第1 設問1(以下特記なき限り条数は刑事訴訟法を示す。)
1逮捕①について
(1)甲に対する準現行犯逮捕(212条2項)は適法か。
(2)そもそも、準現行犯逮捕の趣旨は、現行犯逮捕に準じて誤認逮捕のおそれが小さく、犯人の身柄確保の必要性が高い逮捕類型について、事前に司法審査を経ることを要求しないという令状主義の例外を定める点にある。そうすると、準現行犯逮捕をするための要件として、明文にはないが、①犯罪と犯人の明白性が必要である。また、文言上②「罪を行い終わって間がない」こと、すなわち時間的接着性、③212条1項各号のいずれかに該当することを要する。さらに、人身の保障のため明文にはないが、④逮捕の必要性も要件となる。
(3) ①について
まず、WがVが男1に刺されるのを目撃し、現にVが死亡していることからしても、犯罪の発生は明白といえる。
つぎに、Vを刺した男1は「身長190センチメートル、痩せ型、20歳くらい、上下とも青色の着衣、長髪」という特徴が、甲の特徴とぴったりと一致する。また、犯行は10時2分ころH公園で行われ、男1らは公園の北西の方向へ逃げていったのである。そして18分後の10時20分に公園の北西800メートルのところに、男1が現れたのである。この場合、人が徒歩で4キロメートル毎時程度で歩くと、ちょうどたどり着く位置関係にあり、甲が男1であると考えれば、上記の事実と符合するのである。そうすると、甲について犯人としての明白性があるといえる(①)。
(4)③について
甲の上下の着衣、靴には一見して血と分かる赤い液体が付着していることからすれば、Vの事件との関連が伺われるので「犯罪の顕著な証跡」(212条2項3号)があるといえる(③)。
(5)②について
犯行があったと考えられる時刻から18分後に逮捕されているので、時間的接着性も認められる(②)。
(6)甲は逃亡のおそれも否定できないし、殺人は重大事件だから逮捕の必要性もある(④)。
(7)以上より、逮捕①は適法である。
2 逮捕②について
(1)乙に対する逮捕でも前述①~④の基準で適法性を判断する。
(2)①について
前述のように犯罪の発生は明らかであり、犯罪の明白性がある。
また、甲で検討した位置についての事情に加えて、男2の「身長170センチメートル、小太り、30歳くらい、上が白の着衣、下が黒色の着衣、短髪の男」という特徴は、乙にぴったりと一致するから、乙についても犯人としての明白性もある。
(3)②、④については、甲で検討したのと同様に乙についても認められる。
(4)③については
乙自身について212条2項各号に当たる事情はない。
この点につき、共犯者甲に3号該当事由があれば、乙についても3号に該当すると考えることも可能である。
しかし、前述のように、準現行犯逮捕が令状主義の例外をみとめた点からすれば、212条2項の解釈も厳格に判断するべきである。そうすると、共犯者の各号該当事由をもって、その他の共犯者の該当事由が充足されるというべきではない。
本件では、乙については各号要件を充足しないといえる。
(5)よって、逮捕②は違法である。
3差押さえについて
(1)本件では、逮捕場所の路上から300メートル離れた交番行く途中の、路上から200メートル離れた場所で差押さえをしている。この差押さえは、「逮捕の現場」(220条1項2号)と同視しうるとして、適法にならないか。
ア そもそも、220条1項は逮捕に際して、差押さえをすることを許容している。この場合、法は差押さえの実効性を確保するために必要な付随処分をすることも許容しているといえる。そうすると、逮捕に伴う実効性を確保するために必要な場合には、連行とじょうで差押さえをなすことも「逮捕の現場」と同視できるとして適法になるというべきである。
イ 本件では、甲に対して差押さえを前記路上においてしようとしたところ、甲は暴れ始めており、そのままでは差押さえを実施できない状況にあった。しかも酒に酔った学生の集団が甲を取り囲んでおり、一台の車が通行できず停車を余儀なくされており、交通に支障が生じかねない状況にあった。この場合、差押さえの実効性を確保するために逮捕場所でないところに移動することが必要であったといえる。そうすると逮捕場所でない前記路上で差押さえをすることも、逮捕場所でない場所への移動の際中であり、「逮捕の現場」と同視することが可能である。
(2)つぎに、本件では差押さえた携帯電話の記録内容を確認していない。この点について、差押さえおいて原則として、目的物が引き事実と関連性があることを確認するのが原則である(憲法35条参照)が、本件では乙から送信されたメールが残っているとPは考えて差し押さえているから、携帯電話について関連性を認めることができる。
(3)よって、差押さえは適法である。
第2 設問2
1 実況見分調書全体について
(1)本件で、実況見分調書はPの供述書としての性格を有する。この場合、本件実況見分調書は、「公判期日おける供述に代えて」書面を証拠とする場合にあたり、原則として証拠能力が否定される(320条1項)。
(2)そして、本件実況見分調書は、Pの五官の作用で知覚した内容を記載したものであるから、検証に類似した作用を記録したものである。そこで、321条3項により証拠能力が認められないか。
この点につき、検証類似の行為については、書面による方が口頭による報告よりも優れている。そこで、321条3項はより緩やかの要件のもと伝聞例外を認めているのである。そして、書面による報告が優れているのは、検証類似の作用も同様であり、この場合についても321条3項は類推適用されるというべきである。
本件では、前述のようにPの本件実況見分調書は検証類似の作用を有している。したがって、321条3項により「真正」「立証」すなわち名義と作成の真正が立証されれば、全体として本件実況見分調書は証拠能力が認められる。
2別紙1,2について
(1)別紙1、2の部分について、別途伝聞法則が適用され、証拠能力が否定されないかにつき検討する。
そもそも、伝聞法則の趣旨は、人の供述が知覚・記憶・叙述の過程で誤りが混入するおそれがあるにもかかわらず、反対尋問等で真実性を確認することができないため、念のため証拠能力を否定する点にある。そうすると伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とする証拠で供述内容の真実性を確認するためのものをいう。そして伝聞証拠にあたるかは、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるかによって判断する。
(2)要証事実
本件では、確かに甲は殺人について一貫して黙秘している。しかし、共犯者乙は甲の犯行につき自白しており、さらにWがVの殺害現場を目撃しており、甲が犯人である点については直接証拠が存在する。そうすると、立証趣旨の「犯行状況」「Wが犯行を目撃することが可能であった」という点については、不合理性はなくそのまま、要証事実になると考える。
(3)別紙1の証拠能力
ア説明部分
説明部分のうち「犯人の一人が」「包丁を突き刺した」の部分は、その内容の真実性で「犯行状況」を立証することになっているから、伝聞証拠に当たる。
イ写真部分
写真部分は、犯行当日にWが目撃した経験をWの指示通りに再現したものであり、知覚内容で「犯行状況」を立証することになっており、内容の真実性が問題となるから伝聞証拠である。
ウそして、別紙1について証拠能力を認めるためには、321条1項3号の伝聞例外を満たす必要がある。この場合、①供述不能、②絶対的特信性、③不可欠性が要件となる。そして本件では、Wの証人尋問が可能であるから、①の要件を欠く。
よって、本件では別紙1は証拠能力が認められない。
(4)別紙2について
ア説明部分
説明部分中「私が犯行を目撃した時にたっていた場所はここです」の部分は、その内容の真実性をもって「Wが犯行の目撃が可能であったこと」を立証するから、伝聞である。この部分は伝聞例外の要件を満たさないから証拠能力がない。
一方その他の部分は、実況見分の一部のいわゆる現場指示であり、証拠能力をみとめることができる。
イ写真部分
写真部分については、実況見分の一部であるから証拠能力がみとめられる。
以上
再現日 5月21日 6枚 答案構成40分 記述80分
1逮捕①について
(1)甲に対する準現行犯逮捕(212条2項)は適法か。
(2)そもそも、準現行犯逮捕の趣旨は、現行犯逮捕に準じて誤認逮捕のおそれが小さく、犯人の身柄確保の必要性が高い逮捕類型について、事前に司法審査を経ることを要求しないという令状主義の例外を定める点にある。そうすると、準現行犯逮捕をするための要件として、明文にはないが、①犯罪と犯人の明白性が必要である。また、文言上②「罪を行い終わって間がない」こと、すなわち時間的接着性、③212条1項各号のいずれかに該当することを要する。さらに、人身の保障のため明文にはないが、④逮捕の必要性も要件となる。
(3) ①について
まず、WがVが男1に刺されるのを目撃し、現にVが死亡していることからしても、犯罪の発生は明白といえる。
つぎに、Vを刺した男1は「身長190センチメートル、痩せ型、20歳くらい、上下とも青色の着衣、長髪」という特徴が、甲の特徴とぴったりと一致する。また、犯行は10時2分ころH公園で行われ、男1らは公園の北西の方向へ逃げていったのである。そして18分後の10時20分に公園の北西800メートルのところに、男1が現れたのである。この場合、人が徒歩で4キロメートル毎時程度で歩くと、ちょうどたどり着く位置関係にあり、甲が男1であると考えれば、上記の事実と符合するのである。そうすると、甲について犯人としての明白性があるといえる(①)。
(4)③について
甲の上下の着衣、靴には一見して血と分かる赤い液体が付着していることからすれば、Vの事件との関連が伺われるので「犯罪の顕著な証跡」(212条2項3号)があるといえる(③)。
(5)②について
犯行があったと考えられる時刻から18分後に逮捕されているので、時間的接着性も認められる(②)。
(6)甲は逃亡のおそれも否定できないし、殺人は重大事件だから逮捕の必要性もある(④)。
(7)以上より、逮捕①は適法である。
2 逮捕②について
(1)乙に対する逮捕でも前述①~④の基準で適法性を判断する。
(2)①について
前述のように犯罪の発生は明らかであり、犯罪の明白性がある。
また、甲で検討した位置についての事情に加えて、男2の「身長170センチメートル、小太り、30歳くらい、上が白の着衣、下が黒色の着衣、短髪の男」という特徴は、乙にぴったりと一致するから、乙についても犯人としての明白性もある。
(3)②、④については、甲で検討したのと同様に乙についても認められる。
(4)③については
乙自身について212条2項各号に当たる事情はない。
この点につき、共犯者甲に3号該当事由があれば、乙についても3号に該当すると考えることも可能である。
しかし、前述のように、準現行犯逮捕が令状主義の例外をみとめた点からすれば、212条2項の解釈も厳格に判断するべきである。そうすると、共犯者の各号該当事由をもって、その他の共犯者の該当事由が充足されるというべきではない。
本件では、乙については各号要件を充足しないといえる。
(5)よって、逮捕②は違法である。
3差押さえについて
(1)本件では、逮捕場所の路上から300メートル離れた交番行く途中の、路上から200メートル離れた場所で差押さえをしている。この差押さえは、「逮捕の現場」(220条1項2号)と同視しうるとして、適法にならないか。
ア そもそも、220条1項は逮捕に際して、差押さえをすることを許容している。この場合、法は差押さえの実効性を確保するために必要な付随処分をすることも許容しているといえる。そうすると、逮捕に伴う実効性を確保するために必要な場合には、連行とじょうで差押さえをなすことも「逮捕の現場」と同視できるとして適法になるというべきである。
イ 本件では、甲に対して差押さえを前記路上においてしようとしたところ、甲は暴れ始めており、そのままでは差押さえを実施できない状況にあった。しかも酒に酔った学生の集団が甲を取り囲んでおり、一台の車が通行できず停車を余儀なくされており、交通に支障が生じかねない状況にあった。この場合、差押さえの実効性を確保するために逮捕場所でないところに移動することが必要であったといえる。そうすると逮捕場所でない前記路上で差押さえをすることも、逮捕場所でない場所への移動の際中であり、「逮捕の現場」と同視することが可能である。
(2)つぎに、本件では差押さえた携帯電話の記録内容を確認していない。この点について、差押さえおいて原則として、目的物が引き事実と関連性があることを確認するのが原則である(憲法35条参照)が、本件では乙から送信されたメールが残っているとPは考えて差し押さえているから、携帯電話について関連性を認めることができる。
(3)よって、差押さえは適法である。
第2 設問2
1 実況見分調書全体について
(1)本件で、実況見分調書はPの供述書としての性格を有する。この場合、本件実況見分調書は、「公判期日おける供述に代えて」書面を証拠とする場合にあたり、原則として証拠能力が否定される(320条1項)。
(2)そして、本件実況見分調書は、Pの五官の作用で知覚した内容を記載したものであるから、検証に類似した作用を記録したものである。そこで、321条3項により証拠能力が認められないか。
この点につき、検証類似の行為については、書面による方が口頭による報告よりも優れている。そこで、321条3項はより緩やかの要件のもと伝聞例外を認めているのである。そして、書面による報告が優れているのは、検証類似の作用も同様であり、この場合についても321条3項は類推適用されるというべきである。
本件では、前述のようにPの本件実況見分調書は検証類似の作用を有している。したがって、321条3項により「真正」「立証」すなわち名義と作成の真正が立証されれば、全体として本件実況見分調書は証拠能力が認められる。
2別紙1,2について
(1)別紙1、2の部分について、別途伝聞法則が適用され、証拠能力が否定されないかにつき検討する。
そもそも、伝聞法則の趣旨は、人の供述が知覚・記憶・叙述の過程で誤りが混入するおそれがあるにもかかわらず、反対尋問等で真実性を確認することができないため、念のため証拠能力を否定する点にある。そうすると伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とする証拠で供述内容の真実性を確認するためのものをいう。そして伝聞証拠にあたるかは、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるかによって判断する。
(2)要証事実
本件では、確かに甲は殺人について一貫して黙秘している。しかし、共犯者乙は甲の犯行につき自白しており、さらにWがVの殺害現場を目撃しており、甲が犯人である点については直接証拠が存在する。そうすると、立証趣旨の「犯行状況」「Wが犯行を目撃することが可能であった」という点については、不合理性はなくそのまま、要証事実になると考える。
(3)別紙1の証拠能力
ア説明部分
説明部分のうち「犯人の一人が」「包丁を突き刺した」の部分は、その内容の真実性で「犯行状況」を立証することになっているから、伝聞証拠に当たる。
イ写真部分
写真部分は、犯行当日にWが目撃した経験をWの指示通りに再現したものであり、知覚内容で「犯行状況」を立証することになっており、内容の真実性が問題となるから伝聞証拠である。
ウそして、別紙1について証拠能力を認めるためには、321条1項3号の伝聞例外を満たす必要がある。この場合、①供述不能、②絶対的特信性、③不可欠性が要件となる。そして本件では、Wの証人尋問が可能であるから、①の要件を欠く。
よって、本件では別紙1は証拠能力が認められない。
(4)別紙2について
ア説明部分
説明部分中「私が犯行を目撃した時にたっていた場所はここです」の部分は、その内容の真実性をもって「Wが犯行の目撃が可能であったこと」を立証するから、伝聞である。この部分は伝聞例外の要件を満たさないから証拠能力がない。
一方その他の部分は、実況見分の一部のいわゆる現場指示であり、証拠能力をみとめることができる。
イ写真部分
写真部分については、実況見分の一部であるから証拠能力がみとめられる。
以上
再現日 5月21日 6枚 答案構成40分 記述80分