拝金社会主義 中国 遠藤 誉 | So-Hot-Books (So-Hotな読書記録)

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書評と読書感想文の中間の読書日記。最近は中国で仕事をしているので、中国関連本とビジネス関連本が主体。

<My Opinion>


2009年に中華人民共和国は建国60周年をむかえた。著者はこの60年間を毛沢東時代と言うべき前半30年(1949-1978)と鄧小平に始まる改革開放以降の後半30年(1978-2009)という2つの大きな時代区分で現代中国を俯瞰している。本書において、建国後30年を象徴するKeywordは「向前看」(革命成功の為に、前に向かって進め!)改革開放以降の30年間は「向銭看」(豊かになる為に、金に向かって進め!)である。毛沢東時代に抑圧されてきた、物欲にはじまる全ての欲望が改革開放を経て、社会主義と資本主義の混沌の中で一気に爆発していく過程が分かりやすく描かれている。


しかし、「中国は社会主義国家と名乗らなければ、国家しては、かなり良いところに行っているのだ。」(P230) という本書の総括は楽観的過ぎるのではないだろうか。本書の前半部分では下記の通り、現代中国の格差について苦言を呈しているにも関わらずなぜこのような総括になるのか理解が困難だ。


私たちにとって、中国共産党が「金持ちの党」になり、党と官僚が特権を享受し、新中国を誕生させることに命を賭けた農民たちが、結局のところ最下層に追いやられ、人民としての扱いさえ受けていないような国になったとすれば、「あの革命はなんだったのか」「あの犠牲はなんだったのか」という憤りが沸いてくる。これが社会主義国家か、これが中国共産党なのかと、一部の庶民の気持ちには抑えがたいものがある。(P15)


人民の八〇%以上を占めていた農民、そしてあの農奴たちは、革命の主人公と讃えられながら、結局いま彼らは都会の人がやりたがらない「三K」を全て引き受ける最下層階級へと再び追いやられていったのだ。(P165)


本書において、「中国は社会主義国家と名乗らなければ、国家しては、かなり良いところに行っているのだ。」という主張は「資本主義国家としては、かなり良いところに行っているのだ。」と言うことと等しい。確かに2011年現在でも中国には長期的に巨大な成長余地がある。実際は15億人を超えていると言われる巨大な人口規模を有するも、未だ1人当たりGDPは4000ドル台。衣食住の基礎的ニーズも未充足な状態で、先進国へのキャッチアップというだけでも依然としてかなりの市場拡大余地が存在する。つまり、資本主義国家として見ればまだまだ飛躍的な発展可能性がある。


しかし、中長期的には、高成長の軌道修正が必要な局面が訪れることは間違いない。投資主導の高成長の限界、資源・環境問題への対応、何よりも戸籍制度に端を発する農民と都市生活者の所得、社会保障や教育における格差は解決不可能なレベルに達している。日本の場合は、第二次大戦後の経済発展に伴って第一・二次産業従事者が自然に第三次産業に流れていくという構造転換があったが、中国では戸籍制度の存在にによってそれが不可能な状況になっている。確かに、資本主義国家においては労働者は資本家に搾取される存在であるが、現代中国の状況は事実上の国民差別であり、先進国の資本主義国家観に照らしてみれば、明らかに改善が必要な状態だ。


著者の結論に違和感があるが、それ以外の部分は総じて面白いので一読の価値はあると思う。


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