#117炎の向こう(完結) | 大概堂跡地

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その窮鳥は、日本政府の高官と組んで清国を打倒したが、王朝の伝統までも消し去った。

 

最早、自分は何のために生きているのかわからなくなった。

手元にあるのは、自分の体内を流れる、不完全な『死を奪う毒薬』と、異国の地で営む旅館で或る。

 

革命後の混乱下に喘ぐ同胞らを甘言で誘い、実験体にする。

『薬』の量や質を変え、どのような生を生きて終えるかを観察する。

 

しかし、自分と完全に同一のもの、そして、完全な『薬』を持つ者には三百年出会っていない。

それがなければ、この実験と称した悪趣味な、倫理観のない行動は何の進展もない。

 

―――『完全』を手にすれば、あるいは。

 

今やそれだけが、自分の魂を殺さぬようにするよすがであった。

 

―――例えば、誰かが人であった頃の私の名を呼んでくれるなら。

―――その時こそ、私は安らかに、燃え盛る炎の中で眠れるだろうに。

 

そんな人間は、もうこの世に存在しない。

 

ふとTV画面に目を戻すと、そこにはフォーゲルスの選手が大写しになっていた。

右下のテロップには、『三村 敦宏』と表示されていた。

 

―――なるほど、こいつが件の『アツ先輩』か。

―――こいつの様な人間が、私の『薬』を口にしたら、どんな生き物になってくれるだろうな。

 

言っては悪いが、今回の合併を回避できる可能性は果てしなく低い。

既に企業間や協会で合意がついているであろうものが、そうそう簡単に覆るものか。

 

そして、そういう現実を目の当たりにした人間が。

自分の『薬』を口にした後の行動が、今の張嫣にとっては重大な関心事項であった。

 

「面白そうな男だ」

張はそう呟くと、TVを消して、従業員を招集するためにホールへ向かった。

 

 

***

 

Servatis a periculum!    我らを危難から救い給え!

Servatis a maleficum!    我らを邪悪から救い給え!

 

 

《終》