2013年、26冊目。百田尚樹 『夢を売る男』
書きたい素人を騙して(?)躍進する自費出版(ジョイントプレス)業界の躍進物語。
1 太宰の再来
丸栄社編集部部長 牛河原勘治は大森康二と契約を交わす。
大森のことを太宰の再来だと、編集部の新人荒木計介に語る牛河原だったが・・・。
2 チャンスを掴む男
スティーブ・ジョブズになるために「努力をしない」男、温井雄太郎。
アルバイト先の主任に馬鹿にされた挙句、クビになり、むしゃくしゃしているところへかかってきた電話は丸栄社の牛河原からのものだった。
丸栄社の出版説明会で温井が書いたアンケートに感銘を受けたという牛河原は温井の才能を語り、小説家への道を進めるのだが・・・。
3 賢いママ
幼稚園のママ友たちの低俗な話題に疲れ、自身の教育論の自慢がしたくてたまらない大垣萌子は、丸栄社教育賞に『賢いママ、おバカなママ』というタイトルで作品を投稿した。
原稿を送ってから3ヵ月後、丸栄社の牛河原から電話が入る。
『賢いママ、おバカなママ』が最終選考7作品に残り、最有力だというのだ。
萌子は有頂天になるが・・・。
4 トラブル・バスター
応接室で顧客とトラブルになっていることを知った牛河原が駆け付けると、部下木村美恵が阿久沢進から責められていた。
一部上場の商社を定年まで勤め上げた阿久沢の「自分史」のジョイント・プレスについてのクレームだ。
知人の印刷所の社長に聞いたところでは、丸栄社の示す金額は高すぎるというのだ。
これに対して、牛河原は自費出版とジョイント・プレスの違いを語り・・・。
5 小説家の世界
入社半年で30件の契約を挙げた荒木を慰労する牛河原に、荒木は牛河原の過去を尋ねる。
一流の文芸出版社である夏波書房の編集者であった牛河原だったが、時代の流れのなかで、売れない小説家を相手にすることが嫌になって・・・。
6 ライバル出現
売上、営業利益の減少に牛河原は唸り声を上げる。
契約件数自体は減っていないが、契約金額が低くなってきているのだ。
丸栄社のビジネスに目をつけた狼煙舎がこの業界に参入し、価格破壊を行っていることを知った牛河原は、心配する社長作田に対し、新たな企画で対抗することを告げた。
新たに文庫のシリーズを設けるというのだ。文庫(への客引き)の成否を決めるのは、大家の作品だとみた牛河原は・・・。
7 戦争
丸栄社の文庫戦略を知った狼煙舎もまた狼煙文庫を創設し、ここでも価格破壊を企てる。
もはや戦争だ。宣戦布告を受けて立つ牛河原は、スパイとして荒木を狼煙舎に送り込んだ。
荒木からもたらされる狼煙舎情報は、いかに丸栄社のシステムがコピーされているかということだ。成功にあぐらをかき、努力を怠ってきた驕りに、牛河原は愕然とする。
更に、荒木がもたらしたのは、狼煙舎の印刷部数らの水増し等、不正の数々だった。
牛河原は一つの作戦をたて・・・。
8 怒れる男
石川県の元大学教授、元市会議員藤巻正照はいらいらしていた。
狼煙舎から出版した作品の反響が全く周囲から聞こえてこないからだ。
そんな藤巻のもとを訪ねてきたフリーのルポライター船曳は、狼煙舎の不正を語った。船曳の語る狼煙舎の手口はまさに藤巻自身が経験していることだ。
船曳の言葉に応じて、狼煙舎への訴訟団に加わることを決めた藤巻は・・・。
9 脚光
牛河原の仕込みのなかで大きな問題となった狼煙舎の一件は、テレビでもとりあげられることとなる。同業とみなされる丸栄社にもテレビ局が取材に来るが、牛河原はこれもビジネスチャンスに救い上げる。
狼煙舎との違いを鮮明にし、いかに丸栄社が誠実であるかを訴えるのだ。
同じく、原告に名を連ねた藤巻のところにも取材がきて・・・。
10 カモ
一件は落着し、荒木は丸栄社に復帰する。
一方で、老舗出版社も丸栄社のビジネスに参入しようとするが、牛河原は意に介さない。一流の看板が足枷になるはずだからだ。
そんなことを語る牛河原のもとへ部下飯島杏子が直訴する。
資産を有しない女性の出版について見送るように指示した牛河原の言葉に納得できず、再度作品の素晴らしさを訴え、安価での出版を求めようというのだ。
原稿を示す飯島に、牛河原は原稿を読まないと突っぱねるが・・・。
なかなか毒のある作品。
一歩間違えれば(間違えなくとも?)詐欺師の話。
一方で、確かにこんな人いるよなぁという勘違い群像を描き、それを騙していくというところにくすぐられる。
ラストは悪徳商人牛河原が見せる人情が、ちょっと良いことをしたら「良い人」に見えてしまう悪人のようで、ややあざとい。
丸栄社の社長が『錨を上げよ』 の主人公作田又三のようなのは、ご愛嬌か。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★☆☆☆