For_all_mankind1For_all_mankind2For_all_mankind3Jinruishikin42013年、80・81・82・83冊目。福井晴敏 『人類資金 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ』



映画化もされた作品。



戦後復興を影で支えたM資金の変質を憂い、世界を支配するルールへの反抗を企てるMと詐欺師真舟の物語。





ポツダム宣言受諾を決めた終戦直前、戦争続行を謳う叛乱軍に日銀から強奪された膨大な金塊を再奪取した笹倉雅実はその資金”M資金”を、この世に普及してしまった”ルール”を覆すべく使うことを決意する。






それから約70年、「M資金」詐欺で名を馳せる真舟雄一に白羽の矢が立つ。



亡くなった笹倉雅実の遺志を次ぐ”M”(ITベンチャー「アイネアーク・イェーナ」社主)からだ。



一仕事を終えた真舟に突然声をかけてきた”M”に仕える男、石優樹は真舟を”M”のもとに案内し、仕事を依頼する。



曰く”財団”から「M資金」を盗むこと。



「M資金」詐欺に携わりながらも、いつかは本筋に関わることを予期・期待していた真舟にとって、石らの示す言葉には真実味も感じられる。しかし、「M資金」のことだけに、容易に信用するわけにもいかない。



真舟は仕事仲間の沖山秀次に依頼し、「アイネアーク・イェーナ」や石優樹のことを調べる。そのなかで、石が偽名であることが発覚する一方、公安のターゲットとなっていることも発覚する。



真舟の師匠でもある津山利一は25年前、「M資金」の本筋に関わる仕事のなかで、”事故死”した。



”財団”の理事長である笹倉暢彦(雅実の長男)の長男である雅彦と連携しながら融資案件をまとめようとした津山だったが、何らかの事情で融資が頓挫する。この件で雅彦に魔手が伸びると懸念した津山は事件を明るみに出そうとするが、逆に”ルール”の名のもとに社会から津山は追い詰められた挙句、死に至ることとなる。



間もなく、雅彦も死亡する。



このような経緯もあり、今回の依頼案件につき対応をどうするかネットカフェで思案する真舟だったが、既に考えている余裕はなかった。



石の正体を探ったことで、目をつけられた真舟のもとに防衛省情報局一尉高遠美由紀の率いる部隊が姿を現す。



周囲を固められ、連行されるしかないと諦める真舟を救ったのは石だった。



石の誘導に従い、ビルの飛び移り、バイクでの逃走、秘密に張り巡らされた地下通路を逃走し、美由紀らの追跡を振り切る。



何とか逃げ延びた真舟だったが、未だ心は決まらない。しかし、石との言葉の応酬の末、石の目の中に自身と同じものをみた真舟は加担することを決意する。



次に、真舟が目指すのはロシア。



失策を打つ防衛省情報局に苦る笹倉暢彦のもとに電話を寄越したのはローゼンバーグ銀行ニューヨーク支店役員ハロルド・マーカス。



日本の状況をつかみ、即座に次の手を打つという。



ハロルド・マーカスからの連絡を受けた遠藤治は清算人としての職務につくため、仮の姿を捨て旅立った。



真舟に恨みを持つヤクザ酒田忠に接触した高遠美由紀は真舟がロシアに潜んでいることを伝え、酒田らをロシアに送り込む。



ロシアに潜入した真舟らは、”財団”のヘッジファンド「ベタプラス」のマネージャー鵠沼英司をターゲットにした詐欺を開始する。



リーマンショックで巨額損失を抱えながら隠蔽に努めてきた鵠沼は、昨今”財団”の監視の目が厳しくなっていることに怯えて暮らしていた。



そんな鵠沼のオフィスを突然”財団”の監査人木下がやってくる。



絶望に崩折れる鵠沼だったが、そんな鵠沼に木下は一つの提案をしてみせる。



マネージャー権限で、本部の許可なく決裁できる500億円の特別措置を活用して、とある先に投資することを薦めるのだった。



後のない鵠沼は、セルゲイ・ノブコフと名乗るFSB高官の言葉に耳を傾ける。



北方領土を経済特区にして日本企業の進出を優先的に受け入れるというプランの受け入れ元となる大統領の”ファミリー”企業に投資をしろというもの。



大統領が国を私物化するような行為ではあるが、その一方で真実だった場合の身入りも大きくなる。



しかし、あまりにもうまい話すぎて鵠沼も信用できるものではない。



そんな鵠沼を信用させるべく、別の投資話が持ちかけられる。



当然、木下らの正体は真舟たちである。



モスクワに向かった鵠沼と真舟たちは、協力者である日銀の本庄の情報に乗っかって見事に投資を成功させる。



これで本命の投資に入るが、鵠沼には”財団”のデータベースで情報を確認する作業が残っていた。



木下(真舟)はウィルスの入ったUSBを鵠沼に託す。



”財団”のサーバに取り付いたウィルスは鵠沼が500億円の特別措置を申請すると、それを200通コピーして別の口座に振り込ませるよう働くのだ。



即ち、この作業で一挙に(もともとのM資金の原資相当の)10兆円を確保しようという計画だ。



緊張しつつ、モスクワからオフィスのあるサンクトペテルブルクに向かう鵠沼と真舟らだったが、同じ列車に乗り合わせていた酒田に発見されてしまう。



彼らの行動を監視していた遠藤はハロルド・マーカスの指示を受け、秘かに酒田の部下を殺す。



そのドサクサのなかで真舟らは脱出するが、真舟は自身が何者かに狙われていることをあらためて知ることとなる。



人が一人死に、更に危険が高まるなか、石からの連絡を受けた”M”は計画の中止を真舟に伝える。



しかし、ここまで来て引き返すことのできない真舟は”M”を挑発した挙句、同行した石とも別れ、一人で計画を進めようとする。



計画当日、単身鵠沼のオフィスに乗り込んだ真舟だったが、そこには囚われたセルゲイ(本名ワシーリィ)の姿があった。



明らかに日本のヤクザである酒田と因縁のある真舟に不審を感じた鵠沼は、計画を実行するにあたり、念のため、つきあいのあるマフィア、カラムシェフ・ファミリーにセルゲイの消息を追わせて、これが詐欺であることにたどり着いたのだ。



沈黙を守る真舟に対し、鵠沼はワシーリィの娘を脅迫の材料に使う。



取り乱すワシーリィの姿に真相を語りそうになった真舟の前に、突如姿を現したのは”M”だった。



”M”=笹倉暢人のことを知る鵠沼は、真舟は暢人の指示のもとに動いていたという言葉に騙され、暢人の見守る前で計画を実行する。



暢人が財団の理事長である笹倉暢彦の息子であるという信用力と、暢人の語る将来像、信用せざるを得ない自身の境遇を照らし合わせ、鵠沼にほかに選択肢はなかったのだ。



こうして、財団からまんまと10兆円を入手することに成功した”M”だったが、その代償は大きかった。



正体不明だった”M”の素性は明らかとなり、清算人遠藤を通じて、ハロルド・マーカスにもこの情報は伝わる。



M資金を管理する財団の理事長の息子の裏切りは、ハロルド・マーカスの、またはローゼンバーグ財閥の、ひいてはアメリカの日本への影響力を強める格好の材料ともなる。



真舟を助けるためだけに、そのリスクを背負った”M”笹倉暢人に対し、罪悪感を強く感じる真舟。



ロシアを離れようとする暢人や真舟の前に姿を現した高遠美由紀は暢人が最後の橋を渡ってしまったこと、それを防げなかったことをあらためて後悔するばかりで、去っていく暢人を追うことはできなかった。



帰国した美由紀を迎えた笹倉暢彦は美由紀を労わるとともに、暢人のことは忘れるよう告げる。



一方、美由紀の行動から”M”との共謀を疑うとともに、結果としてアメリカからの強い圧力に身を晒すこととなった”市ヶ谷”は美由紀を厳しく尋問するが、美由紀にも語れることは多くなかった。敢えて主張するならば、暢人が語った、M資金の性格の変遷、その本質くらいだった。



「世界が変わる、その始まりの瞬間」を見せると語る暢人に連れられて真舟がやってきたのは、東南アジアの小国、カペラ共和国。



内戦により地雷で足の踏み場もないような荒れた大地と貧困が支配するカペラ共和国の更に寒村ザジーブへやってきた真舟は、そこで暢人らが手がける活動の一端を目の当たりにする。



暢人が買収したアイネアーク・イェーナの開発したPDAを村に運び込んだ暢人らは村人にPDAを配布し、その使い方を教授する。抵抗感を示す村人もあったが、そのユーザビリティの高さから間もなく、懸念も解消されていく。



その姿を眺める真舟は、その村で尊重されている石の真の姿を知る。



「セキ・ユーキット」、それが石の本名。石はこの村の出身だったのだ。





「M資金」という人口に膾炙しつつも、曖昧模糊とした怪しげなものを題材に扱うのは非常に興味がそそられる。



ただし、どうも話の展開が迂遠だし、あまりにも秘密主義が横行するなかで、主人公真舟と同様に、読者に焦燥感というよりも苛立ちを覚えさせる展開。



真舟の素性というか、生い立ちからすれば、そういった秘密主義に引きずり回されても執着せざるを得ないというのは理解できるが、読者までがそれに付き合わなければいけない筋合いはない。



という意味では、この作品、多分に冗長に過ぎているという印象が拭えない。



文庫とはいえ、4巻までいっても殆ど何もわからないに等しい。



別に、Mや石の正体がわかったところで、殆ど物語に大きな影響を与えるものとは言えないだろう。



7巻まであるというこの作品。最後まで付き合えるだろうか?



お薦め度:★★☆☆☆



再読推奨:★★☆☆☆