ワシントン州シアトルを本拠とするバイオ企業BioViva USAのCEO、エリザベス・パリッシュは、同社が開発した「若返り」のための遺伝子治療を自身の体でテストしたところ、細胞が20歳若返ったと主張している。

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パリッシュCEOは現在45歳で、サイエンス分野での正規の教育は受けていない。彼女はこの実験的な治療を、2015年9月にコロンビアのクリニックで受けたという(詳細は未公表)。こうした型破りな臨床試験が海外で行われた背景には、米国の規制を回避するという目的があったが、この臨床試験の強行により、BioViva USAの科学顧問の1人が辞職している。

BioViva USAの科学諮問委員を務めていたが辞職したワシントン大学名誉教授のジョージ・マーティンは『MIT Technology Review』誌で、「これは大きな問題であり、このような事態に大きな憤りを感じています。わたしは非臨床試験(動物実験)を繰り返し行うよう強く求めてきました」と語っている。

臨床試験の詳細は明らかにされていないが、パリッシュCEOの説明では、治療の一環として、遺伝子組み換えウイルスの静脈内注射が行われたという。このウイルスによって、「テロメラーゼ」と呼ばれる酵素を生成する遺伝物質が細胞に運ばれたようだ。

テロメラーゼは、人体の細胞における「テロメア」と呼ばれる部分の長さを伸ばす。テロメアとは、染色体の末端で、DNAの「保護キャップ」的な役割を果たす部分だ。テロメアは細胞の老化とともに自然にすり減ってゆくが、テロメラーゼの投与によってそれを保護しようとする手法だ。

スペインの研究グループが2012年に行ったマウス実験から、同様の手法によりマウスの寿命は20パーセントも延びうることがわかっている。

パリッシュCEOは、3月に行われた血液検査の結果(ピアレヴュー科学誌には発表されていない)により、彼女の白血球のテロメアは6.71から7.33キロベース(kb)に伸びていることが明らかになったと主張している(同CEOは今回の治療を受ける以前の2015年9月に同じ検査を受けており、年齢の割にテロメアが異常に短い[6.71kb]ため、人生の早期に加齢性疾患にかかるリスクが高いことがわかっていた)。このテロメアの数値差は、20歳分の細胞年齢差に等しいと同CEOは推定する。

しかし科学者たちは、いくつかの理由から、これら一連の結果と主張に懐疑的な見方をしている。

まず、科学者たちは健康とテロメアの長さのあいだになんらかの関係は見出しているが、その一方で、短くなったテロメアが実際に健康問題を引き起こすのか、あるいは、それが単なる老化によるものなのかは明らかになっていない。

次に、おそらくより重要なのが、テロメアの長さと健康の明確なつながりが判明していないということだ。たとえば、心血管疾患は短めのテロメアと関連しているが、がんは長めのテロメアと関連しているのだ。

「一般集団において、相対的に短いテロメアは悪く、相対的に長いテロメアは良いという考え方はナンセンスだ」とラトガース大学でテロメアを研究するエイブラハム・アヴィヴ教授は『The Scientist』の取材にメールで回答している。

最後に、今回報告されたテロメアの数値差、つまり9パーセントという伸び率は、大半のテロメア長測定において標準誤差の範囲内に収まるという点も理由としてあげられる。

それでも、パリッシュCEOはこの遺伝子治療により若返りが実現すると確信している。同CEOは現在、さらなる臨床試験の実施を許可してくれる規制当局とのパートナーシップを諸外国に求めている。


http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160508-00010000-wired-sctch