今日午後から主治医の説明を

夫と聞くはずだった


私が待つ

面談室に来たのは

主治医と看護師だけ


…いやな予感


主治医が口を開く


夫は痛みが強いので

今日は

病室から出られないとのこと


……


LINEした時は

『食欲がない』と言ってはいたが

痛みについては

なにも言ってはいなかったのに


私を不安にさせたく

なかったのだろうな

こんな時まで

私に

気を使ってくれなくていいのに



私1人で

動揺をなんとか抑え

冷静に冷静に

主治医の説明を聞く


『今朝から痛みが出ています

検査で腹水も確認できました。

思っていたより悪い状態です。

明後日

胆管にステントをいれます。

おそらく今出ている

痛みはそれで改善されるはず。

黄疸がでるまえに

処置できたのは

よかった。

腹水も利尿剤で

減少してきた。

ただ、今の状態では抗がん剤はすぐにはできない。

ステントをいれて

体調が改善されてからの話になる』


そう

そうなんだ


そんなに急に悪くなったのか


3日前

木曜日に娘を連れて

夫の面会に

行った時はニコニコして

元気だったのに


帰りに

娘と一緒に売店でお菓子

いっぱい買ったじゃない


私も持っていった

メモを見ながら


一通り疑問点を

主治医に聞いてから

最後に問う


『夫の弟は飛行機の距離なんです。

今のうちに会いに来て

もらったほうがいいですか?』


主治医

『…来てもらったほうがよいかもしれません。ステントをいれて改善しなかった場合、一気に悪くなる可能性もある』


ああ

そうか


明後日のステント手術の

同意書に

サインをする


なんだろう

この感じ


夫が膵臓癌と告知されてから


悪いことが次々起きて


どんどん退路がなくなる感じ

選択肢が

私達にはどれほどあるのか

もう

わからなくなってきた


夫の代筆なんて

この年齢でしたくない

ふと

気持ちがこみ上げる


でも

病院では

泣かない

泣くもんか


ここまできても

まだ

主治医や看護師さんの前で

見栄を張る

私の弱さ


ただの強がり


そんなもの

なんにもならないのに


説明の後

主治医のご厚意で

『御主人に会われますか?

お部屋は個室ですし』


『お願いします』


特別に夫に会わせてもらえることに


でも

経験上

病院側が融通を聞かせてくれる時


それは

患者の状態が良くない時

だと分かっているから


手放しに喜べないよ


主治医とともに夫の部屋に入る


ベッドに座る夫は

微笑みを浮かべるいつもの夫


そのムリしてる笑顔は

私のためなのだね


でもかなり

吐き気がするようで

時折とても苦しそう


この吐き気も

主治医の話では

胆管ステントを入れたら

改善するそうだけど


あまり長居もできないので

夫と少しだけたわいない話をして

病院をあとにする


病院の駐車場でまた

感情がこみ上げてくる


なんで?

まだ告知されて

1ヶ月も経っていないよ


こんなに悪くなるもの?


義妹に

すぐLINE


義弟は

すぐに仕事を調整して

来月始めに

夫に

会いに来てくれると


車の中で泣きながら

想う


まだ

打つ手はある


絶望するな


夫が闘っているのだから

私もともに

『病めるときも

すこやかなるときも共に』と

あの日

大切な人達の前で誓ったじゃないか




病院の帰り道


義父と義母の樹木墓に

お花を買って1人お参り



1ヶ月前


お盆には夫も含めた親族で

賑やかに

ここを訪れた


お花を持ってお盆の暑い中

おしゃべりしながら

皆元気な笑顔だった


あの日の私達は


誰も


このあとすぐに

夫に訪れる運命など

知らなかったのに



お盆と違って

今日夕方の霊園には

誰もいない


お彼岸は20日から

まだ先


9月半ばだというのに

まだ日差しが強い


先月も訪れた

お墓の前でひたすらに

祈る


お義父さん

お義母さん


どうか

どうか

あなた達の長男

私の夫を守ってくださいと