Meihigaisha2012年、64冊目。山本弘 『名被害者・一条(仮名)の事件簿』



名探偵ならぬ「名被害者」が事件を呼ぶという逆説的なミステリ(?)作品。



被害者が主人公であるから、名探偵がいなくとも事実は明白。謎があっても放置という短編集ではあるものの、最後にはSF(マンガ)的解決でもって、全ての謎が回収されるという趣向。





第1話 麗子さん(仮名)と血染めのノコギリ



県立高校に通う15歳の女子高生一条(仮名)には秘密があった。



名探偵が事件とひきつけあうかのように、名被害者の能力(?)を有する一条(仮名)も事件を呼ぶのだった。それも殺人(未遂)事件に限って。



名被害者になりやすい娘を心配した母親の勧めで、格闘技道場に通うようになった一条(仮名)は、ある日、師範蛸薬師大二郎(仮名)の妻麗子(仮名)から電話でアルバイトの申し出を受ける。



あからさまに怪しいクーラーボックスとゴルフバッグを抱えて山に向かう麗子(仮名)の姿に、一条(仮名)は「いつものアレ」であることを察してしまう。



生には特に執着心のない一条(仮名)だが・・・。





第2話 雲母坂部長(仮名)と壁を登る鍵



ミステリ研に属する一条(仮名)は得意気に語る部長雲母坂準(仮名)の小説のプロットを聞かされるが、その陳腐さを次々と論破していく。



小説家になることを夢見る雲母坂(仮名)は傷心するが、気のない応援をする一条(仮名)に励まされ、9月1日のミステリ新人賞に向けて小説作りに取り組む。



夏休みが終わり2学期に入って、雲母坂(仮名)の投稿作品を読まされた一条(仮名)はそのおそるべき下らなさと既知のトリックに唖然とするとともに、あらためて雲母坂(仮名)に小説家の才能がないことを説教するのだった。



傷心のあまり9月末に失踪した雲母坂(仮名)は10月に入り、一条(仮名)に電話してくると、秘かに呼び出しをかける。



これは「いつものアレ」かと覚った一条(仮名)だったが・・・。





第3話 ダチイエローさん(仮名)と大きな冷凍庫



宅配便だと思ってドアを開けた一条(仮名)はドアを開けた途端に、特撮番組「友情戦隊ダチレンジャー」のダチイエローのお面をつけた男に押し倒されてしまう。



男は一条(仮名)の口にクロロホルムに浸したハンカチを押し当てるが、そんなもので意識を失うはずもない。



一条(仮名)に問われるままに、ダチイエロー(仮名)は自身がストーカーであることを告白し、美少女たる一条(仮名)の成長を憂うあまりに、殺害計画を企てたことを語る。



生に執着しない一条(仮名)は美少女と誉めそやされたことや、その動機、殺害の手法に納得し、ついていくことにするのだが・・・。





第4話 白1号さん(仮名)と活きのいいタコ



日曜の夜、通り魔に襲いかかられた一条(仮名)だったが、手にしたフランスパンで撃退する。



3日前に野球部のキャプテン八反畑健児(仮名)が同様に白覆面の男にバットで襲われるという事件があったばかりのことだった。



翌日、登校した一条(仮名)に話しかけてきたアニメオタク水鶏橋剛(仮名)は一条(仮名)に貸した『そら☆ねこ』というデタラメアニメの感想を聞くが、一条(仮名)はうんざりするばかりだった。



間もなく、八反畑(仮名)作によるイラストから、犯人が『そら☆ねこ』の登場人物、銀河クルクル団の扮装をしていたことが判明する。



いつものように、クラス担任の艾谷らは「残酷な犯罪が多いのは、若者がアニメやゲームにかぶれているからだ」と声高に語るが、一条(仮名)は冷静に、その主張が統計上否定されていることを示す。



一方、水鶏橋(仮名)の扱いに困っていた一条(仮名)だったが、友人椥辻奈々(仮名)からクラスメイト太秦守矢(仮名)が『そら☆ねこ』の作者ホッパラ宙作の息子であることを告げられ、一計を案じる。



太秦(仮名)の弱みに付け込み、水鶏橋(仮名)をホッパラ宙作の仕事場に案内させるのだが、その帰り道・・・。





第5話 カマンザドオリさん(仮名)と第九次侵略計画



ミステリ研の部室で雲母坂部長(仮名)がパソコンで聴いていたのは安居院浩二(仮名)のどうしようもない歌。



なぜか雲母坂(仮名)の下駄箱に入っていたのだという。



その謎に立ち向かおうとする雲母坂(仮名)はいつものように強引に秘められたメッセージを探ろうとし、一条(仮名)にあらためて窘められる。



そんな雲母坂(仮名)が小説家に続いて思い描く未来像はライトノベル作家だ。しかし、雲母坂(仮名)が思いつくようなキャラクタは既に世に出ており、新奇性に乏しい。



落ち込む雲母坂(仮名)だったが、そんな雲母坂(仮名)に一条(仮名)は一つのアイデアを示すのだが、雲母坂(仮名)には少し刺激が強すぎた。



バレンタインデー当日、クラスに戻った一条(仮名)は淀美豆彩香(仮名)に呼び止められ、突然頬の電気抵抗を測ると、友チョコを差し出した。



学校帰り、友人の椥辻奈々(仮名)にアルバイトに誘われる。



深夜番組『真夜中みすてりヤンヤンヤン』への投稿ビデオを撮影しようというのだ。



長く閉店になっているファミレス(ダチイエロー(仮名)を冷凍庫に残したままになっているファミレス。)に出没する幽霊を撮影しようというのだ。



幽霊など怖くもない一条(仮名)にすれば、そんな人気のないところへ誘う奈々(仮名)は「いつものアレ」を目論んでいるとしか思えないのだった。



そして・・・。





山本弘がミステリに挑戦か、と思いきや期待(?)は大いに裏切られる。



というよりも、なんだろう、いろいろ趣味的に思うところを小説という形態で表現してしまったというほうがいいのかもしれない。



それは最近のミステリの傾向であったり、アニメについてであったり、ラノベについて、ということかもしれない。



作品の完成度がどうかといえば疑問の余地は多分にあるものの、そういった趣味に乗っかった愚痴、呆れ等は個人的には多分に面白かった。そういう意味では小説というよりも、同好の士のエッセイを読んでいるような楽しさかもしれない。



とはいえ、ミステリ調でありながら解決編のないままに放散していくストーリーを最後の一編がまとめている。まぁ、とんでもSF的手法ではあるが、それこそが作者のフィールドであり、「あぁ、こうまとめたか」と強引さに呆れつつも、納得。



こんな趣味的な作品であるにも関わらず、アニメ化を狙っているのか、次のようなセリフがある。



「声も仮面をかぶって騎士団を指揮していたり、狼といっしょに旅をしていそうにかっこいい」(福山潤?)。



「私の声は「北海道のファミレスの屋根裏に住んでいそう」なんだそうです」(広橋涼)



お奨め度:★★★☆☆



再読推奨:★☆☆☆☆