2012年、70冊目。三上延『ビブリア古書堂の事件手帖2 ~栞子さんと謎めく日常~』
シリーズ2作目。
古書を題材とした軽いミステリ短編集。
今作は、失踪した栞子の母の存在を軸とした話が展開されます。
プロローグ 坂口三千代「クラクラ日記」(文藝春秋)・Ⅰ
ビブリア古書堂2階の栞子の自室に呼ばれた五浦は大量に積み上げられた本に圧倒される。
ワゴン売り用の本として栞子が用意した本のなかには、同じタイトルの本が5冊ほど。「クラクラ日記」
内容を問う五浦に、栞子はため息まじりに回答するのだが・・・。
第一話 アントニィ・バージェス「時計じかけのオレンジ」(ハヤカワ文庫NV)
店を訪ねてきた小菅奈緒は五浦に相談を持ちかける。
奈緒の妹、結衣の書いた読書感想文がもとで家族に蟠りが生じているのだという。
暴力描写の多い「時計じかけのオレンジ」について結衣の書いた読書感想文は悪人への共感も含み、学校関係者や結衣の両親を心配させることになっていたのだ。
しかし、話を聞いた栞子は結衣は「時計じかけのオレンジ」を読んではいないと告げる。
「時計じかけのオレンジ」には旧版と新版があり、内容も異なるのだという。
奈緒を介して結衣を店に呼び出した栞子は・・・。
第二話 福田定一「名言随筆 サラリーマン」(六月社)
五浦と高校時代から大学1年までつきあっていた高坂晶穂は、父の初七日を終えた実家に偶然再会した五浦を呼ぶと、父の遺した古書の買い取りを依頼する。
ビブリア古書堂の指名が故人による者であったことを栞子は訝るが、五浦にもわからない。
栞子とともに晶穂の実家を訪ねた五浦は、初めて晶穂の複雑な家族関係を知る。
愛人の子である晶穂は家族から白い眼で見られていた。
家族が気にするのは、1冊何十万円もするという古書の行方だけ。
古書の査定を始める栞子だったが・・・。
第三話 足塚不二雄「UTOPIA 最後の世界大戦」(鶴書房)
古書の買い取りで店に現れた客は、栞子に足塚不二雄の「UTOPIA」の買い取り値を尋ねる。
百万円を超えるという栞子の回答に唖然とする五浦をよそに、店を出た客は、買い取りの古書を残したまま戻らなかった。
少ないヒントだけを材料に客のもとに辿り着いた栞子を客は歓待した。
かつて同様に、少ないヒントで自宅を突き止めた栞子の母篠川智恵子を髣髴とさせたからだ。
親子二代で藤子不二雄のコレクターだという客、須崎は「UTOPIA 最後の世界大戦」を栞子に示しながら、栞子の母智恵子と「UTOPIA」を巡る話を語った。
智恵子への感謝の意も込めて、手元にある何冊ものコレクションをビブリア古書堂へ言い値で売るという須崎の言葉に栞子は躊躇するが・・・。
エピローグ 坂口三千代「クラクラ日記」・Ⅱ
ワゴンに出そうとする本のなかに、またしても3冊の「クラクラ日記」を五浦は発見する。
また買ったのだという栞子に五浦は理由を尋ねるが、栞子に答えはない。
母智恵子が家を出て行った際に残していった「クラクラ日記」を処分したという栞子の言葉から推理を巡らした五浦は・・・。
今作は前作に比して、古書の薀蓄部分が多く、知的好奇心の充足感という意味では大いに満足のできる作品でした。
「時計じかけのオレンジ」なんかは読んだことはないものの、学生時代に「ペリー・ローダン」シリーズなどのハヤカワ文庫をよく読んでいた頃に、平積みになっている、あの独特の表紙とタイトルに目を引き付けられたことを思いだして、非常に懐かしくなりました。
そのうえで、あの作品が、こんな内容だったとは、いやいや驚きましたし、その新旧版の違いに関する薀蓄など、非常に勉強になりました。
また、この作品の軸の一つである栞子の母智恵子の存在についても、見えてきた部分、そして謎の部分、行動の真意など、なかなかに興味をひかれてしまいます。
単なる善人にも、悪人にも見えず、真相はどのあたりにあるのか等、どうしても今後の展開に期待させられてしまいます。
前作よりも良くなった作品だけに、次回に更に期待です。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★☆☆