大事件の指名手配犯かも
知れない人が

人生の最期を本名で迎えたい、と
本人からのまさかの告白

世間をあっと驚かせながらも

結局、彼が誰なのか
本当に指名手配犯なのか

真相がまだわからないまま
世間を最期まで煙に巻いて

彼は呆気なく癌で亡くなった

名乗り出た彼は
果たして指名手配犯その人
だったのか

答えはまだ出ていない


この事件は私の生まれる前のこと

全く知らない事件だけれども

彼が己の死に際に
告白したことが真実ならば

彼は罪をおかして
ひたすらに逃げ続けた
償うこともしなかった

逃亡する人生
本名を隠し通す人生
それは幸せな人生では
なかったかも知れない

それでも
それでも彼は
70歳まで生きられた

70歳までの時間を
神様から与えられた

どんな過酷な
人生だったかは
私にはわからないけれど
それでも彼は
古希を迎えられた

今、50歳の夫
膵臓癌であと20年
生きるということのハードルの高さ
70歳の壁はあまりにも高すぎて
あまりにも眩しく羨ましい

…なんでなのかなあ

夫は
新卒から同じ会社で
30年頑張ってきて
一生懸命に働いて

10年前
海外の工場の立ち上げにも尽力して

周りの人や親戚たち
お友達やご近所さんや
私や娘の友達
本当に誰にでも笑顔で
いつも柔らかい態度

そして私達家族を
何よりも
大切にしてくれて

娘のことになると
本当に一生懸命で

自分のことよりも
常に娘の幸せのために生きてきた夫

夫は時間があれば
献血に沢山協力してきて

知事から
表彰されるくらいに
貢献したのにな

悲しいことに
今は夫の身体は
献血が全くできないものになって
しまったけれど


夫は悪いことなんか
してないのに
周りに不愉快な思いを
させることなんてしない
犯罪なんて以ての外

会社でも周りにいつも気を遣い
和を重んじ、敵を作らない

そんな夫が

なんで?なんで
こんなに大変な病に
選ばれてしまったのか

何も治療をしなければ
3ヶ月から半年と言われた
あの日から半年が過ぎ
抗がん剤をしても
中央値は1年半とも言われた

あの日から半年が過ぎた
そのことの意味は

世界があまりに理不尽だと
私は一人、怒りを覚える
世界がみんな平等なんて
夢物語だとは思うけれど

それでも願わずにはいられない

一生懸命生きてきた夫が
報われますように

どうか沢山美味しいものを
食べられて
会社で週に2日、元気に働いて
イキイキしている

そんな現在の夫の時間が
長く続きますように

せめて
せめて娘がもう少し
もう少しだけ
大人になるまでは