Syailock2013年、21冊目。池井戸潤 『シャイロックの子供たち』



ヴェニスの商人の登場人物「シャイロック」に名を借りた、昇進に血道を上げて人間性を失っていく銀行員を描く連作短編。





第一話 歯車じゃない



東京第一銀行長原支店の副支店長古川一夫。



高卒の乙採用の古川は大卒の甲採用を見返すべく必死の我慢で副支店長にまでなった。あとは支店長まで登りつめるのみ。



そんな大事な勝負の年であるにもかかわらず、甲採用の部下小山徹は古川を小馬鹿にするような態度を示す。自身のこれまでを否定するかのような小山の言動に耐えかねた古川はつい小山に手を出してしまうが・・・。





第二話 傷心家族



入行以来同期トップと目される友野裕だったが、選抜研修に選ばれながら体調を崩し、不参加。それ以降、昇進レースからこぼれていってしまう。



結婚し、子どももできた友野は2年以上も課長代理への昇格が遅れていることに焦燥感をおぼえる。一つ後輩の同僚滝野真は同期トップで課長代理に昇格し、すでに友野は追い抜かれていた。



実績を挙げなければならない友野にとって、頼みの綱の融資案件だったが、決まりかけた融資は競合する銀行により低利を示されたことで社長が意思を翻し・・・。





第三話 みにくいアヒルの子



営業終了後、現金百万円が紛失していることが発覚する。



捜索のなか、百万円の帯封が発見されたのは営業課の北川愛理のロッカー。



父が倒れたことで給与の半分を実家にいれている愛理に疑いの目が向けられるが、愛理には覚えがない。



資産家である同僚の三木哲夫とつきあっていることへの嫉妬からの嫌がらせともみられたが・・・。





第四話 シーソーゲーム



業務課の課長代理遠藤拓治は3つ年下の滝野真と比較され、副支店長古川から支店のお荷物として面罵され、心身を病んでいく。



課長の鹿島は遠藤の努力がわかる一方、結果が出ない以上、なかなか助けることもできない。



そんななか、これまでの努力が実り、大きな取引ができそうだと遠藤が報告してくるが・・・。





第五話 人体模型



丸の内にある人事部坂井寛は長原支店の一人の課長代理の経歴を眺め、その男を知ろうとしていた。



正義を貫くため、上司との折り合いが悪く、不遇をかこっていた男。



長原支店の営業課課長代理西木雅博はそんな男のように見えた。



その西木が失踪したのだ。





第六話 キンセラの季節



かつて高校球児だった竹本直樹だったが、現在は長原支店の融資課課長代理。



西木が失踪したことで、営業課の課長代理も兼務することになった竹本は西木の机に残された写真から、西木の失踪が自発的なものでないと思うようになる。



机に残された品物から推理を巡らした竹本は・・・。





第七話 銀行レース



検査部の黒田道春は長原支店への検査に立ち入る。



早々、黒田に気安く話しかける支店長の九条だったが、黒田に見覚えはなかった。



検査に入った黒田は、支店が隠してきた百万円紛失・発見の報告に虚偽があることに気付くが・・・。





第八話 下町蜃気楼



ケアレスミスで古川に叱責を受ける融資課の新人田端洋司は長原支店に愛想を尽かし、外資系企業への転職を計画していた。



そんなとき、営業課の北川愛理から言付かった書類は、滝野真の担当企業江島工業のものだった。



外出したついでに届けようとした田端だったが、その企業に実態はなかった。



不審に思った田端と愛理が調べていくと・・・。





第九話 ヒーローの食卓



事態の発覚後、古川らの前に顔を出すこともなく家に帰った滝野真は何事もなかったかのように家族と食卓を囲んでいた。



祖父母の話をする息子の言葉に、あらためて自身が反発してきた父の言葉を思い出した滝野は、あれだけ反発していた父の言葉に従って自身の違和感を殺してきたことに思い至る。



そして、出世至上主義できた自身が足を踏み外すこととなった事件の記憶を遡っていた。





第十話 晴子の夏



西木の家族に、西木の遺品を運ぶ役目を担わされたのは派遣の晴子だった。



未亡人だから?と勘繰る晴子は、自身の夫彰彦が、銀行合併の業務に押し潰され自殺した日のことを回想する。



西木の家族とどんな言葉を交わせばいいのかに怯えながら・・・。





面白い(?)が、先日『七つの会議』を読んだ後なばかりに、かなり雰囲気の類似性を感じさせます。



また、真相が安直に過ぎるためやや違和感も感じます。



加えて、真相に迫る各短編の主人公たちも、小説の主人公っぽくなく、結局のところ日和ってしまう等身大の姿で描かれるため、納得感はありつつも、ややモヤモヤしたものが腹に残る印象は拭えません。何もモヤモヤしたくて小説を読んでいるわけではありませんから・・・。



最後の短編については、事件解決後の話になりますが、どうも蛇足の感があります。



それまでの登場人物が事後を語るなら兎に角、初出の登場人物をストーリーの大筋が定まった後に描かれても、感情移入はしにくいですね。



お奨め度:★★★☆☆



再読推奨:★★☆☆☆