独走/実業之日本社

2014年、20冊目。堂場瞬一『独走』

単なる国威発揚だけでなく、経済合理性も踏まえたステート・アマチュア育成を掲げた日本で、SAに選抜されながらも自らの価値観との差異に悩むという話。 

 

 


一か月前のオリンピックで金メダル(柔道)を取った沢居弘人はスポーツ省強化局長谷田貝から呼び出しを受け、スポーツ省の職員になることを求められる。

次回のオリンピックでの金メダル倍増を狙う谷田貝は、その構想を沢居に語るとともに、次期オリンピック金メダル候補の一人として、未だ無名の長距離選手仲島雄平を挙げ、そのサポートを依頼する。

引退後の就職先も決めていなかった沢居は、これまでスポーツ省のSA(State Amateur)としてサポートを受けてきた恩義もあり、谷田貝の申し出を受ける。

畑違いのスポーツではあったが、沢居が求められたのは、メンタルの弱い仲島のメンタル面でのサポートだった。


仲島は長距離の世界でようやく名前が売れてきたばかりの選手で、SAのAクラスに指定されたばかりの選手だったが、1万メートルの高校記録を更新するなど成長目覚ましい。

AクラスからSクラスという最上位のサポートが受けられる待遇の変化に仲島の両親は喜ぶが、本人は決して興味を示さない。


大学進学も東京体育大学にあっさりと決まるが、箱根駅伝出場は禁止されるなど、スポーツ省の決めるスケジュール等に雁字搦めのサポートとなるSAに、仲島は驚き、呆れるが、それで自分の納得のいく走りができればいいと割り切って受け入れる。


間もなく、記録会で連日、仲島は高校新、日本新をたたき出すが、自身の思っていた走りでなかったことで、決して喜ぶ顔を見せない。課題について自責を示す仲島の態度に、沢居も困惑を隠せない。


大学に入学した仲島をサポートすべく、沢居は秘かに仲島に二人の友人をあてがう。

高校時代の陸上部のマネージャーと、高校野球で事故に遭い、悲劇の主将となった男の二人。

何も知らない仲島は少しずつ二人を打ち解けていく。


また、記録の伸び悩む仲島を奮起させるべく、谷田貝の指示を受けた沢居は新たにライバルを送り込む。

高校時代に怪我をし、そこから復帰してきた黒崎。

仲島とは違う走りを示す黒崎の走りにやや危機感を覚える仲島だったが、所詮、黒崎との差は歴然としていた。


偶然、作られた自身の友だち関係を知ってしまった仲島は思い悩む。


そんなある日、かつて憧れていたカリウキが千葉の市民レース、千葉シーサイドマラソンで走ることとを知り、仲島は走りたいと願う。

しかし、スポーツ省の計画にはない、そんな草レースに出ることをスポーツ省が認めることはなかった。

大会を観に行った仲島はそこでカリウキから「自由」であることの喜びを語られる。


そんななか、IOCが独占する世界スポーツの理念に叛旗を翻すかのように、アメリカのIT業界の雄ラーガ社が「第二のオリンピック」と銘打ってフロリダのリトル・バハマ島でUG(Ultimate Games)を開催することを打ち上げる。

相変わらずドーピングに揺れる既存のオリンピックを揶揄し、3ヵ月間選手を隔離することで真に公正な大会を目指すと謳うUGに対し、IOCが反感を示すとともに、各国の競技団体も概ねそれに応じた対応を示す。

スポーツ省も傘下のSAに対し、UGに取り合わないことを指示する。

しかし、拘束されることに嫌気が差すとともに、カリウキがUGに参加することを知った仲島はアメリカでの合宿からの帰国途上、脱走してしまう。

慌てた沢居は現地へ飛ぶのだが・・・。

  

 

なかなか微妙。

主人公自体に魅力が乏しい。というよりも、メインは沢居なのか、仲島なのかも判然としない。

沢居だとすれば、結局のところ何もしていないし、強いていえばSAの歪みを体現する人物としての設定とも読めるが、そこまですれた感じがしないところが微妙。

結局、沢居というキャラクターが蛇足にしか映らない。

では、仲島がメインかといえば、どうも共感を得にくい性格設定で、なんとなく異種の動物といった感じで観察対象のようにしか映らない。

脇に置く人物たちにしても、どうも存在感に乏しいし、ライバル設定した黒崎も殆ど一回の使い捨て状態。


多少はレースの展開が読ませるにしても、非常に淡泊でこれだけでは作品の魅力とはなりえない。

成長物語として読むにも、ちょっと仲島の心が偏狭すぎて、とても成長しているようには見えず、独りよがりの子どもの域を出ていないように見える。


ストーリー自体も、ややUGという強引な大会設定でやや興醒めだし、早い段階で仲島の進路が読めてしまう。

加えていえば、そこまで引っ張っておいてUGの描写はなしって・・・。

正直なところ、ちょっと期待外れな作品でした。

 

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆