問1では、70条、91条も、使いたかったのだが、時間切れになってしまったのと、処分性を肯定するファクターをあっさり書ききってしまったことから、答案に表現できなかった。
・損失補償の問題は、考慮要素の検討が雑になってしまった。また、丁寧に肯定・否定の事情を摘示することもできなかった。そして、結論に至る過程も「特別の犠牲」がないという締め言葉がないため、論理の飛躍が生じてしまった。
1本件計画決定は、抗告訴訟の対象となる処分に当たるか。本件計画決定が、抗告訴訟の対象たる「行政庁の処分その他公権力行使に当たる行為」(行政事件訴訟法(以下「行訴」という)3条2項)に当たるかが問題となる 。
2ここで、処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち、直接国民の具体的権利義務を形成し、またはその範囲を確定するものを言う。この判断に際しては、原告の権利救済の実効性 も考慮するべきである。
3(1)まず、都市計画決定がなされると、告示がなされることによって、その対象となる地域が明確になる(都市計画法(以下「法」という)14条、都市計画法施行規則47条(※後で小さい文字で挿入))。そして、都市計画決定がなされると、建築物の建築に際して、許可が必要という一定の制限を課せられることになる(都市計画法(以下「法」という)53条)。この意味では、対象地域内の居住者は一定の権利制限を課されることになる。
しかし、この場合、階数が2階以下の建物などの場合には、許可は必要的とされており(法54条)、その意味では計画区域内の居住者の権利制約は大きくない。この場合、居住者の権利制約は間接的なものに留まる。
(2)さらに、事業計画認可の段階に至れば、事業計画区域内の者は、建設などに際して許可を受けなければならなくなり(法65条1項)、土地収用法3条の事業と見なされ、土地を収容されるおそれが生じる(法69条)。
もっとも、都市計画決定の段階においては事業認可の段階ではなく、未だ土地収用のおそれは現実化していないといえる。この場合、原告においては、都市計画決定の段階ではなく、事業計画決定の段階で、抗告訴訟を提起すれば足りる。そうすると、必ずしも、都市計画決定の段階で、処分性を認める必要はない。したがって、原告救済の観点からも処分性を認める必要はない。
4よって、本件都市計画決定には処分性が認められない。
第2 設問2
1本件で、計画を存続させていることは適法か。
2調査の結果、「変更」をおこなう「必要」が明らかになったときには、都道府県知事は都市計画を変更しなければならない(法21条)。そして、この都市計画においては、未来創造的な要素があるため、行政の専門技術的判断を必要とする。そこで、「必要」の判断に際しては、行政庁の裁量が認められる。この場合、計画の変更をしないことが違法となるかは、事実誤認、他事考慮、評価の合理性欠如があるなど、行政庁の判断に裁量権の逸脱・濫用があるかによって判断するべきである。
3適法とする法律論
計画の不変更を適法とする法律論としては、都市計画の未来創造的性格を強調して、裁量が広いことを主張することが考えられる。すなわち、都市計画を決定するに当たっては、「将来の見通し」を考慮するべきであるから、将来の道路需要を見越して、計画を定めることも許される。本件の場合、地元商店街が街のにぎわいを取り戻すための政策を打ち出しており、将来の交通量が増加することが見込まれる状況にある。この将来の予測を考慮すると、道路需要が今後増加することを前提とした都市計画を維持していても、裁量権の逸脱濫用があるとはいえない。
4違法とする法律論
都市計画決定に際しては、「現況」(法13条)を考慮しなければならない。たとえ都市計画に未来創造的要素があるとしも、「現況」を考慮しない計画決定は裁量権の逸脱・濫用があるとの主張が考えられる。すなわち、既に、bc地点の間では空洞化が見られ、街の事業者の努力によっては、にぎわいを取り戻すことはできない状況にある。そして交通量も既に20%減少しており、交通量が増加することを前提とした事業計画には、事実誤認が存在するといえる。また、基準道路密度 については、1キロメートル程度下回るに過ぎないの、これを理由に計画を変更しないことには合理的な評価が存するとはいえない。よって、変更しないことは違法である。
5本件計画存続の適法性
本件の場合、「現況」を無視することは、できないから、前述の計画を違法とする法律論が適切である。よって、本件計画は違法である。
第3 設問3
1本問でPの支払い請求は認められるか。本問の場合、憲法29条3項を直接の根拠として損失補償請求をすることが考えられる。
2ここで、損失補償の要件は、①「公共のために」「用いる」こと、②「特別の犠牲」があることである。
3(1)まず、本問では、都市計画という公共の目的のために、強制的にPに対して建築制限をかしているから、要件①を満たす。
(2)では「特別の犠牲」といえるか。
アまず、本件の制約が、積極的変更か現状維持にすぎないのかが問題となる。この場合、Pは高層の建築を作ることが認められないだけであって、積極的変更を求められているわけではない。そこで、現状維持にすぎないといえる。
イ次に、特別的制約といえるかが問題となるも、Pのみではなく事業地域内のものについて、建築制限が課されているといえるから、一般的制約である。
ウ本質的制約といえるかが問題となるも 、Pは建築自体は制限されていないから、本質的制約があるとはいえない。
エ受忍限度内の制約といえるか。この場合、Pは、すでに30年以上も同様の建築制限を受け続けてきたのであり、建築制限は受忍限度のものといえる。
(3)よって、Pの請求は認められない。
以上
4.25枚 5月23日 再現率90パーセント
よく出来た点
・設問1について会議録の誘導がよく読めたおかげで、処分性を否定する結論にたどり着いた。
・開いた瞬間、処分性と分かった。今年は、既に答練で、2回書いていた。きっと回りも同じだと思ったので、手早く・手短に・あっさり書くことにした。結果的にその作戦で、後ろをしっかり書けたので成功したと思う。
・設問2は答練で似た問題を解いていた。そのため、計画裁量の話だということにはすぐ気が付いた。とりあえず、事案の特殊性を踏まえて、厚く書くことに成功したと思う。
・設問3は、3月に同級生と検討していて、さらに直前にも、厚めに勉強していた損失補償だった。最後の問題ということもあり、周りは、時間切れであっさり書く人が増えそうだと思ったので、逆に設問1、2を早めに切り上げて、多くのスペースを割くことにした。この作戦も個人的には成功したと思っている。
・プランとしては、設問1:2:3=1.8枚:1.7枚:1枚(4.5枚)で行こうと思った。(しかし、設問1は時間を使ったので、予定の分量に達する前に切り上げた。)
失敗した点
・一瞬で、答案の方向性はわかった一方で、条文と事案の分析に時間がかかってしまい、書き出しが47分。さらに、設問1を書いている途中にも、考えながら書くことになり、時間をロスして、書く分量が減った(ただ、思考は点に結実していると信じるが。)。
・設問1では、70条、91条も、使いたかったのだが、時間切れになってしまったのと、処分性を肯定するファクターをあっさり書ききってしまったことから、答案に表現できなかった。
・損失補償の問題は、考慮要素の検討が雑になってしまった。また、丁寧に肯定・否定の事情を摘示することもできなかった。そして、結論に至る過程も「特別の犠牲」がないという締め言葉がないため、論理の飛躍が生じてしまった。