いつも通る道路に黒いシミとその横に藁のムシロがかけてある。こんもりとした状態だったから下に何かいるのかなと思っていた。しかし他の皆には見えないようで平然と藁の上を通行していた。私も気にはなったが急いでいたので見て見ぬフリをした。

 

何日か経とうとするある日そこには女の子が泣いていて藁のムシロはやはりこんもりしている。女の子はおかっぱで、例えるなら「ちびまる子ちゃん」の後ろ髪をもうちょっと長くしたまさにあの格好の子だった。今風ではない昭和の小学生といった雰囲気だ。わたしはふとその女の子に声をかけてしまう。どうやら飼っていた猫が寿命ではない原因不明の死を遂げかわいそうなので藁のムシロをかけたんだとか。私は気になりムシロをはぐってしまった。

 

黒猫でお腹から血が大量に出ていて失血死と見て間違いはないだろうが突然だったらしく私が見ても原因不明だった。暗くなってきたし早く帰るんだよ、と告げ私はその場から離れた。翌日も、その翌日も、雨の日も女の子はそこで泣いている。後悔と不安な気持ちで一杯になって近くの公園の片隅に猫を埋め、石と落ち木で簡素なお墓をつくった。

 

次の日から数日、女の子は現れなかった。ある日、教えていないはずの私の部屋に女の子が尋ねてくる。先日埋めたはずの猫が帰ってきたんだっていうから一緒に見に行くことにした。女の子の家は洋間はひとつもなく全て畳で広間があっていかにも昭和の家だった。黒猫が薄暗い広間に出てきたがどうも違和感がある。

 

近くで見て驚いた。ひざの辺りから黒い蜘蛛の足が突き出ている。前足も身体も、背中からも蜘蛛の長く黒く太い足が貫かれ、生きているのが不思議なくらい重症だ。猫はだんだんと近づいてくる。広間に入ってきたときの違和感に気づく。猫の大きさが普通の猫の4倍はある。その巨大猫の頭以外のありとあらゆるところから蜘蛛の足が突き出た猫が大量に流血しながら近づいてくる。天井からでっかい毒蜘蛛が私めがけて降ってきて私はパニックになり近くにあった殺虫剤を振りまいていた。無我夢中で吹きかけていた殺虫剤が猫の目に入ってしまう。途端に猫は大きな土蜘蛛になった。女の子はいつしか消えていて小さい黒猫が一匹、弱弱しい声で鳴きながら私を見下ろしている。手の甲に毒蜘蛛が這っている。奪われていく視界…私は気を失った。

 

ふと自分の部屋にいることに気付く。私は夢を見たようだ。黒いシミ→女の子、ムシロをはぐるという行為そのものが転機の予兆、シュレディンガーの猫を作り出すかどうかは自分次第なのだ。オカルトの話でこんなにマジメに文章を打ったのは何年ぶりだろう。

 

ふと、電話がなる。昇格が決まり、異動の知らせ。蜘蛛の夢は「転機」「吉兆」「凶兆」「ストレスからの開放」「ストレス過多」諸説あるが大きい黒い蜘蛛に殺される夢は転機を表し、凶兆を暗示、しかし異動先では吉兆を意味する、まさに運気ドン底復帰という不思議なものだった。