Kurusunozanko32013年、60冊目。仁木英之 『くるすの残光 いえす再臨』



奥州で反乱を起こそうとする切支丹を救出すべく仙台に向かう寅太郎と佐七の話。





寅太郎と仁兵衛、荘介は柳川からの帰途、クニマタギの長の子、銀二から奥羽の切支丹の危機を告げられる。



危機があるのであれば助けるとの仁兵衛らの言葉に、銀二は一族の短刀を寅太郎に託す。使うべき者が使えば異能を発揮する短刀だ。



江戸で寅太郎の帰りを待つ庄吉、たまの夫婦だったが、庄吉は仙台での仕事が待っていた。



仙台藩の桜の名木が枯れかけているのだという。



青山の屋敷で枯れかけた松を(寅太郎が)救った噂を受けて、庄吉らに白羽の矢が立ったのだ。



同時期、人形師佐七のもとにも仙台藩からの依頼が舞い込む。



将軍家光の肝入りで行われる伊達藩主の姫鍋子の縁談について、鍋子が否む一方で、佐七の人形さえあればとの条件を出したというのだ。



江戸に戻った寅太郎を伴い、庄吉らは仙台に向かう。





切支丹を保護してきた伊達政宗であったが、江戸からの圧力に抗すべくもなく、形式的にでも切支丹を棄教させようとする。



信者である後藤寿庵もまた政宗の真意を知り、表舞台から姿を消すが、その息子信之助は納得できない。



それでも雌伏のときと時間を過ごしてきたが、江戸に諂うだけの当主に嫌気が差すことに加え、聖骸布を得て奇跡の力を示す少年一起を得て、一起を「いえすの再来」「救世主」として挙兵することを決めた。



仙台城で、木々の力が弱っていることを見て取った寅太郎は、遥か北、盛岡藩の三戸に災いの原因があることを突き止める。



一方、仙台城内で人形を懸命に作る佐七だったが、突然、姫鍋子が攫われてしまう。



二つの事件の裏には、挙兵しようとする切支丹の動きがあると見た寅太郎と佐吉は二人で北に向かう。



一方、宗門改方の長、井上筑後守政重も閻羅衆を率い、不穏さを増す仙台に向かった。



佐橋市正も同行するが、事前に訪ねた天海からその素性を明かされるとともに、秘かに聖遺物の釘を託される。



軽軽な挙兵により奥羽の切支丹が滅びるのを見かねるとともに、四郎以外に神の子はいないとの信念から、一起らを止めようとするが、誰も耳を貸さない。



鍋子の拉致については狂言であることが判明したものの、寅太郎らが大籠に着いたときには既に一起らは仙台に向かった後だった。



仙台城では迎え撃つ閻羅衆が苦戦していた。



木を憑代にして、対する閻羅衆と同一人物を作り出す聖骸布の力により、閻羅衆は押される。一旦は井上政重の力により挽回したものの、井上自身も複製されるに至り、危機的な状況。



そこへかけつけた寅太郎と佐七は四郎復活のため聖骸布を取り戻すことを決める。



危機的状況のなかで佐橋市正は知らずに”釘”の力を使う。



反撃しようとする一起に、奥州の桜の力を借りた寅太郎や、”お雪”を操る佐七が介入する。



寅太郎や佐七の手により聖骸布をはぎ取られた一起は自刃し、生き残りの切支丹らも自害して果てた。



何万と号した切支丹であったが、その殆どは聖骸布により木が化けたもので、本当の切支丹はもはや少数だった。





一方、江戸では、荘介の技を見込んだ毛利・萩藩より仕官の声がかかっていた。



傍若無人に振る舞う剣術師範吉浦備前を御前試合で倒すことを求められた荘介だったが・・・。





基本的には寅太郎と佐七が主要キャラクターではありますが、物語自体は奥州の切支丹の成り立ちと、後藤寿庵の息子信之助と、信之助が神の子として推す一起による反乱が中心の展開。



主要キャラクターのなかでは、前作では出番のなかった佐七がメインではありますが、どうも全体的に地味。小さな恋物語的な要素もあるんでしょうが、どうも全体のなかでは印象が薄い。



全体を大きく引っ掻き回す主因である一起についても、造形がしっかりしていないために、話が上滑りしている感がある。それは後藤信之助についても同様で、前半では存在感を示しつつも、後半では殆ど個性を感じさせない。



聖遺物の回収についても、今回はあまりはっきりしないなど、ちょっとラストがバタバタとした印象。聖骸布は回収したとして、佐橋の”釘”の問題はどうなったんでしょう。



また、今回の作品の構成として面白いところは、これまでの一話(一巻完結)型ではなく、留守番の江戸でも次作に続く伏線が用意されているところか。



今回は江戸に留守番の荘介について、謎の死を遂げた父との経緯や萩藩への仕官話など、次巻へつながる要素が配置されている。次巻は荘介メインの話ということですね。



お奨め度:★★☆☆☆



再読推奨:★☆☆☆☆