「もしよかったら先にシャワー使っていいからね」



「うん、ありがと」



結局、泊めてもらうことになってしまった。



なってしまった、というより私のワガママなんだけど。



このシャンプー、彼女が選んだんだろうな。



切なくなりながら、また、彼女に申し訳ないと思いながらも、さっきの奥村くんの腕の中を思い出していた。



シャワーを交代し、私はボーッとテレビを眺める。



お泊まり道具も何も持っていなかった私は、奥村くんのTシャツとジャージを借りていた。



「サッパリした~」



奥村くんが着替えて出てきた。



「俺、こっちで寝るから。玲奈ちゃんはベッド使ってね」



と指さしたのは小さなソファー。



「うん、ごめんね」



「そろそろ寝よっか」



「うん」



申し訳なく思いながらベッドに横になる。



でもなかなか眠れない。



頭を横に向けて奥村くんの方を見ると、



やっぱり眠れずにいるらしく、寝返りをうったりため息をついたりしていた。



「奥村くん、起きてる?」


「うん。眠れないの?」



「うん。ねえねえ…」



「何?」



「こっち来てよ」



「え…」



奥村くんが迷ってるのがわかった。



でも、しばらくして私の右隣に滑り込んできた。



そして、腕枕をしてくれた。



そして、私の髪を撫でてくれた。



いつも彼女にそうしているように。



「女の子の髪ってどうしてこんなに柔らかいんだろうね」



奥村くんの髪の毛のほうが柔らかいのに。



彼女と同じシャンプーの匂い。



奥村くんの心臓の音が聞こえる。



奥村くんの口唇が私の首筋に恐々と触れる。



まるで何かを確かめるように。



だから私、



「いいよ」



って言った。








そして私達はひとつになった。







次の日の朝、



眠っている奥村くんを残して私は部屋を出た。



ありがとうと書いた置き手紙を残して。







それ以来、奥村くんに連絡していない。



奥村くんからはメールがあったけど、返信しなかった。



若かった夏の日の思い出。


誰にも言わずに封印した昔話。