上海 - 多国籍都市の百年 榎本泰子 | So-Hot-Books (So-Hotな読書記録)

So-Hot-Books (So-Hotな読書記録)

書評と読書感想文の中間の読書日記。最近は中国で仕事をしているので、中国関連本とビジネス関連本が主体。

★★★★☆(星4)


<My Opinion>


1842年の南京条約によって開港して以来、日本の太平洋戦争敗戦で実質終焉した上海租界の歴史100年間を中心に上海の歴史を総括した本。本書の一番の特徴は、上海の国際性を理解する為に租界時代の人々の暮らしを国籍別に検証している点にある。この検証を通して上海社会の構成員としての外国人および中国人がそれぞれ果たして役割が見えてくる。


「上海は潮の香りのする風が吹く、一地方都市に過ぎなかった。その運命を大きく変えたのは、外国人の到来である。」(P5)


今の国際都市上海はおよそ150年前にイギリス、フランス、アメリカ、日本をはじめとした外国人が、上海における権益を広げたいという欲求の下、自国の自治制度や文化を地元に根付かせようとした行動が基礎になって形作られた街である。国籍別に著者はこんな見方をしている。


イギリス人:「自由都市」としての街の基盤を作った。大英帝国のプライドとライフスタイルをそっくり持ち込み、政治・経済の各面において支配の中枢に君臨した。余談だが今の人民広場はイギリス人が作った競馬場の跡地である。


アメリカ人:第一次大戦後、豊富な資本と物資により、上海の繁栄を支えた、ファッションや娯楽の面で流行をリードしただけでなく、自由や、個性の尊重といった精神面でも大きな影響を与えた。


ロシア人:1917年のロシア革命を逃れてきた白系(帝政支持派)の人々は、フランス租界の主要な住人となった。音楽・演劇・舞踊などのクラシカルな芸術活動を盛んに行ない、新興都市である上海に「文化」を与えた。難民であるロシア人が上海の経済に重要な役割を果たすことはなかったが、文化的な貢献はきわめて大きかった。


日本人:欧米の植民地と化した租界を自らの「反面教師」とし、明治以降の国力増強に伴って上海に進出した。繁栄期には外国人の中で最多の人口を誇り、独特の「日本人街」を形成した。


ユダヤ人:発展期の上海で財を成した人々と、ナチスの迫害を逃れてヨーロッパからやって来た難民とに二分される。後者は上海の白人の底辺に位置づけられたが、勤勉な働きぶりや優れた音楽活動など一定の足跡を残した。


中国人:人口の多数を占めながら支配の実権を持たなかった中国人は外国人のふるまいをじっと見つめてきた。国内の変化および国際情勢の変化により、中国人は着実に政治的・経済的な力を蓄え、最終的に外国の支配からの「解放」を選択した。


歴史はいつも皮肉であるが、現在の魅力ある世界級都市である上海は外国人、中国人どちらが欠けても今の姿にはなっていなかった。その事実を改めて振り返えれば、上海をもう一段深く見ることができるようになる。上海在住者は読んで損がない1冊。

上海 - 多国籍都市の百年 (中公新書)/榎本 泰子
¥840
Amazon.co.jp