中村修二教授 University of California, Santa Barbara
ー米国学術界の状況は。
「米国は基礎的な研究は国の資金にサポートされているが、工学系の研究室はほとんど民間資金で運営している。国のサポートは小さく、民間から資金を集められなければ研究を続けられない。工学系の教授の50%は自分の会社を持っていてほぼ100%が企業向けにコンサルしている。教授はベンチャー経営者のようなものだ。企業へのコンサルで接点を作り、共同研究の資金を集める。これを原資に研究体制を整える。私はベンチャー2社を経営しているが、多い方ではない」
「我々は教授4人のチームで研究センターを運営しており、教授一人約10人のドクターコースの学生を雇っている。私は年間で約1億円集めないと研究室が倒産する。このためチーム全体では年間4億円を集めている。窒化ガリウム系デバイスの研究では私たちが米国1、2位の規模になる」
ー2000年に渡米した直後から営業回りができたのでしょうか。
「始めからできたわけではなく、同僚の教授に助けてもらった。普段は2人か3人で企業を回り、共同研究を提案している。企業がどんな研究なら納得するか、産業界出身者でないと勘所がわからないだろう。実際、工学系の教授は企業経験者がほとんどだ。米国の教授はスポンサーを探して世界中を飛び回る。私はサウジアラビアやロシア、マレーシアなど可能性があればどこにでも飛んで行く。米国研究者にとって中国企業はいい顧客になった。研究成果が出れば、真っ先に企業に次の共同研究を提案しにいく。学会は招かれれば講演するが発表は学生に任せる」
ー企業との共同研究で学生を教育できますか。
「大学の仕事は学生を育てて、論文を書かせることだ。そのため秘密保持契約(NDA)は、できるだけ結ばない。NDAを結んだら成果を発表できず、学生の業績にならない。共同研究の成果物は特許だ。特許の実施権を提供して納得してもらっている。研究費は年間約1億円にのぼる」
ー日本では工学系が産学連携で研究資金を稼ぎ、間接経費として大学に回すというシナリオが期待されています。
「工学系の資金が理学系に流れることは、まずないだろう。米国でも国からの研究予算は、その40-50%を間接経費として大学本部に収める。だが民間企業は費用対効果に厳しく、企業は無駄金を払いたがらない。大学側も寄付金などの形式にして間接経費の規定に触れないように対応している。原則は認められないはずだが、大学の法務部門も柔軟なパスを用意しているのが普通だ。制度こそあるものの、すべて交渉可能だ。また大学への寄付は企業にとっては節税になる。億万長者が自分の名前を後世に残すためにビルを建てたがる。ミシガン大学などは、建設用の敷地が足りないと担当者が漏らすほど寄付が集まっている」
「米国では政府は大学の経営に口を出さない。日本では大学が一つ一つ文部科学省にお伺いをたてて、官僚主義で検討もされずに認められない。米国の研究者は自由だ。実力があれば資金を集め、大学と交渉していく。そしてスポンサーとなればロシアや中国など、米国の仮想敵国にさえ通い詰める。日本の大学は日本の企業だけ相手にして、チャンスをつぶしている」
ートランプ政権で研究環境は変わりましたか。
「新大統領はグリーンエネルギーを信じていない。ファンディング機関のエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)を解体すると明言し、2000-3000人の職員が職探し中だ。ただ慣れたもので起業する人、大学や産業界にポストを求める人、さまざまだ。私の研究プロジェクトは完了まで資金が続くことになっているが、業界としてはしばらく落ち着かないだろう」
ー大量リストラで日本にも人材が来るかもしれませんね。
「日本は選ばれないだろう。最近、給料を増すからと東大に引き抜かれた同僚が1年で帰ってきた。『あんな共産主義国(=東大)では研究できない』と漏らしていた。京大に准教授としてスカウトされて帰ってきた研究者は、『同じ研究室にもかかわらず教授との面会にアポが必要。直接連絡がつかない』と嘆いていた。日本の研究室は上意下達が過ぎる。米国は学生と教授が対等だ。もし研究で不正を強いれば、裁判になり、自分の首が飛ぶ」
「日本は職位や性別、年齢、健康で差別がある。企業も採用試験で研究内容や専門性ではなく、部活動や趣味など、課外活動について尋ねる。研究者や技術者の人事選考で研究以外の経験で人物を選ぶ国だ。研究者や科学技術を尊重する社会ではない」
「そして官僚主義がまん延している。私はノーベル賞の際に米国の市民権を取ったことを話した。すると二重国籍は問題だと日本のパスポートは更新できなくなり、取り上げられた。同僚の在米ドイツ人研究者はノーベル賞受賞を機に特例で二つ目のパスポートが贈られた。ドイツも二重国籍を認めていない。日本の社会はノーベル賞に狂喜するが、日本の政府は官僚主義だ。この対応の差に同僚たちも驚いていた」
ー研究者を目指す若者へのメッセージを。
「工学系を目指す若者は、まず日本から出ることだ。そして企業を経験することを薦める。ただ日本は半導体や家電、太陽電池など、どの産業も地盤沈下している。学術界も産業界も沈んでいく国に留まり、それでも支援を求めて国にすがりつく日本の大学研究者にどんな未来があると思うか。若者には自分の脚で立ち、生き抜く術を身につけてほしい」
「本来、こんなにも悲惨な状況に置かれていて、米国なら市民が政府を訴える。このインタビューは日本で読まれる限り、私の言いっ放しになるだろう。官僚や政治家、市民、日本は誰も動かない。米国なら司法を通じて市民が社会を変えることができる。日本は何も変わらない。それが当たり前だ、仕方ない、と思っているから沈んでいるということに気が付くべきだ。一度すべて壊れなければ、若い世代が再興することもできないのだろう」
中村修二
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E4%BF%AE%E4%BA%8C
ノーベル賞・中村修二教授「科学者が金持ちになれないと、日本は変わらない」 高校生に講演
東京大学 世界ランキング(2016-2017) 34位
東大は「世界トップクラス」の約束を守れるか
東大総長が描く社会変革の駆動役
2017年度に始まった世界最高水準の教育・研究と社会還元を目指す「指定国立大学法人」制度。第1弾として指定されたのは東京大学、京都大学、東北大学だ。3大学は日本の大学の財政基盤やガバナンス(統治)を世界トップクラスの大学に近づけ、イノベーション創出に貢献する存在へと変える先駆者としての役割を担う。東大の五神真総長にその道のりを聞いた。
―指定国立大学法人構想のポイントは。
「自ら高い目標を設定し運営の自律性を高める中で、世界最高水準の教育研究に加え、イノベーションを通じて社会変革を担うことが求められる。そこで全学で議論し、目標を『地球と人類社会の未来に貢献する知の協創の世界拠点の形成』と定めた。国連の持続可能な開発目標(SDGs)も参照しつつ、より良い社会の姿を具体的に示し、大学が変革の駆動力となり、人類社会全体の調和的発展に貢献する」
―従来型の産学連携ではなく、企業とともに未来社会の議論と創造を行う“産学協創”を掲げています。
「産業界は『何に投資すべきか』に悩んでいる。社会が大きな転換期にある中、大学と企業が対等に議論し、東大が産業界にとって価値を生み出す存在となり、産学で社会変革を加速させる」
―本当に大学が産業界をリードできるのでしょうか。
「超スマート社会への転換により、産業的価値の重点がモノから知識へと大胆にシフトする。知・技・人材・情報インフラを蓄積している大学は、知識集約型産業創出の最適地となるはずだ」
―東大の年間事業費約2600億円に加えて計画する新財源の目的は。
「04年の法人化以後、運営費交付金の減少、安全対応など管理コスト増により、基盤財源を年間200億円以上失った。任期のない40歳未満の教員は、10年間で520人も減り、国際競争力低下を招いた。新しい学問を創ることに挑戦するには若手雇用の安定化が不可欠だ。予算配分の透明化を全学で徹底し効率化することと財源の多様化を進める。雇用制度を改革し、300人の若手の正規雇用枠を生み出す。既に成果が出つつある」
―財源創出の方法は。
「運営から経営への発想転換が基本だ。大学を社会の公共財と捉え、大学が生み出す社会的な価値を可視化し、投資を呼び込む。また、重要施策の一つがインキュベーション施設の拡充だ。延べ床面積で合計1万平方メートル以上とし、ベンチャー企業の創出や大企業との連携の拠点とする。さらに、土地活用、寄付強化により、安定的で自律的な経営基盤を獲得し、21年度までに、まず実質100億円程度の財源を生み出す計画だ」
指定国立大でも別格のブランド背負う
【指定国立大の役割】
指定国立大学法人制度は各大学が人材獲得、分野融合や新分野創出に向けた研究強化、財務基盤強化などについて海外大学の取り組みを踏まえて目標を設定。産業社会にインパクトを与える研究成果を発信し、学外から資金を集めて研究活動の好循環を目指す。
もともと国立大を法人化したのは運営の自律化を促すため。「本来の狙い通り自律してもらう」(文部科学省高等教育局)べく、指定国立大学法人をリード役とする。
東大の計画は起業支援などで、100億円程度の財源を生み出す。その財源は若手研究者の支援などに充てる。
京大は18年度に、研究成果を生かしたコンサルティング事業会社を設立する。東北大は今春開設の「青葉山新キャンパス」に約4万平方メートルの「サイエンスパークゾーン」を設置して、産学連携のパートナー企業を誘致する。
<記者の目>
指定国立大を選ぶ審査委員会では、多くの委員が「国立大の財務基盤は、競争力ある世界の大学と比べ、非常に脆弱だ」と懸念を示したという。通常の国立大であれば、話は一直線に「運営費交付金の縮小が元凶だ!」となるだろう。しかし指定国立大となった東大は、違う。自らの努力で100億円の財源を、国立大の第3期中期計画期間内に生み出すと宣言した。
指定国立大の初回指定にもれた東京工業大、一橋大、名古屋大、大阪大など「国内トップクラス」の大学にとってはかなりの刺激になったはずだ。指定国立大という格別のブランドを背負うということ、「世界トップクラス」を約束するということは、こういうことなのかと実感したのではないか。
上記の4大学は、審査委員会での助言に対応したプランを練り直せば、今年度末までに再応募可とされているが、果たしてどこがその気慨を示せるだろうか…。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171125-00010001-newswitch-bus_all&p=1