Soratobukouhou2012年、86冊目。有川浩 『空飛ぶ広報室』



ブルーインパルスのパイロットになる夢を断たれた青年の再生・成長記。





夢に見たブルーインパルスに入る直前、交通事故に遭遇し、その前途を断たれた空井大輔(二尉)は市ヶ谷にある航空幕僚監部広報室に転属となる。



夢を断たれた悲しみを表に出すことの出来ない空井を外部では詐欺師とも揶揄される広報室長鷺坂正司(一佐)は、逆療法として、取材に来ていたクセのある帝都テレビの稲葉リカに引き合わせる。



リカはこれまで警察担当だったが、しゃかりきに取材に取り組んだ挙句、被害者を顧みない頑なな取材姿勢を懸念され、現場から外されディレクターに就いたばかりだった。



日陰の存在である自衛隊を取材することに忸怩たる思いを抱えたままリカは、自衛隊パイロットであった空井を非難する。



戦闘機を人殺しの機械としか捉えず、それを目指すパイロットは人殺し願望のある人間だ。



そんな稲葉の言葉にキレる空井だったが・・・。





そういったリカの言葉こそ社会の言葉であり、自衛隊の広報室としては、その間違いを払しょくするする必要があるのだとの鷺坂の諭しに空井の広報室に対する見方も変わっていく。



一方、自身の心無い言葉が空井を傷つけてしまったことを痛感したリカもまた心を変えていく。





広報室のベテラン比嘉哲広(一曹)とはりあおうとする片山和宣(一尉)、広報班の”残念な美人”柚木典子(三佐)と槙博巳(三佐)の学生時代からの関係など、複数の物語をはさみつつ、広報室の活躍は続く。





作者得意の自衛隊もの。



恋愛要素を交えつつも、どちらかといえば自衛隊広報に一役買おうというような(特に悪い意味ではないが)プロパガンダ的な印象を持つ仕上がりになっている。



お仕事ものとしては、珍しい分野の紹介なので興味深いが、残念ながら、あまり臨場感や仕事に向かう姿に共感を持ちにくい。



文字やエピソードを駆使して凄い仕事をしているように飾ってはいるものの、働いている人から発する熱(意)のようなものを感じないのだ。



自衛隊を舞台にした作品というよりも、自衛隊PR作品としての匂いが強い分、お仕事作品としての評価としては今ひとつという印象を持たざるを得ず、中途半端な作品としての印象を残す。残念。





お奨め度:★★★☆☆



再読推奨:★★★☆☆