蜜柑 | とりあえず今日を生き 明日もまた今日を生きよう

とりあえず今日を生き 明日もまた今日を生きよう

山の麓で 英語塾をしています。週末は東の都 東京のおうちで過ごし とりあえず今日を 明日もまた今日を生きようと ゆるりゆるりをモットーに過ごしています。


浅草を訪れた時

浅草寺の境内を  
ひとしきり
散策したあと

ちょっとひと休みしようと
腰かけたベンチには
先客がひとりいらした

うつむきかげんに
ベンチに座る
そのお年をめしたご婦人に

‘’いいお天気ですね‘’と
わたしが声をかけると

そのご婦人は
屈託ない明るい笑顔を
向けてくれて

どうぞ どうぞと
座りやすいように
場所まで広くあけてくれ

鞄からごそごそと
蜜柑を取り出し
‘’ひとつどう?‘’
とすすめてくださった

そのご婦人は
わたしが話しかけたことが
よっぽど嬉しかったのか

最初は
他愛ない話しを
ぽつりぽつりとしていたのだが

そのうちに
彼女の身の上話しになり

自分は
随分親不孝をしてしまったから
こうやってお寺にきては
親不孝を詫びている
と話してくれ

連れ合いも子供もなく
ずっと今まで一人で
生きてきたこと

生まれ故郷の青森には
兄が一人いるが
連絡をとることもないこと

もう70過ぎていて
リウマチがあるので
働くこともできないので
少ない年金だけで
ほそぼそと暮らしていること

家賃3万円の
エアコンもないアパートには
お風呂もなく
近くの銭湯にいっているが

その銭湯が近々廃業になり
他に近い銭湯にいくには
電車で5駅
いかなければならないこと

お風呂付きのアパートに
引っ越したいのだが
家賃が高くなると
生活がもっと
きつくなってしまうため
できないでいること

信頼を寄せていた女友達には
お人好しにつけこまれ
さんざん利用されて裏切られ
心を病み
引きこもりに陥ったりしたこと

そのご婦人は
時には涙ぐながらも
見ず知らずのわたしに
いろいろ話してくれ

‘’ちょっと休憩‘’のはずの
ベンチのひと時は
いつのまにか
1時間近くにもなっていた

わたしは
ただ聞いてあげることしか
できなかったけれど

ある程度話して
少し落ち着かれた様子のご婦人に

‘’話して
少し楽になれましたか?‘’
と尋ねると

わたしが

‘’いいお天気ですね‘’
と声をかけた時にみせてくれた
屈託のない明るい笑顔で

‘’また 家に帰れば
人と喋らない日が続くから
ほんとありがたかったよ
あんたは仏様だ‘’

とおっしゃってくださった

わたしは
‘’仏様‘’でも
なんでもないけれど

もし‘’仏様‘’がいるのなら

きっと
その‘’仏様‘’が

お互いの人生の
かすかなひと時を
袖触れあわせて
くれたのかもしれない

そんなことを
ふと思わせてくれるような

浅草寺の
‘’仏様‘’の
蓮の御手に抱かれた
‘’一期一会‘’だった

一緒に食べた蜜柑
美味しかったな...

いついつまでも
お元気で

これからも

時折
思い出してます