われ日本海の橋とならん 加藤 嘉一 | So-Hot-Books (So-Hotな読書記録)

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書評と読書感想文の中間の読書日記。最近は中国で仕事をしているので、中国関連本とビジネス関連本が主体。

<My Opinion>

加藤嘉一氏の中国論。本書のハイライトは第4章「中国の民意はクラウドと公園にある」だと思う。


ここでいう「クラウド」とは端的に言えば中国にいる5億人のインターネット人口のことである。もはや官製メディアよりも、地方メディアや市場化メディア(中国語で市場化媒体)よりもスピード感と言論の自由があるインターネットメディアが実は中国国内世論に対して一番の影響力を持っている。これは多くの日本人にとって意外な事実だろう。


又、「公園」とはどういうことか。ここが本書で一番興味深かったところ。著者は中国社会を切り取る1つの視点として「暇人」にスポットを当てた。彼が定義づけした「暇人」とは都市部で生まれ育った地元住民のことで小さいながら自分の家をもち極力働くことをせず、少しの日銭を稼ぎながら貯金も借金もしないという人生を送っている人々のことである。


この暇人とは農民工(農村から都市部に出てきて軽工業などの肉体労働に従事する出稼ぎ労働者)のことではない。彼らは都市戸籍を持っている。例えば、彼が取材した北京の焼き芋屋のおじさんは半日で売り上げ50元くらいで、1.5元のビールを飲んで15元程度の食事をするのだろうと著者は言う。そういう人々のことだ。


中国である程度生活したことがある人なら、街のいたるところ、たとえば路上や公園や食堂等で1日中ぼーっとしてトランプやらマージャンやら将棋、卓球をしている人々を見かけるだろう。著者の試算では少なく見積もっても2億人、最大で4億人程度このような暇人がいるのではないかということだった。


暇人は失うものが何もないので、例えばいったん民主化に向かって暴徒化したりすればとてつもない規模のムーブメントになる可能性があり、それは中国共産党にとって大きなリスクであることに間違いない。だから今中国共産党は彼らに対して生かさず殺さずという環境を提供し、彼らも農民工でもなければサラリーマンでもなく、ましてやエリート(官僚や知識人)でもないという社会階層の隙間を享受しているのである。暇人はそういったマクロ的な社会環境認識を持ち合わせた上であえて生き方としての無関心を貫いているらしい。だから著者は中国の真の民意は「クラウドと公園」にあるのだと主張する。


確かに会社につくなり人人網(中国版Facebook)を開き、微博(中国版Twitter)で友達や有名人の発言をフォローし、面白い動画があれば土豆(中国版Youtube)で共有している同僚と仕事をしている私から見ればとても腹に落ちる説明だ。又、広州語学留学時代に待ち歩きをしていて見かけた、いったい何の仕事をしているのか良く分からないおじさん、おばさん達を「暇人」として定義つけることにも一定の納得感を持つことができる。


やはり中国にがっちり根を下ろしている人が発信する情報は有益だと改めて感じた。ただ、所謂中国通の人が社会学的な観点から少し踏み込んだ内容を期待してしまうとがっかりしてしまうだろう。日本人でありながら中国語バイリンガルであること、まだ27歳であるということ、それらがもたらす話題性に加えて踏み込んだコンテンツでも勝負できるようになったら本当に彼は日本海の橋となるんだろう。

私も中国に貿易や投資を通じて日本海の橋となろう、最後にはそう思わせてくれる。日本の若者の海外志向がなくなってきたとか騒がれる現代日本で、中国で日の丸を背負ってい言論活動を展開している著者にあらためてエールを送りたい。

われ日本海の橋とならん/加藤 嘉一
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