家に帰ってきてからも、奥村くんの別れ際の言葉が気になってる。




奥村くんの携帯番号とメアド、実はまだ電話帳に残ってるんだよね。




隆史と付き合い始めて自分のメアドは変えてしまったのに。




もう二度と連絡しないと誓ったはずなのに。




未練?




なのかなぁ。




未練と言っても、終わる前に始まりもしなかった恋だけど。




さっきからずっと携帯握りしめてる私。




とりあえずメールしてみようか。




何て?




「今日は会えて嬉しかったよ」とか?




メール打ち始めたけど。




止まる指。




メールして何になる?




これからどうしたいの?




奥村くんとどうなりたいの?




隆史がいるのに。




隆史のことが好きなのに。



携帯を閉じる。




皮肉だね、一度目の再会のときには奥村くんに彼女がいて、二度目の再会のときには私に彼氏がいて。




もう考えるのはやめよう。



メールもしない。




今日会ったことも忘れる。



そう決めた。
「社員ってことは、もうバンドは辞めちゃったの?」


「ううん、まだやってるよ。働いて金貯めていつか留学するつもり」



そういえば昔も同じことを言ってたっけ。



いつか海外で音楽の修行をするのが夢だって。



そんな夢は学生時代で終わってるかと思いきや、そっか、まだ夢を抱いているんだね。



現実主義の私とは大違いだ。



私の夢は、普通のサラリーマンと結婚して、子供は2人、幸せな家庭を築くこと。



間違っても奥村くんとは恋愛できないな、と思う。



だって夢のために将来は仕事辞めちゃうつもりなんでしょ?留学中、日本で独りで待ってるなんて絶対に無理。それに、夢を追いかけてるあいだは当分結婚してくれなさそうだし。



とか勝手に妄想してみたけど、まあ奥村くんは私のことなんて相手にしてくれないだろうけどね。



やっぱり私には隆史が似合ってると思う。



見た目はそれほどかっこよくは無いけれど、付き合ってすぐに結婚したいと思った人…安心して付き合える人。



「で、玲奈ちゃんは?」



私は今の会社のこと、給料が安くて独り暮らしができないこと、友達と休みが合わないこと、だから連休なのにここに来たことなんかを話した。



あと、今、遠距離恋愛中の彼氏がいることも。



奥村くんは今、彼女はいないらしい。



前に付き合ってた彼女は?と訊きたかったけど、何故か訊けなくて。



だって、訊いてしまうと、封印したあの夏の日の話になってしまうと思ったから。



あの日のことは、私も口にしなかったし、奥村くんも一切話さなかった。



きっと、お互いに、暗黙の了解で、あの日のことは無かったことにしたんだと思う。



そう、「無かったこと」に。






「あ、もうそろそろ行かなくちゃ」



「休憩時間終わり?」



「うん、ごめんね、もっとゆっくり話したかったんだけど…」



「ううん、楽しかったよ」


「あ、そうだ、俺の携帯とメアドは前と変わってないからいつでも連絡して!」


そう言って奥村くんは手を振ってから小走りに店に戻っていった。
その奥村くんが、今私の目の前に立っている。



「どうして…!?」



お釣りを受けとる手が震える。



「久しぶり!びっくりしたなぁ!あ、俺、一応ココの社員なの」



驚きと動揺と照れくささと、あとちょっと嬉しそうな表情で奥村くんは袋に入ったCDを手渡してくれる。



「あ、ありがと…」



何て言っていいかわからなくて、こっちがお客なのにお礼を言う私。



「それじゃ」



早々に立ち去ろうとする私を奥村くんは



「待って!俺、あと5分くらいで休憩なんだ。だからちょっとそこのマックで話さない?」



とひき止めた。



断る理由もなかったし…というのは自分への言い訳で、本当は私の方も奥村くんに会えて嬉しかったのかも。



で、私は店内をうろついて待ってる。



私、今どんな顔してるんだろう?



どんな顔して話せばいいの?



最後に会ったのがあの日だもん。しかもメール無視したし、めちゃくちゃ気まずい。



「ごめん、お待たせ!」



そして私達はマックで向き合って座った。



久々に会った奥村くんは全然変わってなかったけど、ちょっとたくましくなった気がした。相変わらず細かったけど、学生時代のフワフワした感じはすっかり抜けて、社会人らしくなってた。



「すごい偶然だよね!」



開口一番に奥村くんはそう言った。



偶然、そう偶然。
でも私は運命を感じた。



だって



いつも奥村くんは、私が寂しい時に現れる。