うた | 津々浦々を徒然と行く。

津々浦々を徒然と行く。

まあ、色々と。色々と。

文字通り
頭の中も外も真っ白になった母の姿を見てると
旅立ちの時が近いのだと思った


母は 
女性のわりに外出の荷物は少なく
活発で明るく
優しい笑顔の人だった

いつからか その握る手に力を感じなくなってから
母はいそいそと旅路の支度を始めていた


そして
長閑な陽光さす午後の隙間に
わずかばかり時計の音が大きく聞こえ
それ以降母は動かなくなった

もはや握る手に何の強みもなく
最期には私の名すら思い出せぬまま



母らしい、と笑った
外出の際の荷物の少ない母は
まるで旅立ちを悟っていたように
徐々に荷物を減らしていったのかもしれない

思い出をひとつひとつ減らし
何も持たずに行ってしまった



そうして静かに過ぎ行く  時に
母の置いていった 記憶をひとつひとつ拾っている



長閑な陽光さす午後の隙間に
涙が溢れている

荷物を減らし続け、旅立った母よ
あなたが最後に置いていったものは

 記憶をなくしてより長い間
見ることの叶わなかった
あの笑顔だった