キュレーションの時代 佐々木 俊尚 | So-Hot-Books (So-Hotな読書記録)

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書評と読書感想文の中間の読書日記。最近は中国で仕事をしているので、中国関連本とビジネス関連本が主体。

<My Opinion>


売れっ子ジャーナリスト佐々木俊尚氏の本。ネット上での彼の発言は良く目にしていたが、本を読むのは初めて。これから本格的に到来する、新しい情報の取得、共有、発信の仕方にゆるやかな枠組みを与えて整理してくれる本。Amazonレビューを見ると、「カタカナ語が多すぎる」、「比喩や事例が多すぎて読みにくい」という指摘が目立ったが、個人的にはとても面白いストーリーを引用していると思うし、これらの引用がなければかなり無機質な本になってしまうと思う。ソーシャルメディア関連に興味がある人ならばスキマ時間を利用して1日で読めてしまうので一読しても良いと思う。ただ、言っていることは特に目新しいことではないので、過度な期待は禁物だ。


タイトルの中にある「キューレーション」とはそもそも何かということだが、本書では「無数の情報の海の中から、自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、そこに新たな意味を与え、そして多くの人と共有すること」と定義されている。


個人が良質の情報を得る為には、多くの情報にアクセスし、情報に対する見識を高めること、そして自らも情報を発信することが大切だ。しかし、本書で指摘されている通り、情報の海を航海するスキルとしてこれからより重要になってくることは、既に見識を高めている人が普段どんな情報にアクセスしているかその「視座」を得て、その「視座」から情報を得ることである。その視座を提供してくれる人が本書で言うところの情報を「キュレーション」している人、つまり「キュレーター」なのである。


インターネットの勃興期、日に日に膨大に増えていく情報を目の前に、我々は「情報の海に溺れるな」と耳にタコができるくらい聞かされてきた。著者はその情報の海をナビゲーションすることを、ソーシャルメディアの隆盛を意識しながら、あらためてキュレーションと名付けたのだと思う。


個人的にはキュレーションの概念説明としての芸術家の引用は好きだ。例えばこのジョゼフ・ヨアキムの例だ。ジョゼフ・ヨアキムの例は生涯のほとんどを放浪者としてすごし、70歳で絵に目覚めた。偶然ジョン・ホップグッドという人物に絵の才能を認められ80代で亡くなるまでの間に2000点もの作品を残し、ホイットニー美術館で遺作展が開催されるほど歴史に名を残した。


著者はこの例を引いて、これからの世界は「つくる人」「見いだす人」がお互いに認め合いながら、ひとつの場を一緒につくるように共同作業をしていく、そういう関係性が増していくと説く。もちろんこのような関係性は何も今になって始まったことではないし、この例も偶然と片付けることは容易だ。しかし、twitter、Facebook、foursquareに代表されるツールがジョゼフ・ヨアキムの例のような奇跡的な発見をサポートしたり、新たな関係性を構築する速度を加速させたりする可能性は存在する。


著者はキュレーションの時代における情報圏域を「ビオトープ」と表現している。情報が共有される圏域がインターネットによってどんどん細分化され、そうした圏域を俯瞰して特定するのが非常に難しくなっている。イメージはこうだ。


「それはまるで、郊外の空き地や雑木林の中や、あるいは田んぼのあぜ道あたりにひっそりと形成され、そこに小エビやザリガニやトンボやアメンボが集まってきて、小さな生態系をつくっているようなイメージ。(P43)」


なるほど。面白い。ビオトープとは、例えばFacebookで言えばファンページのようなものなのだろう。これからの時代は「マス」という言葉がどんどん姿を消し、ビオトープにきちんとアクセスすることが良質なコミュニケーションを生むことになる。ビジネス用語に置き換えれば、ビオトープにアクセスすることが、カスタマーにリーチすることと同義になる。


最後に。本書を読む注意点としては、著者はWEBの力に無限の可能性を感じているという立場にあるということだ。すなわち、WEBに対する見方に過度なバイアスがかかっている。「キュレーションの時代」は確かに訪れるだろうが、「訪れてほしい」という著者の気持ちが無意識に入っていることを差し引いて本書を読むと良いだろう。

キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)/佐々木 俊尚
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