Greed1Greed22013年、9899冊目。真山仁 『グリード 上・下』



『ハゲタカ』 シリーズの4作目。



サブプライムローン問題からリーマン破綻に至る過程でGC社が破綻に転げ落ちていくなか、鷲津がアメリカの魂とも言えるエジソン創業の会社を買収すべく、米国と戦っていく話。








サブプライムローン問題が燻りはじめるなか、全米屈指の投資家であり、”市場の守り神”とも言われるサミュエル・ストラスバーグからの電話を受けたゴールドマン・コールズ(GC)のジャッキー・フォックスはCDS市場を調べることとなる。



GCも大きく関与しているサブプライムローンからのCDS組成の危うさを感じるジャッキーだったが、債券部は聞く耳を持たず、逆に、利益になるサブプライムローンビジネスに水を注すジャッキーを敵視するのだった。



市場が揺れ始めるなか、鷲津政彦が次なる標的と決めたのはアメリカンドリーム(AD)社だ。エジソンゆかりの企業を買収することはアメリカ国民の敵視を受けることは必定だったが、それでも鷲津はこれにチャレンジすることを決める。



ベア・スターンズが潰れ、金融危機の気配が高まるなか、ストラスバーグに呼び出された鷲津は危機が生ずる際にはGCを救済するよう求められる。



更にストラスバーグからは、自身が利益を有し、支配権を確立しているAD社に手を出すことを禁じられる。



アカマ自動車の一件もあり、あえてアメリカを敵に回したくない鷲津はストラスバーグに従うように見せるが、それでいてストラスバーグに余裕がないことも見て取り、秘かに手を進めるのだった。



そんな鷲津のもとに新たにスタッフが加わる。



アンソニー・ケネディ。



ニュージャージー州知事であり、将来の大統領候補とも呼ばれるブライアン・ケネディを叔父に持つ青年だ。



開発経済を専攻し、実際に開発支援に携わってきたというアンソニーの経歴ときれいごとの数々に閉口する鷲津だったが、やがて鷲津の言葉を受け入れつつも自身を有しているアンソニーに亡くなったアランの姿を重ね合わせていく。



リーマン破綻の噂がささやかれるなか、GCにも危機が迫る。



しかし、そんななかでも、ストラスバーグの顔を立ててGCを訪ねた鷲津に対し、CEOのマシュー・キッドマンは敵意を隠さず、自力での再建に拘る。



実状をよく知るジャッキーは頭を抱えるが、CEOには逆らうべくもない。



サブプライムローン問題の深刻さが増し、ファニーメイやフレディマックの問題、更にリーマンブラザーズ、そしてその先といった進展が予想されるなか、アメリカ政府でも手を打とうとしていた。



サムライ・キャピタルの相談役でもある日銀OBの堀嘉彦は大統領の求めに応じ、ワシントンDCを訪ねることとなる。堀からバブル崩壊時の日本の対応を秘かに研究するとともに、日本からの支援の瀬踏みをしようというのだ。



そんな市場の混乱のなか、鷲津はAD社買収に向けて着々と暗躍する。



しかし、そんな鷲津の行動をストラスバーグが黙って見過ごすはずもなかった。



FBIを動かしたストラスバーグはまず堀を拘束する。



堀の突然の拘束に驚いた鷲津は事実を調べ、堀の救出を算段するべく世に公表するよう動き出すが、そんな鷲津にまでFBIの手が伸びるのだった。



FBIに連行された鷲津はストラスバーグと対面し、堀解放の見返りに、GC支援とAD社から手を引くように強要される。



堀の安全確保のためストラスバーグに従った鷲津だったが、その闘争心が鈍ることはなかった。



リーマン破綻が秒読みになるなか投資銀行全般への信用が揺らぎ、資金は市場から吸い上げられてしまう。



そんななか、AD社もCPでの短期資金調達が困難を極め、償還資金の借換えが困難になっていく。



ストラスバーグとの誓約を守るかのように、鷲津は有する株や債券をAD社に買い戻すよう求めるポーズはとるものの、資金のないAD社に買い戻せるはずもない。



逆に、鷲津のほうがCPの償還資金融通を申し出る有り様だ。



こうして、ストラスバーグへの建前を繕いつつ、着々とAD社の外堀を埋めていく鷲津。



資産の劣化と顧客の解約増加を受けて、GC社も資金調達ができなくなるなか、資産は急激に縮小し、その命運も風前の灯となっていく。



CEOマシュー・キッドマンを放逐し、実権を握った債券担当のジミー・クランシーだったが、強気一辺倒の性格だけで、何も打開策を持たなかった。



ストラスバーグとの連絡役として重用されるジャッキーだったが、顧客を蔑ろにし、何も為すことの出来ないGC社の行く末を暗澹たる思いで見ていた。



鷲津のAD社への動きを知ったジミー・クランシーは、AD社へのTOBをネタに資金を外部から調達するという詐欺まがいの起死回生策を打ち出す。



アメリカの魂とも言えるAD社が日本人に買収されるという屈辱をエサにすれば、アメリカ国民から資金をかき集められるとみたのだ。



GC社の創業者を祖父に持つジャッキーは創業理念が踏みにじられるのに忸怩たる思いだったが、ジミー・クランシーの企てを覆すだけの力はなかった。



しかし、この詐欺行為は鷲津に暴露され、世の批判を浴びる。



更に、GC社自体を購入するつもりのない鷲津は、元ニッポン・ルネサンス機構総裁の曲者飯島亮介にGC社の話を持ち込む。



かつて日本の不良債権処理で外資系に身ぐるみはがされたという怨念を有する飯島は虎視眈々と雪辱のときを待つ。



一方、AD社は、鷲津からのTOBも、GC社からのTOBも断ると、ストラスバーグの支援に期待するが、ストラスバーグにもそんな余裕はなかった。



ワシントンDCでは、リーマンブラザーズ破綻の秒読みが始まり、リーマン破綻後の影響の縮小に向け検討が進む。



そんななか、飯島と鷲津はリーマンの救済候補である英バークレイズを所管する英国政府関係者にそのリスクを説き、リーマン救済から手を引かせる。



飯島は大統領の親書をもとにGC社へ乗り込むとデューデリの結果を突き付け、チャプター11の申請を迫る。



そしてタイムリミットが来た。



リーマン、そして程なくGC社も潰れる。



GC社はチャプター11を申請し、日本のUTB銀行の系列に入ることとなる。



ジャッキーは新GCのCRO(最高事業再構築責任者)に就く。



一方、AD社争奪戦では、ストラスバーグが鷲津の師でもあるアルバート・クラリスを抱き込み、巨額ファンド(I Love American Dream基金)を組成して救うとぶち上げる。



ストラスバーグの言葉に共感してILAD基金には国民から多額の寄付が寄せられるが、鷲津はストラスバーグもクラリスも資金を実際には投入していないことを喝破し、公表する。



また、ニュージャージー州知事ブライアン・ケネディも選挙対策の一環として、ストラスバーグと手を組み、鷲津(日本人)に”アメリカの魂”を渡すなとAD社救済に乗り出すが、既に自己保有していたAD株は売却しており、AD社CEOオイリー・ラッシュも売却済みだった。更に、オイリー・ラッシュは秘かにストラスバーグに新株予約権付き債券を発行するとの密約がなされていた。



そのカラクリを鷲津に暴露され、CEOオイリー・ラッシュは放逐され、AD社には本来の技術畑の役員陣が実権を握る。



また、AD社の若手従業員がADエイドを結成し、自社株を集める動きを見せると、鷲津のTOBに応じるとしていた株主もADエイドへの協力を申し出るものが増えてくる。



GCの再建につき感謝する財務長官ポールソンに対し、鷲津はストラスバーグの罪をあげ、一刻も早く拘束するよう求めるが、ストラスバーグは逃走してしまう。



更に、AD社の株争奪戦はADエイドに軍配があがるように見えたが・・・。







なかなか面白かった。



リーマンショックの時期の話なのでダイナミズムもあるし、敵役もなかなかに曲者のバフェットやソロスのような大物投資家といった設定。



FBIが出てきたりと、やや修飾過剰な面もなくはないが、それも含めて楽しめた。



今回は鷲津からの視点、暁光新聞の新聞記者北村悠一からの視点、ジャッキー・フォックスからの視点と、(深みが出るというわけではないが)多重的に情報が集約され、読みやすい。



芝野もちょっとだけ登場するが、ほとんど顔出しだけで、ストーリーには何も影響しない。



お奨め度:★★★☆☆



再読推奨:★★★☆☆