Start2013年、28冊目。中山七里『スタート!』



本格派の作品を撮る巨匠大森の遺作撮影を巡って発生する殺人事件とその完成までの助監督奮闘記。



ミステリと青春ものの混じったような作品。





助監督を務める宮藤映一は下らないドラマの焼き直し映画ばかりの仕事に飽き飽きし、失意の日々をおくっていた。



そんなある日、かかってきた電話は恩師でもある大森宗俊監督からの招集、大森組再結集の連絡だった。



海外からも評価される大森だったが、病躯の高齢は今回の作品が遺作となることも最初から予感された。



高額の資金を要する大森映画は、今回政策委員会方式が採られるが、主導権を握った帝都テレビが大森組に試練を投げかける。



早々に、スタッフ、キャストの見直しが帝都テレビから迫られる。



激高するスタッフや大森だったが、大森の盟友である五社和夫にも資金を集めるには帝都テレビらを引き入れるしかなく、苦渋の選択だったのだ。



ヒロイン役には最近スキャンダルを呼びつつも帝都テレビの看板である山下マキが起用され、チーフ助監督には大森組の平岡が排除され、帝都テレビのディレクター吉崎徹が起用されることになった。



撮影の最初から若手と重鎮のコンビネーションはうまくいかないが、大森の妥協しない指導で少しずつ、撮影は回り始める。



しかし、問題は撮影の外部、帝都テレビのプロデューサー曽根と吉崎だ。



大森は曽根を撮影に一切関与させず、吉崎にもメイキングの撮影を命じることで、直接的な関与を封じ込める。



一方、勝手に(吉崎により)脚本を直された脚本家六車圭輔は現場に乗り込むと、大森に食って掛かる。六車より一枚上手の大森は六車を逆に焚き付け、帝都テレビの意向を踏まえつつ、脚本の改善を図るよう求め、六車はそれに応えた。



なんとか少しずつ進みそうになったある日、ビジコンをながめていた曽根の頭上からライトが落下し、曽根は全治2ヵ月の重傷を負い、退場する。



警視庁捜査一課の宮藤賢次は映一の弟だ。



警察は事件性なしとみながらも、賢次はそうではなかった。映一もまた都合の良い曽根の退場に、内輪の何者かの犯行とみなくもなかったのだ。しかし、証拠は何もない。



更に、映画の脚本がYoutubeに流出していることが発覚する。まさに内部の犯行だ。



その脚本をみて障碍者支援団体の支持者と名乗る弁護士が撮影に抗議するが、大森は相手にしない。



次には、撮影された映像までが流出してしまう。



誰もが疑心暗鬼になるなか、次は事故が発生する。



山下マキに落下するダミーの木材のなかに本物が混じっていたのだ。



怪我を負うマキだったが、それをおして撮影に復帰する。



相次ぐ事故に警察も動き始め、賢次も映一に現場をよく見るように告げる。



アクシデント続きではあったが、熱のこもった撮影は続いた。しかし、完璧主義の大森の映画は資金を少しずつ食い潰し、資金不足が明確になっていく。



そんなとき、起きてこないチーフ助監督吉崎徹をトレーラーに起こしに行った映一は吉崎が胸に登山ナイフを突き刺し、死んでいるのを見る。



遂に殺人事件まで発生し、映画公開に黄色信号がともる。



そんななかでも、映画の完成に向けて撮影が進められるが、とうとう大森が倒れてしまう。



病院にかつぎこまれた大森は、残りの撮影を映一に託す。



不安を抱え、逡巡を続ける映一だったが、周囲の励ましもあって・・・。





登場人物はそれなりに成熟した大人だが、映画にかける熱意をもち、暑苦しい青春ものの匂いをぷんぷんさせ、青春もの好きとしては大いに楽しませてもらえる。



この作品は途中、事故や殺人事件が絡み、ミステリの色彩を纏わせるが、やや蛇足の感もある。暑い青春もの一本で良かったような気がしてならない。



即ち、(登場人物同士の葛藤はあれど)ある程度、単純明快なストーリーを身上とする青春ものを複雑化させてしまったことで、深みを感じるよりも夾雑物を含む舌触りの悪さを感じてしまった。



登場人物はそれぞれ魅力的で、悪者(曽根)は悪者っぽくって良いし、その他も一癖も二癖もある人物として描かれ、作品に引き込まれる。



やや吉崎が小粒だが、これは殺人事件の被害者としての装置性しかなかったからなのかもしれない。



そういったやや不満な点も残るものの、それぞれ歳は食っているものの、青春ものとして十分楽しめる作品だった。



お奨め度:★★★☆☆



再読推奨:★★★★☆