一般の民間企業と同様に診療機関にとっても、悪質なクレーマーの存在は頭が痛い。病気に苦しむ患者やその家族が、医師や看護師に文句を言いたい気持ちは理解できる。しかし、「院内暴力」の問題に詳しい関西医科大学の三木明子教授は、「医療機関側が適切な対策を取らないと、診療機能が低下するばかりでなく、職員が退職に追い込まれる不幸な事態を招きかねない」と警鐘を鳴らす。日本外来小児科学会の春季カンファレンスにおける三木氏の特別講演を基に、問題点を探った。

 

都内私立病院職員、4割超が被害

 全日本病院協会が2007年12月から08年1月にかけて会員の2248病院を対象に、院内暴力やリスク管理などに関するアンケート調査を実施した(有効回答率49.2%)。その結果、52.1%の病院が過去1年間に職員に対する精神的・身体的暴力、セクハラなどの被害を受けていたことが分かった。
 暴言などの精神的暴力は、患者本人によるものが2652件、家族らによるものが784件だった。身体的暴力では、患者本人が2253件、家族らが62件だった。セクハラは、患者本人173件、家族らが35件だった。
 東京都内の私立大付属病院に勤務する2万9065人を対象に11年に行われた調査(有効回答率78.6%)によると、暴言が41.5%、暴力が14.8%、セクハラが14.1%。全体の44.3%の職員が暴言・暴力・セクハラのうち何らかの被害を受けていた。「退職したいと思った」「死にたかった」などと回答した人もいるにもかかわらず、24.8%が「我慢した」と回答。病院内で整備されているサポート体制への認知度も極めて低かった。
 自分や家族が病気になって医療機関を受診した際、「対応が悪い」と感じたら、文句を言いたくなるのはある意味で当然だろう。三木氏は「こうした一般のクレーマーと、悪質クレーマーは違う」と強調する。後者は「要求の根拠が正当ではなく、理不尽な要求も多い。身体的な暴力を含む粗野な行動を取るケースもある」。他者に対する共感性に乏しく、相手が弱いとみると、徹底的に攻撃してくるのが特徴だ。

 

狙われやすい女性・若年・新人

 三木氏によれば、悪質クレーマーに狙われやすい医療現場の職員は「女性、若い人、新人」だ。過剰におびえたり、コミュニケーションの能力が未熟だったりする職員は相手に攻撃されやすい。いわゆる「切れやすい性格」のスタッフの場合は挑発に乗りやすく、大声を出したりするなどトラブルを招く恐れがある。三木氏は「正義感が強過ぎる人は一人で問題を抱え込む傾向がある。そうではなく、悪質クレーマーには複数で対応する必要がある」と述べた。
 1992年、集中治療室のベッドで暴れた患者が、対応に当たっていた看護助手をかんだ。この助手はその後、C型肝炎を発症。訴訟となり、裁判所は病院側に安全配慮義務違反があったとして損害賠償を命じた。
 2009年、新潟県の病院で患者が看護師4人を1時間にわたって土下座させ、仲裁に入った医師に暴行を加えたとして、威力業務妨害と暴行の容疑で警察に逮捕された。患者は深夜のナースコールに対し、「来るのが遅い」「自分の顔を見て笑った」などと、言い掛かりをつけた。
 神奈川県の病院で熱心に毎日、子どもの面会に来る父親がいた。ある日、看護師に「俺の子どもを虐待した。土下座して謝れ」と迫った。看護師はそんなことはしていなかったが、「良い父親」というイメージを持っていた主治医と看護師長は、看護師に謝罪するよう指示した。看護師はショックを受け、小児科病棟で働くことができなくなった。暴言による医療スタッフに対する2次被害だ。

 

スタッフを追い詰めない

 こうした事態は「職員のメンタルヘルスや仕事に対する満足度の低下を招き、患者への対応ミス、医療事故の増加につながりかねない」と三木氏は指摘する。それを防ぐために「病院やクリニック側が注意すべきことがある」と話す。
 「なぜ、すぐに相談しなかったのか」「なぜ、患者(家族)を怒らせたのか」。こう詰問するのは、「原因追及」で傷ついたスタッフをさらに追い詰める。「あなたの対応が適切ではなかった」という言い方は、問題を個人の責任に押し付ける。「誰もが経験していることだから」は根拠のない慰めだ。「一緒に飲んで嫌なことを忘れよう」「気晴らしをした方がいいね」は問題の先送りにすぎない。
 では、病院やクリニックなどはどう対応したらよいのか。三木氏は「まず、規模に応じてできることから始めることだ」と言う。対応マニュアルやガイドラインを作成し、あれば改訂していく。「何より大事なことは、医療機関のトップが院内暴力を許さず、職員を守るという方針を明確にすることだ」と強調した。

 

治療費不払いは厳禁

 こんなケースが紹介された。病院の救急外来に深夜、酩酊(めいてい)状態の外国人が仲間を伴って集団で来院する。他の患者に迷惑が掛かり、診療が滞り、暴力行為に発展しやすい。酩酊状態の外国人に殴られ、複数の人間が負傷したことを機に、病院は対策を講じた。こうした場合に備え、まずルールを定めることが重要だ。「感染症対策で付き添いの人数を制限させてもらいます」と明示するとともに、対応する職員を決めておき、診療とは別に対応するのがよいだろう。
 ある医師からは「子どもの親が治療に満足せず、料金を払わずに帰ってしまった」との報告があった。三木氏は「一度でも不払いを認めてしまうと、あそこの医院は『不払いでも大丈夫』と思われ、うわさがすぐに広まってしまう。不払い行為を認めることは駄目だ」と力説した。

 

 

https://medical.jiji.com/topics/557?page=1

 

職員への暴力・暴言対応マニュアル(高知大学医学部付属病院)

http://www.kochi-ms.ac.jp/~hsptl/info/old/manyuaru.pdf

 

医療機関における暴力行為の対策(メディカルオンライン医療裁判研究会)

http://www.medicalonline.jp/pdf?file=hanrei_201702_01.pdf

 

患者からの暴力をなくし,職員を守りたい(筑波大学)

http://www.tsukuba.ac.jp/notes/030/index.html

 

医療現場での暴力対策(日本看護協会)

https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/safety/violence/index.htmlhttps://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/safety/violence/index.html

 

 

モンスター患者対応の心得(EPILOGI)

https://epilogi.dr-10.com/articles/1913/