朝鮮通信使歴史館

 

第8期SNSリポーター

大津麻里菜

 

小さな歴史館ですが、日韓関係の歴史を学ぶのに最適な場所だと思います。1607年から1811年まで12回にわたって日本に派遣された、朝鮮王朝ないしは江戸時代の通信使について解説してくれています。ここ釜山にあるのは、漢陽(今のソウル)を出た通信使が、大阪へ向けて釜山を離岸したからです。

 

 

歴史館の概要について述べますと、まず観覧料は無料です!(休館日は月曜)地下鉄1号線凡一洞駅から歩くようですが、伝統的な生活雑貨が並ぶ釜山鎮市場の近くだそうです。私も以前この辺りをゆっくり歩いたことがあるのですが、特に開発されて整ったところというよりかは、韓国らしい、趣ある雰囲気が漂うところです。

入って1階の案内カウンターに色々資料が置いてありますので、持って帰れるものは手に取ってみましょう。「朝鮮通信使ジャーナル」なるものも定期的に刊行されているようで、冊子の持ち帰りはできませんが、ホームページ(www.tongsinsa.com)で公開されているのでゆっくり読むこともできます。

 

 

若い世代が歴史を身近に学んでもらえるような工夫がされているところが多いのもこの歴史館の特徴です。タッチパネルのディスプレイが多く、重要人物の紹介、通信使から見た日本の姿を残した絵画や詩を、パネルを動かして読み進めることができます。

 

 

3D映像広報館では、韓国の子ども向けに作られたアニメーションによる解説が視聴できます。ソウルの戦争記念館を訪れたことがありますが、英語と韓国語による説明がほとんどなのに、こちらでは日本語の説明書きが豊富なこともポイントでしょう。

 

 

 

2階には屋外スペースが設けられ、通信使のキャラクターとフォトゾーンになっています。「永嘉台」という伝統様式に建てられた東屋が復元されていますが、当時この辺りまで海が来ていて、無事航海を祈る海神祭を開いた場所とされています。道路を挟んだところには子城台と呼ばれる、東莱(朝鮮時代釜山に置かれた官庁の名)の支城跡が残ります。その下は、実は朝鮮出兵時に日本軍が築いた石垣も残っているそうです。

江戸時代は「鎖国の時代」と言われていますが、日本と中国・オランダとは「通商の国」として、日本と朝鮮。琉球とは「通信の国」としての外交関係がありました。したがって、その「通信の国」である朝鮮と琉球からは、国王の使者が日本へ派遣されていたわけです。

 

 

 

朝鮮から派遣された使節、朝鮮通信使の「通信」とは、「信義を通わす」、つまり外交関係を結ぶという意味です。

豊臣秀吉の朝鮮侵略は朝鮮の地を荒廃させましたが、朝鮮に出兵しなかった徳川家康は、松雲大師惟政との交渉を経て、朝鮮との国交回復を果たしました。以後、徳川幕府はこの通信使の来日を、「将軍一代の盛儀」として重要視し、1607年から1811年までの約200年間に、通信使は12回来日しました。幕府の慶事や将軍の代替わりごとに訪れ、朝鮮国王の国書と将軍の返書との交換が行われました。第2回は京都伏見まで、第12回は対馬まででしたが、それ以外は江戸まで往還し、大阪の淀川を通って京都までは海路で、江戸までは陸路で移動しました。第4回から第6回は日光へも足跡を残しています。幕府が費用をもち、近江八幡には朝鮮人街道が用意され、そのもてなしぶりに馬上才と呼ばれる芸人が芸を披露してお返ししたという画が思い浮かんできます。

 

 

朝鮮通信使は正使、副使、従事官の三使以下、画員、医員、訳官、楽士など総勢400人から500人にのぼる大使節になり、朝鮮の都漢城(現在のソウル)から出発し、半年以上をかけて、江戸までの往復約3000kmを旅しました。旅の先々で通信使は多くの文人達と筆談・唱酬(詩歌・文章を作ったやり取り)で交歓し、またその行列は多くの民衆に熱狂的に迎えられるなど、日本の各階層の人々に多大な影響を与えたといいます。

これら当時の状況を説明する展示がメインとなりますが、現代においても、朝鮮通信使の行列を模した祭りを日韓各地で催すことでその記憶を共有しようとの動きがあることを紹介したパネルも大変印象深かったです。関東育ちの私は、「やはり韓国は外国」という意識が強いのですが、対馬藩が日朝外交に重要な役割を果たしていて、釜山と対馬・下関あたりまでが今でも地理的に非常に近く、韓国を隣人と見て付き合ってきたという事実に改めて驚かされました。長崎県対馬や東海道に残る足跡を是非辿ってみたい、今度は対馬や福岡から釜山へ行き来してみたいと思わせてくれました。全体を通して、日本と韓国は、過去に悲しい歴史を経験しながらも、隣国どうしとして意識し続け、通信使が長旅をし、それを日本が歓迎することで、江戸時代は日本と朝鮮の関係が蜜月期を迎えることができたという歴史を改めて感慨深く教わったと感じました。

私どもSNSリポーターも駐日大使館の皆様のおかげで旅を思いっきり楽しめているのは、まさに私たちが日韓をつなぐ、現代の「通信使」としてもてなして頂いているからだと感じます。お互いの国の人々が互いを理解しようとする姿勢がある限り、皆が「通信使」になれるのであり、尊敬し、尊敬される存在になれば、日韓関係はより良くなるだろうと期待しています。