火葬場で義母を見送った帰りのマイクロバス。

 

やはり僕は父の隣に座ってしまう。誰も声を発しないなか、父が、通り過ぎる看板を小さい声で読んでいく。

 

「株式会社OO…. XX歯科….△△募集中…」

 

もはや、これくらい何でもない。

 

父は、変だ。今日は、喪服でないばかりか、いろいろ目立つことをしてくれた。嫁に、実家で恥をかかせてはいけないのに。

 

でも優しくもある。僕の高校生の息子と中学生の娘が、大好きな祖母との最後の別れのとき、壊れそうなくらい泣いた。父は、何も言わず孫たちに寄り添い、赤ん坊にするように、ずっと、トントンと背中をたたいてやっていた。

 

義理の父にお悔やみを述べるときも、大きな声で「あなたも、これから大変…グッ、グワッ」と、極端に咽んでしまう。不器用だが、気持ちが込められている。

 

バスは進む。

 

「ファッションXX… イタリアンOO….」

 

父の手を見る。年のせいか、むくんで、少し紫色になった手。こんなに小さかっただろうか。子どものときは、あれほど大きく感じたのに。複雑な気持ちになり、泣きたくなる。苦労を重ねたあなたの少年期、僕や姉たちを育てた日々の断片。

 

今日は、またずいぶん目立ってしまったね。とてもいやだけど、僕には分かるよ。厳しい時代を生き抜くために、あなたが、あなたである必要があったことを。

 

それはそうと。うー。父のことがずっと頭を占めて、葬式で担っていた僕の役割を、忘れたり、間違えたりして迷惑をかけている。妻と親戚に謝らないといけない。全部あなたのせいだと、やっぱり恨む。