Elitenotenshin2012年、74冊目。高杉良 『エリートの転身』



主としてサラリーマンの転職、退職を題材にした短編集。





エリートの転身



日興證券創業者遠山元一の遠戚であったことから日興證券に入社した神田光三は「将来の社長候補」として一目おかれた存在。



しかし、課長になったある日、神田は上司である取締役株式本部長宮本正夫から本店営業本部への異動内示を受ける。



ノルマのある営業部への異動に一抹の不安を感じながらも、本店営業本部での2年間、ノルマに苦しみながらも何とかノルマをこなす。



そして昭和53年4月、同期トップで立川支店長に就任する。



しかし、部下を追い込むノルマのきつさや客色と欲にまみれた顧客と接するうちに、日興證券を辞する決意を固めていく。



部下の不祥事をきっかけに管理責任を自ら買って出た神田は日興證券を退職する。



大東カカオ株式会社の創業者でもある義父竹内政治は大東カカオに神田を迎えようとするが、神田はチョコレート職人となる道を選ぶ。



40代の神田だったが、23歳と偽り、スイスのツークにあるチョコレート工場に修業に赴く。



6ヵ月の修業を終え、帰国した神田は、間もなく株式会社ショコラティエ・エリカを設立するが、なかなか日本人に合うチョコレートを作り出すことが出来ない。



竹内の指示のもと大東カカオの研究室長大西寿の支援も得ながら神田は、大手チョコレート会社にはまねできない手作りの高級チョコレートを追い求めた。



そして・・・。





エリートの脱藩



業績低迷にあえぐ光陵油化で昭和40年入社の経営企画室課長後藤治夫は人事部課長でもある松山に退職することを切り出した。



業界の厳しさに加え、経営トップに夢を託せないのだ。



ある日、経済誌を読んでいた後藤は新興の半導体機器等製造の共和精密工業社長山口健一を紹介したコラムをみて、山口に興味を持つと、就職希望の手紙を書いた。



山口を訪ねた後藤は更に山口に魅かれ、山口もまた後藤を心待ちにする。



一方、人事部長井上や松山に慰留されるが、後藤が翻意することはなかった。



突然、後藤邸を訪ねてきた光陵油化社長吉岡も後藤を慰留に努めるが・・・。







民僚の転落



丸興商事繊維本部管理部課長代理西川修平は上司である管理部長浅野から京都支店への転勤を打診される。



管理部へ異動して5ヵ月の異動というのは異様であり、西川に先日の前原常務とのゴルフの一件を思い起こさせた。



果たして、西川の京都支店への転勤は前原の意趣返しだった。



名門ゴルフコースでの前原の不祥事を西川が庇わなかったことに腹を立てたのだ。



呉服だけを扱う京都支店は姥捨て山の存在であったが、1,2年で戻すという浅野の言葉を信じて京都支店へ転勤した西川だったが、京都支店では西川のエリート意識をくじくような対応で迎えた。



それでもいつかは戻れると信じていた西川だったが、懇ろとなっていたホステスから、支店長と常務がゴルフの一件を話していたことを知り、心配を解くべく、浅野部長に電話をかけるが・・・。





エリートの反乱



トーヨー繊維工業の派閥争いのなかで、穏健で実務派の速瀬副社長を支持する総合企画部課長森雄造が煙たい、次期社長を狙う副社長藤本三郎らの一派は、森の放逐を画策する。



森の過去の些細な不祥事を炙り出すと懲戒解雇を人事部長山脇修平に指示する。



理不尽な藤本や担当常務川井正一の言葉に反論する山脇だったが、山脇を役員に推挙するという言葉の前に矛を収めてしまう。



忸怩たる思いの山脇は部下であり、森の同期でもある課長仁科英に相談する。



仁科は森とも話をするが解雇理由にあたるとは思わない。しかし、そんなことは山脇も承知のうえだ。



山脇は穏便に処理するべく、森の依願退職の水を向けるが、落ち度を認めない森がそれを受けるはずもなかった。



森の窮地を救うべく、仁科の呼びかけで集まった同期たちだったが、藤本一派に組する者やエリート意識の強い森への反感を抱いていた者らの反発もあって、結束しない。



逆に、仁科の暗躍は同期の密告により川井の知るところとなり、山脇は仁科の異動を迫られる。



仁科は速瀬にも相談するが、社長を抱き込んだ藤本らにより、森の退職は避けられないものとなっていく。



森は地位保全の仮処分申請という法的手段に訴えることを決意し・・・。





どうも作者の作品では、短編の分量では短く、薄くなってしまうきらいがある。



無理に完結の形まで持っていったような「エリートの転身」は、まさにその典型で、粗筋だけを追っているようで、小説としての面白みに乏しい。



一方で、結論をつけるのを諦めたかのような「民僚の転落」や「エリートの反乱」は、尻切れトンボといった印象で、途中で書くのを投げ出されてしまったような印象を受けてしまう。



強いていえば、「エリートの脱藩」は、中途ながら先行きをある程度予想させるので、まずストレスなしに読み切れるという程度。



若干脚色や誇張、大きな展開といった要素が含まれるとはいえ、所詮は身近なサラリーマンという存在の哀話など、自身の周りにもいくつでも転がっているのであって、こんな中途半端な文章を特に読みたいとは思わない。



せめて、世の流れ、時事問題・著名人との絡みでもあれば、一種の歴史もの的な読み方もでいるが、今作はとてもそうとは言えず・・・。



お奨め度:★☆☆☆☆



再読推奨:☆☆☆☆☆