旅の総括8~美しいアラスカ

 

旅の総括の最後は「美しいアラスカ」について自分なりにまとめてみたい。

 

① オーロラ

 なんといっても、冬のアラスカ旅のトップランナーだろう。現象については赤祖父俊一先生の著書「北極圏のサイエンス」に詳しく出ているのでそちらを参照していただきたい。太陽風に乗ったプラズマ粒子が地球の磁場で反応し、夜側に回り込んで気体原子と化学反応を起こした現象だ。酸素原子と反応して緑色や濃い赤になり、窒素分子では紫色に反応するということだ。オーロラは次々に変化し動いているように見えるが、実は動いているのではなく発光点が変わっているので動いているように見えるということらしい。

ノースポールでのオーロラ

 

 今回残念ながら肉眼では見えなかった。機会が有れば肉眼でも見てみたい。

 オーロラについては『オーロラ・ウォッチングガイド』も参考にした。これも赤祖父先生が監修している。本の写真には「ネイチャーイメージ」の河内牧栄さんの写真も登場する。あの椎名誠さんの「怪しい探検隊」に登場する「黒髭白熊マキエイ」さんだ。今回情報収集のため事前に連絡をとらせていただき、ツアーについても丁寧にお返事をいただくことができた。河内さんの著書『愉快!痛快!アラスカ暮らし』は大変面白い。この話に出てくる「アウトハウス」についてもっと聞きたいので、現地で訪ねてみたいと思ったくらいだ。

 また、『オーロラ・ウォッチングガイド』にはほかに、「オーロラ・ボラリアス・ロッジ」についても記述がある。こちらも日本人の方が経営されており、やはり事前の問い合わせに快く回答をいただくことができた。以前宿泊された日本人の方が私の地元でコーヒーショップを始められたと聞き、早速伺った次第だ。

 

 オーロラを安全・快適に見るならこの2つの施設は万全だと思う。残念ながら、どちらの方にも今回お会いすることはできなかったが、次のアラスカ訪問があればぜひお会いしたいと思った。

 

② 雪原クリーマーズ・フィールド

 フェアバンクス市街地のカレッジ通りにクリーマーズ・フィールドがある。事前の調査では、広大な湿原で野鳥を見ることができるとあった。もちろん冬なので雪原になっているだろうと予想できた。実際に行ってみて、そのままだった。あわよくば野生生物に遭遇するかとおもったが会ったのは人だけだった。散歩する人、ランニングする人、クロスカントリーをする人、スノーモービルでスタックする人・・・

  あくまでも「フィールド」なので管理された場所なのだろうが、フェアバンクスには、というかアラスカにはこのフィールドを遥かに越える壮大なスケールで原野が広がっている。もっとその懐に入って行きたいと思った。

何もない感じの雪原

 

③ アラスカ大学フェアバンクス校ミュージアム「北方博物館」

 もう何度も書いたが、このアラスカの自然や歴史、文化を伝承していく施設として、やはりこの博物館の存在は大きい。平日にも関わらず、多くの観光客が訪れ熱心に展示物を鑑賞していた。自分なんか10日間で2回も訪れた。何回来てもよいと思った。重要な展示物も覗き込むように見ることができ、触れることができるようにしてある物もあった。

建物のデザインも素敵だ。雪がよく似合う

 

 また、このロケーションが最高である。フェアバンクス市街地の北部に位置し高台にあるため、デナリ(マッキンリー)方面が一望できる素晴らしい場所だ。

遥かデナリ

 

④ 冬のアラスカ

 20年前に訪れたアラスカは夏だった。夏も大変美しいアラスカだ。印象深いのは原野に咲くファイヤーウィードという雑草だ。背は50cm~1mで濃いピンクの美しい花を咲かせる。また、ちょうど野生のブルーベリーが実をつける時期で、原野一面ブルーベーリーだらけで取り放題だったことを覚えている。

 しかし今回は真逆の冬だ。若干春の兆しはあるものの-30度近い気温になったので冬の厳しさを垣間見た。雪は日本でも体験しその美しさは知っているつもりだ。アラスカでも白い雪がすべてもものを覆いつくし、白と樹木の黒、そして空の青という自然が生み出す造形美は見事だった。

どこも絵になる

 

 地面には60cmはあろうかという積雪で、トウヒの木の枝にもかなりの雪が降り積もりその枝をうなだらせている。静寂の世界かと思いきや、激しく動くものが目に飛び込んできた。リスだ。これがホッキョクジリスなのかどうかは分からないが、太い幹と枝の間をチョロチョロと行き来するが、遠くへは行かない。カメラを構えるこちらを確かに見ているが逃げようとはしない。せっかっくはるばる来たのだから写真ぐらいは撮らせてやろうと言われた気がする。

こちらを見るリス

 

 フェアバンクスのビジターセンターを訪れた際に、建物の外の電柱にカラスがいるのを見つけた。アラスカのカラスは大きいなあと思っていると、その鳴き声が違った。「コルックルー」と鳴く。あれっカラスじゃないのか?それともアラスカのカラスは鳴き声が違うのか?はたまた英語発音?などと馬鹿なことを考えた。あまりの不思議さに館内に入る足を止めて、しばらくその鳴き声を聞き入っていた。その時は気づかなかった。昨夜の星野道夫さんに関するNHKの放送でワタリガラスだと分かった。あれほど星野さんの本で知っていたカラスだったのに現場では気づかなかった。ネイティブアラスカンの歴史を伝承するワタリガラスである。ネイティブには自分たちの祖先はワタリガラスだという民族もいるそうである。

ワタリガラス。日本のカラスの1.5倍はある

 

◇ 番外編~航空機

 今回航空機はデルタ航空のメインチケットにした。というより、知り合いの旅行代理店に相談したらそうなったというだけの話だが。デルタ航空はJALとアライアンスが同じで、地元からはJAL、羽田からとシアトルからはデルタとなり、帰りのアンカレッジからはアラスカ航空、シアトルからデルタ、そして国内にてJALとなった。

 久しぶりの海外旅行だったので長距離の機内はこう変わっているのかと新たな感動を覚えたが、よく行っている人のブログにもデルタの機内サービスを称賛する声が聞かれた。メインキャビンのエコノミークラスだったが機内グッズは豊富だった。最初からブランケット、イヤホン、スリッパなどがパックされたものを渡された。また食事もドリンクも十分だった。機内モードにしてWi-Fiも使えるが、これは電波の届かない海上が多いので繋がらない場合が多いのは仕方ない。

 自分でネットを駆使して格安航空券を手に入れるのもいいが、代理店に相談して見つけてもらうのもいいと思った。

 

 

旅を終えて

 自分は写真を趣味にしている。美しい風景を切り取って残していきたいと思う。アラスカもその一つだと思ってきた。日本にもそして世界にはもっと美しく、そして驚愕の風景は存在すると思う。しかし残りの人生で少しでも多くの美しい風景に出会う機会はそう多くはない。できればユーラシア・ヨーロッパ大陸や南米、アフリカ大陸、オーストラリアにも行ってみたい。だがそれは叶えられそうにない。

 今回アラスカを訪れてみて、そうであれば、もっと知らないアラスカを見てみたいと思った。昔から自然と人の暮らしには興味がある。人がその土地でどう自然と関わって暮らしているのか知りたいと思ってきた。北海道の漁村にも人の暮らしと知恵があり、東北の山の中にもそれはあり実際見てきた。人が知恵を出して自然に適応しながら生きていく姿は本当に美しい。そんな姿をまたアラスカに求めてみたいと強く思った旅だった。

 

 旅に出る前には必ず考えることがある。風呂の湯舟に浸かっていると、窓から電柱が見える。この電柱はうちの敷地内に立っていて数本の電線が近所の家に伸びている。つまり、この電柱が立っているということは平和な状態だといつも思う。自然災害紛争が起きると電柱は立っていることができないのだ。電柱が真っすぐに立って人々の暮らしが成立している平和を旅の前後に感じ取り、そしてまた残りの人生を歩む。

 星野道夫さんの言う「悠久の時を旅する」という壮大なロマンは自分にはないが、自分なりに日常と非日常(旅)を往復しながら感じた違いを埋めていけるような思考を続けたいと思っている。