第1 設問1(以下特記なき限り条数は会社法を示す)
1 EのFに対する甲社株式譲渡の効力
甲社は、株式すべてに譲渡制限がついており(甲社定款5条)、 
非公開会社にあたる(2条5号参照)。したがって、株式を譲渡するためには、会社の承認(139条1項)が必要である。
 そして、EはFともに、譲渡承認請求をなし(137条1項)、甲社は2週間以内に139条2項の通知をEにしていないため、145条1号により、承認したものと見なされる。
 したがって、本件で、Eに対する株式譲渡は有効である。
2では、甲社が平成25年総会で、Fと株主として取り扱うことはできるか。本件では、Fのために名義書き換えが未了となっている。このような名義書き換え株主を、株主として会社が取り扱うことができるかが問題となる。
 そもそも、法が名義書き換えをしなければ、「株式会社」に対して譲渡を「対抗できない」とした趣旨は(130条1項、2項)は、会社が一定の基準で株主との関係を画一的に処理できるようにすることで会社の事務処理の便宜を図る点にある。そうすると、会社の側から株主にたいして個別的な取り扱いすることが可能な場合については、会社に画一的な取り扱いを要求する必要はない。したがって、会社の側から、名義書き換え株主を株主として取り扱うことも許容されるというべきである。
 本件では、甲社は、名義書き換え未了のFを株主として扱うことができる。よって、甲社はFを平成25年総会で株主として扱うことは正当である。
第2設問2  
1 小問(1)
(1)Bは、報酬決議の効力を否定するため、株主総会決議取消の訴え(831条1項)を提起することが考えられる。
Bは、「株主等」(831条1項)にあたるため、出訴期間制限内であれば、株主総会決議取消の訴えを適法に提起できる。以下、取消事由につき検討する。
(2)会議の目的外事項の決議
 ア 本件で、Aは通知に記載されていた議案①、②以外の報酬の引き上げについて、決議している。これは、会議の目的外事項を決議したものとして、「決議の方法」の「法令」「違反」に当たる。
イ そもそも、法299条1項は、株主総会の招集通知には、会議の目的となる事項を掲載しなければならないと規定する。この趣旨は、株主に事前に議案を判断する機会を与える点にある。そうすると、株主総会で、会議の目的外事項を決議することは、299条1項に反し、「法令」違反にあたる。
ウ 本件では、Aは前述のように、通知に掲載されない、報酬増額の件について、株主総会の議場において決議しているから、法令違反が存在する。
(3)Qから相続した株式の議決権行使を認めなかった点について
ア 本件で、AはQからの相続株式について、議決権行使を認めていない。この点が、「決議の方法」が「著しく不公正」として(831条1項1号)として、取消事由にあたらないか。
イそもそも、106条本文が権利行使者の指定を定めたのは、権利行使者を指定することによって、会社の事務処理の便宜を図ることを趣旨とするものだから、会社の事務を停滞させないために、権利行使者の指定は準共有株式の持分の過半数で行うことができるというべきである。
ウ 本件では、平成25年1月20日に、Qの相続株式のうち3分の2にあたる80株分を有するBCの合意のもと権利行使をBを定めるものとされているのである。この場合、過半数を得たBが権利行使者である。そうすると、AはBのQから相続した120株分の権利行使を認める必要があった。そして、Aは、このBの権利行使を認めない取り扱いをしているため「決議の方法」が「著しく不公正」といえ、取消事由が認められる。
2小問(2)
(1)甲社が報酬の返還を主張するために、平成25年総会後の取締役会において特別利害関係人(369条2項)が権利行使したとして無効を主張することが考えられる。本件報酬決議で報酬の上限が定められ、取締役会に一任決議(361条1項)なされている。この場合、報酬を分配する取締役会決議で初めて報酬請求権が発生するからである。
 ここで、特別利害関係人とは、公正な議決権行使を期待できないものをいう。
 本件では、A、Q、G 、取締役会決議によって、それぞれ2億円、2000万円ずつという報酬を新たに得るのであり、公正な議決権行使を期待できないものにあたるから、特別利害関係人に当たる。
(2)特別利害関係人が議決権を行使した取締役会決議については法の一般原則に従い、無効となる。
 本件では、取締役会決議は無効といえる。
(3)よって本件では取締役会決議が無効なため、Aは2億円、DGはそれぞれ2000万円につき甲社から返還請求をうけることになる。
第3 設問3
1①について
(1)平成25年3月17日の時点では、払い込み期日4月1日が未了なので、新株発行の効力は生じていない(209条1号)。そこで、新株発行を阻止するために、新株発行差し止めの請求(210条)をなすことが考えられる。本件では、差し止め事由として「著しく不公正な方法」(210条2号)といえるかが問題となる。 
(2)ここで、「不公正」とは、現経営陣の支配権維持を主要な目的していることをいう。
(3)本件では、Aは自己の支配権を維持する目的でBCが短期間で調達困難な多額の出資を伴う新株発行を行おうとしている。そして、現にBCは出資額を調達できていないのである。この場合、資金調達目的は認めることができず、専らAが支配権を維持することを主要な目的とするものといえるから「不公正」である。
(4)よって差し止めが認められる。
2②について
(1)この場合、新株発行がなされた後であるから、新株発行無効の訴え(828条1項2号)をすることが考えられる。
(2)無効事由については、明文がないが、新株発行が無効となると、利害関係者に重大な影響を及ぼす。そこで、利害関係者の利益を犠牲にしても新株発行を無効とするべき、重大な瑕疵に限るべきである。
(3)本件では、甲は非公開会社であり、新株発行を無効としても、利害関係者に与える影響は大きいとはいえない。そこで、本件で株主総会決議が取り消されれば、内部的意思決定を欠くものとして、重大な瑕疵がみとめられ、新株発行は無効というべきである。

5月25日再現
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