Mokuji2013年、27冊目。真山仁 『黙示』



『プライド』で描かれた二作品(「一俵の重み」と「ミツバチが消えた夏」)の登場人物たちを配した続編のような作品。



ただし、テーマは農薬とGMO(遺伝子組換作物)。





静岡県で行われた養蜂教室で事故が起こる。



農薬を撒いていたラジコンヘリが操縦を乱し、教室の子どもらの上に農薬をまき散らしたのだ。



養蜂教室の講師を務めていた代田悠介はその惨状にかつて見てきた戦場を重ね合わせる。





日本第三位の農薬メーカー大泉農創で農薬の研究開発を進めるアグリ・サイエンス研究開発センター第一研究室次長の平井宣顕は農薬の安全性を巡る社内会議の直後、妻からの電話を受ける。



息子顕浩が養蜂教室の事故で農薬を浴びて重態なのだという。



慌てて病院に駆け付けた平井は、子どもらが浴びた農薬が自身の開発したネオニコチノイド系農薬”ピンポイント”であったこともあって、病院での処置に貢献する。



その後、事故の取材を受け、テレビに出演した代田はつい「農薬の恐怖は放射能以上」と口走ってしまう。



代田は直後、己の軽率な発言を悔やむが、取り返しはつかない。



むしろ、周囲は代田の発言は農薬被害に光をあてたものとして賞賛し、さらに運動を盛り上げようとする。





同時期、放射能被害の認められる米の出荷停止を農家に告げる役割を担い、空しさを感じていた農林水産省の秋田一恵は、管轄外ではあったものの農薬、そして代田に興味を抱くと、福島県で行われた代田の養蜂教室に参加するのだった。



農林水産大臣若森からTPP参加に向けて強化する食料戦略室のスタッフとなる辞令を受けた秋田は切れ者と評される印旛とともに農林水産省の枠を壊すべく活動を始める。



秋田は案内された長野にある植物工場を視察して、農業の新たな可能性を知っていく。



ジャパン・フード・ヴァレイと名付けられた植物工場を経済産業省とともに淡路島に建設することが決定する。



そして、そこのCEOにはあの米野太郎が就任することが決まる。



更に、世界における食料危機の実態を知り、日本における危機感のなさに驚く一方、アメリカ発のGMOが世界を変え始める予兆に不安を感じ始める。



淡路島でのJFV創設に向けて着々と手を打ち、夢を語る米野にあらためて羨望を感じる秋田だったが、GMOのトリニテイ社の許容など米野のやり方に少しずつ疑問も感じ始めるのだった。





突然、社長直々にCSR室長に就任することを求められた平井は困惑し、固辞するが、社長がそれを撤回することはない。



研究だけの会社生活で自信がなかったことに加え、更なる安全性の高い農薬の開発という平井の希望も叶わなくなるからだ。



更に、社長の信望の厚い専務奈良橋がアメリカに渡り、提携先トリニティ社との間でGMO開発の提携を進め、農薬開発から大泉農創が手を引くとの噂を知り、平井は自身の異動と関連づけて消沈する。



失意の平井は散歩中に出会う女性、FPを職業とする結城さおりに魅かれ、そのかかわりのなかで、癒されていく。



農薬の開発に自信を持ちながらも、あらためて自身の役割を見直すようになった平井はCSR室長として前向きに取り組んでいくことを選ぶ。





一方、時の人となった代田の周囲には、中途半端な知恵を振りかざす信奉者土屋宏美や政治家が集まってくる。



”くらしの党”の早乙女麗子もその一人だった。



GMOを日本へ導入しようとするトリニテイ社の代理人にでもなったかのような早乙女は農薬の恐怖を煽ってGMO導入を画策していたのだ。



強引な早乙女の要請に従い、シンポジウム「食の安全と農業を考える」のパネルディスカッションに参加した代田は、同じくパネリストとして平井や秋田と顔を合わせる。



過度に危機感を煽り、農薬を誹謗し、GMOを推奨しようとする早乙女の言葉に対し、誰も追従することはなく、代田、平井、秋田ともに真摯に答えていく。彼らはそれぞれの立場ながらに、互いの発言を尊重し、評価する。



そんななか、早乙女はJFVでトリニテイ社が政府と共同で国内向けGMOの開発を進めようとしていることを口走ってしまう。



そして・・・。





話自体は非常に興味深く、好奇心を満足させるもの。



確かにいろいろな立場の人間があって、それぞれの主張もあるのはよくわかる。実際、自分の良く知る範囲のことについて、マスコミ等で垂れ流される情報がいかにいい加減かを知ってしまうと、同様に何事についても一面的な見方が危ないことに気付かされる。



とはいえ、それぞれの情報を能動的に入手していくのはやはり大変で、どうしてもマスコミの主張に流されてしまうのが実状。



そういう意味で、こういった啓発的な内容が、多面的に取り上げられる作品は、完全に信用するものでなくとも、考えるきっかけとして、非常に有意義なのかと思ってしまう。



小説としても、飽きさせず最後まで読ませるが、ややラストに唐突感があり、どうも消化不良のまま終わってしまった感が残念。



魅力的なキャラクターである米野太郎の活躍の場が少なかったことも残念。



もう少し続きが読みたい作品だ。



お奨め度:★★★☆☆



再読推奨:★★★☆☆