前立腺がん
男性特有の前立腺がんは、肺がん同様、年齢の上昇とともに死亡率も上がっていくという特徴がある。
「前立腺は膀胱のすぐ下にあるクルミ大の臓器で、精液の一部である前立腺液をつくるなど、生殖機能に関わる働きをしています。死者数は、米国では肺がんと1位を争うほど多い。日本でも年間1万人を超え、さらに増えてきています」(東京医科大学病院・泌尿器科の吉岡邦彦教授)
かかりやすいのは50歳以上の中高年。現在、4万人という年間新規患者数が、'20年には7万8000人に倍増するとされ、男性では肺がんに次ぐ患者数になるとの予測もある。
「潜在がん」とも言われているように、前立腺がんの「始まり」には自覚症状はほぼなく、病気の進行もゆっくりしている。
「症状が出るまでに5~10年かけて、緩やかにがんになっていきます。近年、日本人に急増しているのは、食事の欧米化の影響が大きいと思われます。症状としては、排尿障害や排尿困難、頻尿などがあるが、それらは老化現象でも出てくるため、わかりにくいのです」(都立駒込病院・泌尿器科部長の篠原充医師)
'02年、69歳で前立腺がんが見つかった今上天皇にも、自覚症状はなかったという。とはいえ、チェックはかなり容易だ。血液検査でPSA(前立腺特異抗原)の数値を見ればよいのだ。
「PSAは前立腺の細胞の中に入っているたんぱく質の一種です。細胞ががん化して組織が壊れると、出てくる。正常値は4以下で、4~10までがグレーゾーン。4人に1人はがんが見つかります」(前出・吉岡教授)
再発・転移をしやすいかどうかの悪性度は、がんができる場所にはあまり関係しない。悪性度のチェックは、グリーソン・スコア(2~10までの9段階)という生検で調べることができる。スコアが5~6なら手術をすれば再発・転移の心配はまずない。つまり「助かりやすい」が、スコアが8~10だと悪性度が高く、「助かりにくい」のだ。
「前立腺がんの転移で最も多いのは、骨盤や脊髄への骨転移です。それ以外だと、リンパ節が挙げられる。転移率は術後10年で約30%なので、がんとしては非常に根治性が高いと言えます」(前出・吉岡教授)
ただし、治癒したとしても手術後、男性機能の喪失や失禁などの後遺症が出る可能性があるので、覚悟も必要だ。女性ホルモンを投与するホルモン療法では、胸が膨らんできて、10年も続けると骨がもろくなって太りやすい体質になり、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まる、という報告もある。
「50代や60代はまだ働き盛りの人も多く、男性機能が失われることへの抵抗感から手術をためらう人も多い。しかし私は男性機能より命のほうを優先すべきだと思います」(前出・篠原医師)
大腸がん
「がんにかかる前は、うぬぼれとったね。まだまだ体力もあったし、自分ががんにかかるなんて想像もしていなかった。トイレで出血に気付いたときも、痔かなと思った。もともと痔が悪かったから。だけど、何だかずっと痛いんだよ。疼くような痛みがある。出血も、いつもの痔とは違う。『こりゃイカン』と思って病院に行ったんだ」
こう語るのは、野球評論家の豊田泰光さん(76歳)。'01年、直腸に初期の大腸がんが見つかった。
現役時代は西鉄ライオンズ「野武士軍団」の一員として鳴らしただけに、言うことも勇ましい。
「医者に行くときは覚悟していかないとダメだ。大丈夫かな、きっと大丈夫なはずだなんて弱気で行ったら、野球ならすぐ負けてしまう。がんかもしれないという思いがあったら、なるべく早く『さあ、行こう!』という気持ちで病院に行くことだよ。オドオドしているのが一番みっともない」
とはいえ、こんなホンネもぽろりと漏れる。
「やっぱり恐怖だったよ。平気な顔はしてたけど、ほんと参った。まだ若いのにがんで死んだらどうするんだろうと、頭がすぐそっちに行った」
開き直るしかない。医師に身を託して、腸を25cm切除した。
「治りやすい」がん
大腸がんのステージは、0~4期まである。0期はがんが粘膜にとどまるもの。1期は大腸壁にとどまるもの。2期は大腸壁を越えてはいるが、隣接臓器に及んでいないもの。3期はリンパ節転移のあるもの。4期は、腹膜・肝臓・肺など遠隔転移のあるものだ。
大腸がんは、早い時期に発見されれば、ほぼ完全に治すことができるとされる。1期の5年生存率は95%超。かなり高い確率で「助かる」と言われている。
大腸がんの中には、急速に大きくなって助かりにくい「内分泌細胞がん」というものもあるが、これは大腸がんの検査でも、通常はそれを疑って診察することがないくらい珍しいものだという。したがって、「助かる」「助からない」は、大腸がんが見つかった時点でどれだけ進行していたかの一点に尽きる---そう力説するのは、神奈川県立がんセンター副院長の赤池信医師だ。
「ステージで言えば、0~2期くらいまでは治癒率はいい。特に0~1期は、医師は手術でがんを取り去ったら『よし』とします。あとは5年間、経過観察です。もちろん抗がん剤も使わない。再発の傾向が強くなるのは3期あたりからです。再発は、ほとんどの場合5年以内に起こり、3年以内が多い。だから5年間はきっちり見る必要がある。それで再発がなければ『寛解しました』とお話しします」
大腸がんの治療は、何をさておいても手術だ。
ただし、3期からは手術の前に化学療法でがんを叩くことも行われる。4期の場合は、肝臓や肺など遠隔転移しているがんを切除し、大腸の原発巣も取れるものは徹底的に取り去る。原発巣が取れなければ、化学療法ということになる。原発巣と遠隔転移したがんの両方とも取れなくても化学療法で、もし小さくなったら手術をする、というケースが最近は増えているという。
これら後期から末期の大腸がんの5年生存率はどうなっているのか。ステージ分類とともに用いられているデュークス分類のC(ほぼ3期に相当)で70%なので、大腸がんの「助かる」確率は、やはりがんの中では高いと言っていいだろう。
「3~4期の5年生存率は、近年確実に上がっています。ただし、治る・治らないということとは、また別です。4期の場合、抗がん剤でかなり延命したためで、がんが治豊田さんは、1期で手術を受け、5年の観察期間も無事通り越した。
「5年たって、『もう病院に来なくていい』と言われたときはほっとしたな。ただ、がんを取った時点で『がんはもう終わった』とは思わなかった。『また来るぞ』『油断したらイカン』と。だから出血がないかどうか排便をよく見ることもクセになっています」
同じ大腸がんでも、人によって自覚症状の有無や病気の程度・進行状況などが異なるように、がんの「始まり」と「終わり」も人さまざまだろう。
いまから「その日」に備えておく必要がある。
「週刊現代」2011年9月3日号より

