2013年、16冊目。有川浩 『旅猫リポート』
拾われた野良猫”ナナ”が飼い主悟と別れるために旅する物語。
Pre-Report 僕たちが旅に出る前のこと
銀色のワゴンのボンネットがお気に入りの三毛のような野良猫(雄)。
これを気に入ったワゴンの持ち主宮脇悟は猫にエサを与えたり、かまっていたある日、猫は交通事故に遭ってしまう。
助けを求める大声に応えた悟は猫を病院へ連れて行き、結局、その猫を飼うことにする。
猫につけられた名前は”ナナ”。
少年時代に悟の飼っていた猫”ハチ”に似た猫の”七”の形をした尻尾にちなんでつけられた名だ。
猫好きの悟とナナは相性も良く、幸せな5年を過ごすが・・・。
Report-01 コースケ
小学時代の幼なじみ宮脇悟からのメールは、事情があり、飼えなくなってしまったので、猫を貰ってほしいというもの。
横暴な父に逆らうこともできず、愛想を尽かされて妻にも逃げられた澤田幸介は、ナナを見て驚く。
ハチとそっくりだったからだ。
小学校時代、団地の案内板の下に捨てられていた子猫を拾おうとした幸介だったが、父親に猛反対されてしまう。悟の突拍子もないアイデアに振り回されるが、結局は捨て猫は悟が飼い、ハチと名付けられる。
悟の家でハチと触れ合う幸介は、父の態度が軟化しているのを見て、次こそ自分の猫をと望むが、そんな矢先、交通事故で悟の両親が亡くなってしまう。
親戚との縁の薄い悟は叔母に引き取られ、転校することになってしまう。
猫を連れていけない悟に、幸介はハチを引き取ることを申し出るが・・・。
Report-02 ヨシミネ
中学時代の友人、宮脇悟から猫を貰ってほしいと持ちかけられた吉峯。
両親からネグレクトされるように、祖母のもとに身を寄せることになった吉峯を救ったのが悟だった。
両親を亡くしたという悟の境遇に同情する一方、吉峯もまた両親から愛されず、重荷扱いされるなど、不幸のなかにあったが、そんな吉峯を悟は励ましたのだ。
農家を営む吉峯の家には、拾ったばかりの子猫チャトランがいた。
悟と別れたくないナナは一計を案じ・・・。
Report-03 スギとチカコ
高校時代の友人宮脇悟から猫を貰ってほしいとの連絡がある。
ペット可のペンションを営む杉と千佳子のところへやってくる悟を迎えるにあたって、杉の胸中は複雑だ。
登校途中に犬を救ったことをきっかけに親しくなった三人。
そんななか、猫好きで話の合う悟と千佳子の仲が急接近するのに危機感を感じた杉は暗に悟を牽制するなど、現在でこそ千佳子と夫婦であるものの、悟に対しては後ろめたい思いを抱えていた。
そんな主人(杉)の胸中を察して、飼い犬の虎丸は初手から悟への敵愾心を露わにし、ナナにも攻撃的だ。
そんな杉や虎丸の思いを、年上の猫、モモがナナに語って・・・。
Report-3.5 最後の旅
幸介にも吉峯にも杉・千佳子にも貰われることなく、悟とナナの旅は最後に近づく。
フェリーで北海道にわたった悟とナナは北海道の自然を満喫し、悟の両親の墓参りに詣でる。
そして、二人の旅の最後で見つけた絶景は・・・。
Report-04 ノリコ
物心がつかない頃に母を亡くし、姉が親がわりだった香島法子にとって、姉が亡くなったときに甥を引き取るのは当然の選択だった。
しかし、人付き合いのうまくない法子は、最初から悟とうまくやることができず、言わなくてもいい、悟の出生の秘密を語ってしまう。
判事という仕事柄、官舎に入る法子は、悟と一緒に愛猫ハチを引き取ることはできなかったが、今やそれを後悔していた。
余命1年という悟のため、判事を辞め、弁護士に転身した法子はペット可の物件に引っ越し、悟とナナを迎え入れるが、猫が苦手な法子はナナとうまくやることができない。
少しずつ関係ができてくるなか、悟の病院通い・入院が長くなり、とうとうナナを残して最後の入院に入ってしまう。
スキをみて逃げ出したナナは、再び野良猫となって、病院の庭に散歩に出てくる悟を見舞うのだが・・・。
Last-Report
悟の葬式後、悟から手紙を貰った友人らが訪ねてくる。
近況を語る友人らは悟、そしてナナを通じて、交流を始めるが・・・。
それから何年かして、法子が三毛猫を拾ってくる。
そして・・・。
単純化すれば、悟が愛猫”ナナ”を里子に出すために訪れる先々で語られる、”ナナ”を飼うきっかけともなった先代”ハチ”の回想録といった感じか。
勿論、”ハチ”本猫というよりも、”ハチ”を介在させた悟と友人たちとの交流だが・・・。
途中で、悟が”ナナ”を手放さなければならない理由(余命1年)が明かされるが、それほど悲壮感はない。
死にゆく登場人物ということに焦点を当てるためか、この話の登場人物のなかで唯一、主観が現れてこない。
他人からみてこうだった、ああだったと回想されるかのように・・・。
主要人物の死を中心に据える物語は比較的「お涙頂戴」的な話になりがちだが、この作品はそれほどそういった趣向とはなっておらず、比較的淡々とした感じ。
それが良いのか悪いのか、人によって好みは別れるだろう。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★☆☆