2012年、96冊目。重松清 『空より高く』
廃校を前にした高校3年の主人公たちによる青春もの、というより成長物語といった方がいいだろうか。
「空より高く」というタイトルにもあるとおり、ジャグリングが物語の小道具として登場する。
玉川ニュータウンが廃れていくのに合わせ、”トンタマ”東玉川高校も廃校となる。
卒業をあと半年に控えながらも。”ネタロー”こと松田練太郎は、”最後”続きの高校生活を特に夢もないままに、友人である”ヒコザ”大久保省吾、”ドカ”戸川翔太とともにだらだらと過ごす。
そんなある日、駅前の「プロムナード」でジャグリングを披露するピエロを見かけ、その技に感動する。
二学期の始業式、赴任してきたのは、東玉川高校の第一期生、神村仁。
無気力な生徒らに向かい、ジンは「レッツ・ビギン!」と何かを始めることを提唱する。
鬱屈を抱えていたドカらは、ジンが主催する「さよならイベント委員会」に参加するが、自発的な意見も出ないなかで尻すぼみになっていく。
ジンに触発されたのは、ドカだけではなかった。
クラスで無口な”ムクちゃん”小島史恵がネタローに告白してきたのだ。
ムクちゃんの告白に応えられないネタローだったが、偶然、目にしたムクちゃんのお手玉の技に、ムクちゃんを師匠として師事することになる。
変わりそうで変わらない毎日のなか、屋上に生徒を呼び出したジンは、同級生である”ヤノジ”鈴木康雄の自殺について語った。トンタマの最初にして最後の自殺者だ。
集まった生徒を見回したジンは、卒業までの残り半年で何かを始めることの大切さをあらためて語る。
ピエロに再会したネタローは、ピエロがジンの同級生”フジトモ”藤田智子であることを知るとともに、フジトモからジャグリングを習うようになる。
リストラされてしまった父との葛藤を経て成長するヒコザや、原付事故を経験し、被害者への償いの経緯のなかで大人へと成長していくドカを眩しく感じながらも、ネタローはなかなか前へ進みだせない。
ムクちゃんとの関係も進展がない。
そんななか、ネタローは東玉川高校に留まらない玉川ニュータウンまで含めたイベントを企画する。
「玉川祭り」
高校の放送室を占拠したネタローは生徒に参加を呼び掛けるとともに、「プロムナード」に繰り出したジャグラーズは演技を披露しつつ「玉川祭り」のPRを行うのだった。
作者得意の40歳代後半の主人公を描く作品ではなく、高校生が主人公。
ただし、この主人公らは(感覚的ではあるが)今風の高校生ではなくて、40歳代後半の読者が想像できるような、今から30年ほど前の価値観というか、考え方をもった高校生なのかもしれない。
多分、現役の高校生が読めば違和感を持つんじゃないかなと思わせる。高校生全体の捉え方というよりも登場人物らの考え方が、だ。
その分、大人には十分読みやすく、40歳代を描かなくとも、結局のところターゲットはやはり40歳代なんだろうなとは思わせるが・・・。
話自体はやや破天荒、というか古臭い。
それこそ30~40年前くらいの中村雅俊らの青春ドラマのように、青臭く、熱血な教師がやってくることで変わっていくという話なのだから・・・。
ただ、この教師がやや小粒なのは今なりなのか、学校を変えることはできず、身近な数人だけを変えるくらいでとどまる。
まぁ、それに付き合う方も突拍子ないが。
そういった馬鹿馬鹿しさというか、古臭さ、違和感に目をつむりながら読んでいく作品。
読後感は悪くはないが、作品で熱く煽るほどには印象には残らないかもしれない。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★☆☆